大腸がん検診から考える内視鏡検査の難しさ、帝京大学の濱島ちさと教授に聞く Vol.4

優秀な便潜血検査との違いとは、欧州では「やってみたら思ったほどでもない」という結果も

濱島ちさと(はましま・ちさと)氏。帝京大学医療技術学部看護学科教授(保健医療政策分野)。(写真:編集部)
濱島ちさと(はましま・ちさと)氏。帝京大学医療技術学部看護学科教授(保健医療政策分野)。(写真:編集部)

 「直接見られるのだから、大腸内視鏡の方が大腸がん検診としては優秀」。そう考える人は多いかもしれない。ただ、胃がん検診の内視鏡と同じように、専門家の存在や受けやすさなどの課題もあり、単純に有効な検査として手放しで評価できるとは限らない。受けやすさの点からは、長く行われてきた便潜血検査の有効性が勝ってくる。実際、欧州の研究では「やってみたら思ったほどでもない」という結果が出ている。引き続き帝京大学医療技術学部看護学科教授の濱島ちさと氏に、大腸がん検診の課題などを聞いた。(聞き手/PREVONO編集長 星 良孝)

──大腸がん検診でも、内視鏡を受けてもらうまでのハードルは低くはない。

濱島氏:胃の内視鏡と同じように、大腸内視鏡でも同様です。内視鏡は負担は大きいのです。

 それに対していわゆる「検便」、便潜血検査は手軽に受けられます。

 例えば、海外だと便潜血検査のための採便が1回で済む運用もあり、郵送も行われています。

 「1回、郵送」と、「前日から下剤を飲んで内視鏡検査を受ける」では、受け手の負担感は全く違います。

 受診する側の受け入れやすさが異なります。

──内視鏡はやれば詳しい結果を得られるが、やってもらうのが難しい。

濱島氏:検診は医療技術の優劣だけでは決まらないわけです。うまく回るかどうかが重要になります。

 大腸内視鏡は「直接腸の内部を見られる」ので効果的に見えます。実際、受けた人に限れば強みだと考えられます。しかし、受けてもらう、受けた後のフォローをするなども含めた「プログラム」として考えると、その検診に割り当てられた人たち全体、「受けるはずだった人も含めて」評価することになります。ここで問題になるのが参加率です。

 便潜血検査は2年おきに受けるとしたら、10年で5回受ける必要があります。一方、大腸内視鏡は10年に1回でよいと言われることもあります。

 しかし、いざあなたは内視鏡を受けてくださいねと言われても、その人が内視鏡を実際に受けてくれるかというと、少なくなります。受診率が低くなれば、内視鏡の技術がいくら優れていても、がんを早期発見する効果は打ち消されてしまいます。

──内視鏡の効果が思ったよりも見えづらくなり得る。

濱島氏:内視鏡の受診が進みづらい一方で、便潜血検査のほうは複数回きちんと受ける人が一定数いる。結局、最終的に見つかるがんの数がそれほど変わらず、死亡率の減少効果も大きく変わらないとなる可能性があります。

 ABC分類もそうですし、大腸内視鏡のような新しい選択肢もそうですが、「やってみたら思ったほどでもない」という結果が出てくることがあります。

 そういうネガティブな結果は意外と知られていません。

──課題があるならばうまくいくように改善する必要がある。

濱島氏:検診は「やればいい」ではありません。利益と不利益、そして現実に回るかどうかのバランスが問われる。だから本来は、うまくいかなかった理由まで含めて議論されるべきです。

──その辺りの研究は進んでいる?

濱島氏:大腸内視鏡について欧州で10年間フォローした研究の中間結果が報告されています。そこでは、大腸内視鏡の有効性は、便潜血検査よりも有意に優れているとは言えないという内容になりました。参加率の点で課題が残ったのです。

 北欧では本来15年で評価する予定で、10年はあくまで途中経過という位置づけで、スペインの研究は当初10年で結論を出す見通しでしたが、もう少し追跡して結果を見る方針になりました。

 日本でも大腸内視鏡の効果を検証するための小規模研究が進んでいます。

 これまでの状況を見る限り、内視鏡は精密検査としては優れた方法であっても、それを住民検診や職域検診のような「プログラム」として回すのは相当難しいのではないかと読み取ることができます。

 この辺りは、今回、大腸がん検診ガイドラインを作ったときの私の率直な印象です。

 もっとも完全に諦めきれない空気はあります。

──胃の内視鏡の実力はどうか。

濱島氏:胃がんのほうは内視鏡検診が始まり、いまは胃X線検査と並立しています。

 さまざまな研究が出てきている今こそ、胃がん検診の中でそれぞれの検査をどう位置づけるか考え直す時期に来ているのではないかと思っています。

 検診は制度ですから、現場で回る設計となることが重要なのです。(続く)

プロフィール

濱島ちさと(はましま・ちさと)氏

濱島ちさと(はましま・ちさと)氏。帝京大学医療技術学部看護学科教授(保健医療政策分野)。(写真:編集部)
濱島ちさと(はましま・ちさと)氏。帝京大学医療技術学部看護学科教授(保健医療政策分野)。(写真:編集部)

帝京大学医療技術学部看護学科教授(保健医療政策分野)。帝京大学大学院医療データサイエンスプログラム兼任教授。医学博士(岩手医科大学、公衆衛生学)。専門分野は、がん検診、医療技術評価(HTA)、臨床疫学、公衆衛生学。1983年に岩手医科大学医学部を卒業後、同大学大学院で公衆衛生学を専攻し博士課程を修了。癌研究会附属病院検診センター医員を経て、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室助手、聖マリアンナ医科大学予防医学教室専任講師などを歴任。2003年より国立がんセンター(のち国立がん研究センター)で検診評価・がん情報分野の要職を担い、がん予防・検診研究センター/社会と健康研究センターにおいて検診評価研究室長などを務めた。2018年から現職。国立がん研究センターのがん検診ガイドライン作成に2003年から関わり、2018年からは文献レビュー委員会委員長としてガイドライン作成の基盤整備にも携わる。IARC(国際がん研究機関)のハンドブック作成(乳がん・大腸がん・子宮頸がん領域)等に参画。学会活動では、日本消化器がん検診学会理事などを務め、第59回日本消化器がん検診学会大会(JDDW2021)では大会長を務めた。日本学術会議連携会員。

参考文献

Bretthauer M, Løberg M, Wieszczy P, Kalager M, Emilsson L, Garborg K, Rupinski M, Dekker E, Spaander M, Bugajski M, Holme Ø, Zauber AG, Pilonis ND, Mroz A, Kuipers EJ, Shi J, Hernán MA, Adami HO, Regula J, Hoff G, Kaminski MF; NordICC Study Group. Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death. N Engl J Med. 2022 Oct 27;387(17):1547-1556. doi: 10.1056/NEJMoa2208375. Epub 2022 Oct 9. PMID: 36214590.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36214590/

Castells A, Quintero E, Bujanda L, Castán-Cameo S, Cubiella J, Díaz-Tasende J, Lanas Á, Ono A, Serra-Burriel M, Frías-Arrocha E, Hernández C, Jover R, Andreu M, Carballo F, Morillas JD, Salas D, Almazán R, Alonso-Abreu I, Banales JM, Hernández V, Portillo I, Vanaclocha-Espí M, de la Vega M; COLONPREV study investigators. Effect of invitation to colonoscopy versus faecal immunochemical test screening on colorectal cancer mortality (COLONPREV): a pragmatic, randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet. 2025 Apr 12;405(10486):1231-1239. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00145-X. Epub 2025 Mar 27. Erratum in: Lancet. 2025 Apr 12;405(10486):1230. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00687-7. PMID: 40158525.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40158525/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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