多発性骨髄腫の患者について、診断時の情報だけでなく、その後の血液検査や治療歴も活用し、AIで将来の生存期間を予測する新たな仕組みが開発された。
東京大学と理化学研究所などの研究グループが2026年9月に発表した。
治療中に増える情報も予測に活用
AIは遺伝子発現データや血液検査値の変化、治療歴を組み合わせて、多発性骨髄腫の予後を予測した。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 多発性骨髄腫では治療が長期に及び、その間に血液検査や治療歴など新しい情報が蓄積される。
- 研究グループは、診断後1~18カ月の各時点までの情報を使い、その後の生存期間をAIで予測する方法を開発した。
- 遺伝子発現、10種類の検査値の推移、治療歴を深層学習で組み合わせ、治療中の情報を予測に反映できるようにした。
東京大学の発表によると、多発性骨髄腫は、免疫を担う形質細胞ががん化し、骨髄で異常に増える血液がんの一つ。患者によって経過には大きな幅があり、新たに診断された患者の全生存期間は数カ月から10年以上に及ぶという。
多発性骨髄腫の治療は、最初の治療だけで終わるとは限らず、移植を行うかどうかの判断や、その後の治療、維持療法など、数カ月から数年にわたって続く。その間には血液検査の結果や使用した薬など、新しい情報が次々と加わる。一方、研究グループによると、従来の予後予測モデルの多くは、診断時など一つの時点の情報を基に作られていた。そのため、治療が進んで新たな検査結果が得られても、それを使って予測を更新しにくいという課題があった。
そこで研究グループは、診断後1~18カ月の各時点までに得られた情報を取り込み、AIでその時点から先の生存期間を予測する方法を開発した。
AIには、診断時の遺伝子発現データに加え、10種類の検査値が時間とともにどう変化したか、どのような治療を受けてきたかという情報を取り込んだ。遺伝子発現データを、研究グループが開発してきた「DeepInsight」という方法で画像のような形に変換し、これらの情報を深層学習でまとめて解析した。
治療経過を加えると予測性能が向上
多発性骨髄腫では、治療中の血液検査値の推移や治療歴をAIで解析し、予後予測に生かす研究が進められている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 752人の患者データで検証したところ、診断時の情報だけを使う従来手法より高い予測性能を示した。
- 診断後1~18カ月の各時点で、生存リスクが高い患者群と低い患者群を分けられることも確認された。
- 現時点では治療方針を直接決める段階ではなく、実臨床での前向きな検証が今後必要とされる。
研究グループは、多発性骨髄腫の研究プロジェクト「CoMMpass」で公開されている752人の患者データを使い、このAIによる予測方法の性能を確かめた。
その結果、診断時の初期情報だけを使う従来の方法に比べ、その時点から先の生存期間をより高い予測性能を示したという。また、診断後1~18カ月の各時点で、生存リスクが高い患者群と低い患者群を分けることができ、治療経過やその後の検査情報を加えることで予測性能が高まることも確認された。
さらに、AIによる予測に使われた特徴を詳しく調べると、たんぱく質の分解に関わる「ユビキチン・プロテアソーム」や、細胞内の小胞体で起こるストレス反応、インターフェロンαへの反応など、多発性骨髄腫で既に知られている生物学的な仕組みと一致する特徴が見つかったとしている。
今回開発したAIを用いた予測方法は、現時点で患者の治療方針を直接決めるために使える段階ではない。東京大学の発表では、今後、実際の医療現場と連携して患者データを蓄積し、さまざまな治療方法や検査体制でも予測が有効かを前向きに確かめていくとしている。
多発性骨髄腫のように治療が長期間に及ぶ病気では、診断時の情報だけでなく、その後の検査結果や治療経過も重要な判断材料となる。治療の途中で蓄積される情報を予測に取り込めるようになれば、患者ごとにその時点の状態を反映した予後評価につながる可能性がある。