研究

5-ALAで光らない膀胱がんとは

高知大学が「見逃される病変」の特徴を報告

膀胱の内部構造を示した断面イラスト。
膀胱の構造を示す模式図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 PREVONOではコラムとして、5-ALA(5-アミノレブリン酸)を用いたがんリスク検査や、がんを「光らせて見つける」医療応用について紹介した。

 今回、高知大学の研究グループから、その5-ALAを使った光線力学診断に関する新しい報告が示された。

 5-ALAを用いた光線力学診断は、膀胱がんを赤く光らせて見つけやすくする技術として、医療現場で使われてきた。一方で、がんであっても赤く光らない病変が一部にある。高知大学医学部泌尿器科学講座の研究グループは、その「光らない膀胱がん」の特徴を調べ、診断精度を高める手がかりを示した。

光らせて見つける診断で、見えにくい病変もある

膀胱内視鏡検査と膀胱内の病変を示した模式図。
膀胱内視鏡による検査・診断を示すイメージ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 5-ALAを使って膀胱がんを赤く光らせる診断でも、一部に赤く光らない病変がある。
  • 光線力学診断は小さな病変や平らな病変を見つけやすくする一方、偽陰性病変の見逃しが課題となる。
  • 光らない病変の特徴を知ることは、5-ALAを用いた診断をより確かなものにするために重要となる。

 コラムで紹介したように、5-ALAは、体の中でポルフィリン関連物質に変わる。がん細胞では、この物質がたまりやすいとされる。そこに青い光を当てると、がんのある部分が赤く光る。この性質を利用して、膀胱の中の病変を内視鏡で見つけやすくするのが、5-ALAを用いた光線力学診断(PDD)だ。

 膀胱がんでは、尿道から内視鏡を入れ、膀胱の中を見ながら病変を切除する。通常の白色光だけでは、小さな病変、平らな病変、がんの広がりが分かりにくいことがある。光線力学診断は、こうした見えにくい病変を赤く光らせ、手術で取り残す可能性を減らすことを目指して使われてきた。

 一方で、この方法を使っても、すべてのがんが赤く光るわけではない。病理検査でがんと確認されるにもかかわらず、光線力学診断では赤く光らない病変がある。こうした病変は「偽陰性病変」と呼ばれる。

 偽陰性病変があると、内視鏡で見つけにくく、見逃しや取り残しにつながる可能性がある。今回の研究は、この「なぜ光らない病変があるのか」という点に注目したものだ。5-ALAを使った診断をより確かなものにするためには、光る病変だけでなく、光らない病変の特徴を知ることも重要になる。

 今回の研究の特徴は、同じ患者の膀胱内で、「赤く光る病変」と「赤く光らない病変」を比べた点にある。

 別々の患者を比べると、年齢、体質、がんの進み方、治療歴などの違いが結果に影響しやすい。そこで研究グループは、同じ患者の膀胱の中にある複数の病変に注目した。同じ体の中で、光る病変と光らない病変を比べることで、病変そのものの違いを見やすくした。

 研究では、高知大学病院で2018年1月から2025年7月までに、5-ALAを用いた光線力学診断を併用した手術を受けた患者を調べた。その中で、同じ膀胱内に赤く光る病変と、赤く光らない病変の両方があった7人が解析対象となった。

光る病変と光らない病変で、がんの性質に違い

膀胱がんの進行度をステージ0からステージIVまで示した膀胱の断面図。
膀胱がんの進行度と浸潤範囲を示した模式図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 高知大学の研究で、光る病変と光らない病変では、がんの性質が異なる可能性が示された。
  • 赤く光らない理由は、単に5-ALAの取り込みや光る物質の蓄積だけでは説明しきれない可能性がある。
  • FGFR3の発現の違いが手がかりとなり、光線力学診断で見つけにくい病変への理解や診断精度向上につながる可能性がある。

 研究グループはまず、5-ALAが細胞に取り込まれ、赤く光る物質がたまるまでの流れに注目した。光らない病変では、この流れのどこかに違いがあるのではないかと考えたためだ。

 しかし、調べた結果、5-ALAが細胞に入る過程や、赤く光る物質が作られて処理される過程に関係する分子だけでは、光る病変と光らない病変の違いを十分に説明できなかった。赤く光らない理由は、単に「5-ALAが入りにくい」「光る物質がたまりにくい」という話だけではなさそうだった。

 そこで研究グループが注目したのが、膀胱がんの性質と関係するとされる「FGFR3」というタンパク質。今回の研究では、赤く光る病変と赤く光らない病変の間で、FGFR3が病変でどの程度見られるかが、7例すべてで異なっていた。

 さらに、7例中6例では、赤く光らない病変のほうがFGFR3の発現が低かった。同じ患者の膀胱の中にあっても、光る病変と光らない病変では、がんとしての性質が違う可能性を示す結果となった。

 PREVONOのコラムでは、5-ALAを用いたがんリスク検査や、がんを「光らせて見つける」医療応用について紹介した。今回の研究は、その5-ALAを使った診断でも、赤く光らない病変があることを示している。

 5-ALAを使えばすべての病変が見える、というわけではない。だからこそ、光らない病変の特徴を調べることには意味がある。

 今回の研究は7人を対象にしたもので、光らない理由を確定したものではない。それでも、FGFR3の違いという手がかりが示されたことで、光線力学診断で見つけにくい病変をどう補うかという課題が見えてきた。

 光る病変を見つける技術に、光らない病変を見逃さない工夫を加えることができれば、膀胱がんの診断精度を高める可能性がある。

参考文献

大学院博士課程医学専攻の重久立さん(医学部泌尿器科学講座)らの研究成果が、学術誌 Photodiagnosis and Photodynamic Therapy に掲載され、令和8年4月22日に電子版が公開されました。(高知大学)
https://www.kochi-u.ac.jp/kms/news/detail.html?id=5101

Shigehisa R, Fukata S, Pustimbara A, Kawada C, Yoshimura R, Yamashita E, Kurano Y, Furihata K, Atagi K, Takemori D, Yamamoto S, Osakabe H, Nao T, Fukuhara H, Shimizu N, Ashida S, Kurabayashi A, Inoue K. Discordant fibroblast growth factor receptor 3 (FGFR3) expression between photodynamic diagnosis-positive and -negative bladder cancer lesions: An intra-patient paired analysis. Photodiagnosis Photodyn Ther. 2026 Apr 22;59:105488. doi: 10.1016/j.pdpdt.2026.105488. Epub ahead of print. PMID: 42031129.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42031129/

がんの「土壌」を調べる新しい選択肢
5-ALAを生かして「見えにくい変化」を予防につなげる、先制医療推進機構の関連講演から(PREVONO)
https://prevono.net/column/1528/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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