世界

クルーズ船でハンタウイルス感染症の集団発生

WHOや国立健康危機管理研究機構などが示す実態や注意点

世界保健機関(WHO)のロゴが表示されたスマートフォンと、背景にあるウイルスのイメージ。
WHOの情報発信と感染症対策を示すイメージ。(写真:Adobe Stock)

 海外のクルーズ船の乗船者間で、ハンタウイルス感染症の集団発生が報告された。

 WHO(世界保健機関)が2026年5月に公表し、日本の国立健康危機管理研究機構も5月6日時点の情報として整理した。

クルーズ船の乗船者で重い呼吸器症状

広い海の上を進む大型クルーズ船。感染症や船内環境を示すイメージ。
海上を航行するクルーズ船。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • クルーズ船の乗船者で重い呼吸器症状が相次ぎ、ハンタウイルス感染症の確認例と疑い例、死亡例が報告された。
  • 原因ウイルスはアンデスウイルスとされ、まれに濃厚で長い接触による人から人への感染が報告されている。
  • 感染は主に、げっ歯類の尿、ふん、唾液や、それらを含むほこりを吸い込むことで起こる。

 WHOによると、2026年5月2日、クルーズ船の乗船者で重い呼吸器症状が相次いでいることが報告された。5月4日時点で、ハンタウイルス感染症は2例で検査により確認され、5例が疑い例とされた。計7例のうち3人が死亡し、1人が重症だった。

 クルーズ船は2026年4月1日にアルゼンチンのウシュアイアを出発し、南極大陸、サウスジョージア、ナイチンゲール島、トリスタン・ダ・クーニャ、セントヘレナ、アセンション島などを経由して南大西洋を航行していた。航海中や乗船前に、乗客が現地の野生動物とどの程度接触したかは分かっていない。

 その後、船内で確認されたウイルスがハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスだったと明らかにされた。多くのハンタウイルスは基本的に人から人へ感染しにくいが、アンデスウイルスでは、まれに濃厚で長い接触による人から人への感染が報告されている。そのため、保健当局は接触者の管理や健康観察を行っている。WHOはこの事例について、世界全体へのリスクは低いと評価している。

 ハンタウイルスは、主にネズミなどのげっ歯類が保有するウイルス。

 人は、感染したげっ歯類の尿、ふん、唾液に触れたり、それらが乾いて舞い上がったほこりを吸い込んだりすることで感染する。特に、ネズミなどのげっ歯類が入り込んだ建物の掃除や、換気の悪い場所での作業では注意が必要である。

 症状は、発熱、頭痛、筋肉痛、寒気、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などで始まることがある。その後、急に息苦しさが現れたり、肺炎や血圧低下が進んだりし、重症化する場合がある。潜伏期間は一般的に感染から2~4週間だが、早ければ1週間、遅ければ8週間後に症状が出ることもある。

予防は「乾いた掃除をしない」、検査は抗体検査やPCR

マスクと手袋を着用した検査担当者が、ピペットで試験管に液体を入れている様子。
検査室で試料を扱う検査担当者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 予防では、げっ歯類との接触を避け、ふんや尿がある場所を乾いたまま掃いたり掃除機をかけたりしないことが重要。
  • 掃除前に換気し、ほこりが舞わないよう湿らせて処理することが感染リスクを下げる。
  • 発熱や息苦しさがあり、ネズミのいる環境や流行地域への滞在歴がある場合は、早めに医療機関へ相談する。

 予防で重要なのは、げっ歯類との接触を避けること。げっ歯類のふんや尿がある場所では、乾いたまま掃いたり掃除機をかけたりしない。掃除の前に換気し、ほこりが舞わないように湿らせてから処理することが重要とされる。

 今回のクルーズ船事例では、乗船者に対して手洗い、船内の清掃、換気、健康観察などの対応が求められた。症状がある人は船内の医療スタッフに知らせ、必要に応じて隔離やマスク着用などの対応を受けることとされた。

 検査では、血液検査でウイルスに対する抗体を調べる方法や、PCR検査でウイルスの遺伝子を調べる方法が使われる。発熱や息苦しさがあり、ネズミのいる環境や流行地域に滞在したことがある場合は、早めに医療機関へ相談することが重要である。

 ハンタウイルス肺症候群には、現時点で承認された特効薬はない。急速に重症化することがあるため、疑われる場合は、呼吸や血圧を支える治療を早く受けることが重要になる。

 今回の事例では、一般の旅行者へのリスクは低いとされている。ただし、南米などハンタウイルスの流行が知られる地域で、農村部や山小屋、キャンプ場、ネズミのいる建物に入る場合は注意が必要になる。食品を密閉すること、ネズミを寄せ付けないこと、掃除の前に換気して乾いたほこりを立てないことが予防につながる。

 日本国内では、ハンタウイルス肺症候群の患者は報告されていない。今回の原因ウイルスに国内で感染する可能性は低いとされる。

参考文献

Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country(WHO)
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON599

国外航行中のクルーズ船におけるハンタウイルス感染症事例について(国立健康危機管理研究機構)
https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/hantavirus-pulmonary-syndrome/20260506/index.html

Update hantavirus(RIVM)
https://www.rivm.nl/en/news/update-hantavirus

ECDC publishes guidance for the management of passengers linked to the Andes hantavirus outbreak on cruise ship(ECDC)
https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/ecdc-publishes-guidance-management-passengers-linked-andes-hantavirus-outbreak-cruise

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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