ナトリウムを画像化するMRIによって、通常のMRIでは分かりにくい脳腫瘍の状態を捉えられる可能性が示された。
九州大学大学院医学研究院、九州大学病院、フィリップス・ジャパンなどの研究グループが2026年5月に発表した。臨床用のナトリウムMRIで、代謝やイオンの動きに関する情報を画像化できることを、世界で初めて報告したとしている。
水素ではなくナトリウムを見るMRI
画像検査装置で撮影を受ける人物。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
通常のMRIは主に水素原子の信号を見るが、今回の研究ではナトリウムの信号を画像化するMRIが使われた。
ナトリウムの分布は、細胞の状態や働き、イオンの動きと関係すると考えられている。
ナトリウムMRIにより、通常のMRIでは分かりにくい脳腫瘍内の変化を捉えられる可能性が示された。
通常のMRIは、主に体内に多く含まれる水素原子からの信号を画像にしている。水は体の中に豊富にあるため、水素原子からの信号を使ったMRIは、脳や臓器の形を詳しく調べる検査として広く使われてきた。
一方、今回の研究で使われたのは、ナトリウムの信号を画像化するMRIだ。ナトリウムは体の中にある成分だが、水素に比べると量が少ない。そのため、これまでは臨床で画像にするのが難しかった。
そうした課題があった中で、組織のナトリウム量を可視化する臨床用MRI機器が開発され、体の中のナトリウムの分布を画像として見られるようになってきた。ナトリウムの分布は、細胞の状態や働き、イオンの動きと関係すると考えられている。
脳腫瘍では、画像で形を見るだけでは、腫瘍の性質まで十分に分からないことがある。治療方針を決めるために、手術や生検で組織を採取して調べる必要がある場合も多い。
そこで研究グループは、ナトリウムMRIを使えば、通常のMRIでは見えにくい腫瘍の中の変化を捉えられるのではないかと考えた。形だけでなく、腫瘍の細胞の状態を画像から読み取ろうとする発想だ。
手術前に腫瘍の性質を知る手掛かりに
脳のMRI画像を確認する医療現場。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
研究では、脳腫瘍の一種である星細胞腫を対象に、ナトリウムMRIの信号が調べられた。
IDH変異を持つ星細胞腫で特徴的なナトリウム信号が見られ、腫瘍の性質を画像から推定できる可能性が示された。
手術や生検の前に腫瘍の特徴を把握し、治療方針を考えるための新しい診断技術として期待される。
研究グループは、脳腫瘍の患者を対象に、ナトリウムMRIで腫瘍の信号を調べた。特に注目したのは、「星細胞腫」という脳腫瘍の一種だ。
星細胞腫では、IDH変異という遺伝子の違いが、腫瘍の性質や治療方針を考える上で重要になる。IDH変異があるタイプは、ないタイプと比べて経過が違い、一般に予後がよいとされている。
今回の研究では、IDH変異を持つ星細胞腫で、特徴的なナトリウム信号が見られた。通常のMRIでは分かりにくい腫瘍の中の状態を、ナトリウムMRIで捉えられる可能性が示された。
この結果は、手術や生検の前に、画像から腫瘍の性質を知る手掛かりになる可能性がある。脳腫瘍では、最終的な診断に組織検査が必要になることも多いが、事前に腫瘍の特徴を推定できれば、治療方針を早い段階で検討しやすくなる。
ただし、今回の研究は少数例で行われた初期段階の検討だ。すぐに一般診療で広く使えるという意味ではない。今後は、より多くの患者で同じ結果が得られるか、他の脳腫瘍と区別できるかを確かめる必要がある。
ナトリウムMRIには、撮像時間が長いという課題もある。研究グループは、人工知能を活用して撮像時間を大幅に短くする研究にも取り組んでいるという。将来的には、脳腫瘍だけでなく、脳血管障害、変性疾患、関節軟骨の変性評価、腎疾患の早期発見などにも応用が広がる可能性がある。
今回の成果は、ナトリウムMRIを使って脳腫瘍の中の状態を画像で評価するという新しい方向性を示した。この技術の応用範囲を広げる動きも含めて、今後の検証が注目される。