コラム

血液中の細胞外小胞は便潜血検査を補えるか

CD147陽性小型細胞外小胞で大腸腫瘍の検出感度向上、台湾国立大学・東京医科大学の国際共同研究

白衣を着た研究者が血液の入った試験管を持ち、DNAや検査器具が描かれているイラスト。
遺伝子解析や血液検査を行う研究者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 血液中のエクソソームなどの細胞外小胞は、便潜血検査を補う手掛かりになるのか。

 前回は、栄研化学の研究として、便由来の細胞外小胞に含まれるタンパク質を調べ、大腸がん検査への応用可能性を探った研究を紹介した。

 今回は、便由来ではなく、血液中の小型細胞外小胞に注目した研究だ。既に広く使われている便潜血検査に、血液中のCD147陽性小型細胞外小胞の情報を組み合わせることで、大腸腫瘍の拾い上げを高められるかが検討された。

 台湾国立大学、東京医科大学などの国際共同研究グループが2025年に報告した。研究には、エクソソーム研究に取り組む東京医科大学の落谷孝広氏も参加している。

便潜血検査に「血液中の細胞外小胞」の情報

医療従事者が患者の腕から採血している様子。
血液検査のために採血を行う場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 便潜血検査は大腸がん検診で広く使われているが、出血が少ない病変や前がん病変では検出が難しい場合がある。
  • 今回の研究では、便由来ではなく、血液中の小型細胞外小胞に含まれる情報に注目した。
  • CD147というタンパク質を持つ小型細胞外小胞を調べることで、大腸腫瘍の拾い上げを高められる可能性が示された。

 PREVONOのコラムでも伝えたように、大腸がん検診では便潜血検査が広く使われている。ただし、便潜血検査が見ているのは「出血」であるため、出血が少ない病変や、がんになる前の病変では検出が難しい場合がある。

 そこで研究が進んでいるのが、便潜血検査に、別の分子情報を組み合わせる方法だ。

 その一つとして細胞外小胞が注目されている。細胞外小胞は、細胞が外へ放出する小さな粒子で、エクソソームもその一種に含まれる。中にはタンパク質やRNAなどが含まれ、放出した細胞の状態を反映すると考えられている。

 前回のコラムで解説した栄研化学の研究では便の中の細胞外小胞に注目していたが、今回の研究で着目されたのは、血液中の細胞外小胞だ。

 研究では、中でも「CD147」というタンパク質を持つ小型細胞外小胞について調べた。CD147は、がんの進行や細胞の働きとの関係が研究されてきたタンパク質だ。

 研究グループは、CD147を持つ小型細胞外小胞の情報を加えることで、便潜血検査による大腸腫瘍の拾い上げを高められる可能性を報告している。ここでいう大腸腫瘍は、大腸がんだけでなく、がんになる前の病変も含む。大腸がん検査では、進行したがんだけでなく、将来がんにつながる可能性がある病変を見つけ出すことにも意味がある。便潜血検査に細胞外小胞の情報を加えることで、従来の検査だけでは見つけづらかった病変を見つける補助になる可能性がある。

便潜血検査を置き換えるよりも補う

青い手袋を着けた医療従事者が、採血管に血液を採取している様子。
採血管に血液検体を採取する医療現場。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • CD147だけで大腸がんを見分ける力は、便潜血検査を上回らなかった。
  • 一方で、CD147を便潜血検査に加えると、進行腺腫や大腸がんの検出感度が改善した。
  • 実際の検診で使うには、対象者を増やした検証や、血液検体の採取・保存、測定方法の標準化が必要になる。

 研究では、便潜血検査を置き換えるのではなく、既存の検査に新しい情報を加える補助的な役割に注目している。

 研究グループは、65人のデータでCD147の判定基準を決め、別の280人で検証した。

 その結果、CD147だけで大腸がんを見分ける力は、便潜血検査を上回らなかった。一方で、CD147を便潜血検査に加えると、検出力が改善する結果が示された。

 具体的には、進行腺腫を正しく陽性と判定する感度は48.0%から78.0%に、大腸がんでは86.7%から93.3%に上がった。

 便潜血検査で陰性だった大腸がん8例のうち4例も、CD147では陽性だった。体の奥側にある近位結腸の病変でも、CD147を加えることで感度の改善が見られた。

 ただし、感度が上がる一方で、病変がない人を正しく陰性と判定する特異度は下がっていた。これは、見逃しを減らせる可能性がある一方で、病変がない人も陽性になりやすくなることを意味する。不要な内視鏡検査が増える可能性とのバランスを見る必要がある。

 研究グループは、CD147を持つ小型細胞外小胞を、便潜血検査を補う情報として見ている。便潜血検査は、簡便で普及している大腸がん検診の入り口。その仕組みに、血液中の小型細胞外小胞が持つ分子情報を加えることで、検出の精度を高めようとする考え方だ。

 現時点では研究段階の成果である。実際に検診で使うには、対象者を増やした検証、便潜血検査に使う便検体に加え、血液検体の採取や保存方法の標準化、CD147を持つ小型細胞外小胞をどのように測定するかの整理が必要になる。検査の費用や運用面も検討が必要だ。

 便潜血検査に血液中の細胞外小胞の情報を組み合わせる発想は、大腸がんや前がん病変を含む大腸腫瘍検査の新しい方向性として注目される。

参考文献

Chang LC, Lin BR, Chiu HM, Wu MS, Ochiya T, Shen TL. CD147-expressed small extracellular vesicles enhance the detection of colorectal neoplasia with fecal immunochemical test. ESMO Gastrointest Oncol. 2025 Feb 13;7:100140. doi: 10.1016/j.esmogo.2025.100140. PMID: 41646496; PMCID: PMC12836726.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41646496/

便の細胞外小胞から大腸がんの手掛かりを探る 栄研化学がタンパク質変化を解析、便潜血とは異なる仕組みの可能性
https://prevono.net/column/1640/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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