コラム

リキッドバイオプシーは消化器がん検査を変えるか

血液や体液からがん情報を読む検査技術 エクソソームを含む細胞外小胞にも期待

手袋を着けた手がスライドガラスを持ち、ピペットで液体を滴下しようとしている様子。
スライドガラスに検体を滴下する検査作業。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 これまでのコラムでは、エクソソームなどの細胞外小胞に注目し、膵臓がんや大腸がん検査への応用研究を見てきた。

 では、こうした細胞外小胞は、がん検査全体の中でどのような位置づけにあるのか。

 2026年に発表された総説では、消化器がんにおける「リキッドバイオプシー」の新しい展開として、血液や体液から読み取れる情報である「循環腫瘍細胞(CTC)」、「循環腫瘍DNA(ctDNA)」、「血中RNA」、「細胞外小胞」などが整理された。

 この総説は、台湾国立大学と東京医科大学の落谷孝広氏らによるもので、前回紹介した研究ともつながる内容だ。

血液や体液からがんの情報を読む

血管内を流れる赤血球を表した図。
血液中を流れる赤血球を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • リキッドバイオプシーは、血液や尿、唾液、腹水、便などの体液から、がん由来の情報を調べる検査の考え方。
  • 消化器がんでは、血中循環腫瘍細胞、血中循環腫瘍DNA、細胞外小胞などが主な研究対象になっている。
  • 細胞外小胞にはエクソソームも含まれ、RNAやタンパク質などから元の細胞の状態を反映する可能性がある。

 リキッドバイオプシーとは、血液、尿、唾液、腹水、便などの体液に含まれる、がん由来の情報を調べる検査の考え方だ。従来の組織検査のように腫瘍の一部を採取するのではなく、体液中に出てくるがん細胞や遺伝子、タンパク質などを手掛かりにする。

 今回の総説で研究者らは、消化器がんのリキッドバイオプシーで研究が進む主な対象として、血中循環腫瘍細胞、血中循環腫瘍DNA、細胞外小胞を挙げている。

 血中循環腫瘍細胞を調べる検査は、がんから血液中に出てきた細胞そのものを調べる方法だ。研究者らは、細胞としての形や性質を見られる利点がある一方、血液中にごく少数しか存在しないため、特に早期がんでは見つけるのが難しいと説明している。

 血中循環腫瘍DNAを調べる検査は、がん細胞から血液中に出てきたDNAの断片を調べる方法だ。遺伝子変異やメチル化などを調べることで、がんの有無、治療効果、再発リスクを知る手掛かりになる。総説では、消化器がん領域では、この血中循環腫瘍DNAが、現時点で実用化に最も近い指標と位置づけられている。

 細胞外小胞は、細胞が外へ放出する小さな粒子で、エクソソームもその一種に含まれる。中にはRNAやタンパク質などが含まれ、元の細胞の状態を反映すると考えられている。研究者らは、細胞外小胞が、がん細胞だけでなく周囲の環境の変化も反映する可能性がある情報源として注目されていると整理している。

早期発見から治療後の再発の監視まで

赤い液体が入った小型の検体容器が、検査室の台上に置かれている様子。
血液検体を入れた検査用容器。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • リキッドバイオプシーは体への負担が比較的小さく、繰り返し調べやすい点が注目されている。
  • 早期発見、診断、治療効果の確認、治療後に残る微小ながんの検出、再発監視などへの応用が期待されている。
  • 大腸がんや膵臓がんだけでなく、胆道がん、肝臓がん、胃がんなど消化器がん全体で研究が進んでいる。

 研究者らは、リキッドバイオプシーが注目される理由として、体への負担が比較的小さく、繰り返し調べやすい点を挙げている。がんは時間とともに性質が変わることがある。1回の組織検査では捉えにくい変化も、血液や体液を繰り返し調べることで追える可能性がある。

 総説では、リキッドバイオプシーの応用先として、早期発見、診断、予後予測、治療効果の確認、治療後に体内に残る微小ながんの検出、再発監視などが整理されている。がんを見つけるだけでなく、治療の選択や治療後の経過を見る技術としても期待されている。

 大腸がんについては、血液中に出てくるがん由来のDNAの変化が、検査の手掛かりとして研究されている。総説では、その一つとして「メチル化」と呼ばれる変化にも触れている。メチル化は、DNAの配列そのものが変わるのではなく、遺伝子の働き方に関わる目印のような変化である。

 また、細胞外小胞に含まれるタンパク質やマイクロRNAも、検査候補として紹介されている。マイクロRNAは、細胞の働きを調整する小さなRNAで、がん細胞の状態を反映する可能性がある。

 前回取り上げたCD147を持つ小型細胞外小胞も、この流れの中にある。便潜血検査が便中の「血液」を見る検査だとすれば、CD147を持つ小型細胞外小胞を調べる方法は、血液中に出てくる分子情報を加える方法といえる。大腸がんだけでなく、がんになる前の病変、いわゆる前がん病変も拾い上げる候補の一つとして研究されている。

 膵臓がんについても、総説では複数のリキッドバイオプシー研究が紹介されている。例えば、細胞外小胞に含まれるRNAや、細胞外小胞の表面にある目印となるタンパク質、血液中に出てくるがん由来のDNA、血液中を流れるがん細胞そのものなどが挙げられている。

 膵臓がんは、早い段階では症状が出にくく、画像検査でも小さな病変が見つかりにくいことがある。そのため、血液や体液に出てくるわずかな変化を読み取り、早期発見や診断の補助につなげる技術への期待が大きいと整理されている。

 胆道がん、肝臓がん、胃がんでも、血液中に出てくるがん由来のDNA、細胞外小胞、マイクロRNAなどを使い、早期発見、診断、治療効果の確認、再発監視に役立てられるかが研究されている。リキッドバイオプシーは、大腸がんや膵臓がんに限らず、消化器がん全体で広がる検査開発の考え方といえる。

細胞外小胞は有望だが、単独で万能ではない

赤い液体の入った複数の検体容器が、ラックに並んでいる様子。
検査室で扱われる血液検体。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 細胞外小胞は、がん細胞だけでなく、がんの周囲にある細胞の変化も反映する情報源として期待されている。
  • 一方で、体液中には正常な細胞由来の細胞外小胞も多く、がん由来の情報を見分ける技術が課題になる。
  • 臨床で広く使うには、血中循環腫瘍DNAや血中循環腫瘍細胞などと組み合わせ、測定法の標準化や大規模な検証を進める必要がある。

 総説を読むと、エクソソームを含む細胞外小胞は、リキッドバイオプシーの中で有望な情報源の一つとして位置づけられている。ただし、細胞外小胞だけで消化器がんの検査が完結するわけではない。

 研究者らは、これらの指標を単独で見るのではなく、組み合わせて考える必要があると整理している。それぞれ得意とする情報が異なるためだ。

 研究者らは、細胞外小胞について、がん細胞そのものだけでなく、がんの周囲にある細胞から出る情報も含み得る点に注目している。腫瘍だけでなく、がんを取り巻く環境の変化を反映する手掛かりになり得る。

 総説では、細胞外小胞の利点として、体液中に比較的多く存在することや、膜に包まれているため中のRNAやタンパク質が壊れにくいことが挙げられている。血液や体液からがんの情報を読み取る上で、大きな強みになる。

 その一方で、課題も明確に示されている。体液中には、正常な細胞から出た細胞外小胞も大量に混ざっている。がん由来の細胞外小胞だけを効率よく見分けること、どのタンパク質やRNAを測ればよいのかを決めることは、まだ簡単ではない。

 そのため、研究者らは、細胞外小胞を使った検査を臨床で広く使うには、分離方法や測定方法の標準化、大規模な検証、費用や運用面の整理が必要になると見ている。これは、これまで紹介してきた膵臓がんや大腸がんの個別研究でも見えてきた課題だ。

 エクソソームを含む細胞外小胞は、リキッドバイオプシーの有力な候補の一つになり得る。ただし、血中循環腫瘍DNAや血中循環腫瘍細胞などと組み合わせて使う視点が重要になる。

 リキッドバイオプシーは、既に一部のがん医療で治療選択や再発監視に使われ始めている。一方で、一般的ながん検診として広げるには、どのがんに、どの目的で使うのか、陽性だった場合に次の検査にどうつなげるのかを整理する必要がある。

参考文献

Chang LC, Shen TL, Ochiya T. Novel Liquid Biopsy in Gastrointestinal Cancers. J Gastroenterol Hepatol. 2026 Feb;41(2):546-555. doi: 10.1111/jgh.70219. Epub 2026 Jan 20. PMID: 41559763; PMCID: PMC12887616.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41559763/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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