早期発見が難しい膵臓がんで、血液検査を利用してリスクの高い人を見つけ、精密検査につなげる研究が進んでいる。日本発の血液検査「アポリポタンパク質A2アイソフォーム(APOA2-i)」は、2024年に膵臓がんの診断補助検査として保険適用され、今後は膵臓がんのリスクが高い人の抽出や、継続的な経過観察への活用が期待される。
2026年10月24日、神戸市で開催された第64回日本癌治療学会学術集会の国際対がん連合(UICC)との合同シンポジウム「がんの死亡率低減を目指した攻めの予防医療」では、日本医科大学教授の本田一文氏(大学院医学研究科生体機能制御学分野)が、APOA2-iの開発から実用化に至る経緯と膵臓がんの早期発見に向けた今後の活用の方向性を解説した。
日本発の血液検査を実用化、米国でも性能を検証
血液検査のために採血を行う場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
血液中のタンパク質の変化から膵臓の異常を捉える日本発の検査「APOA2-i」。東レが製品化し、2024年に保険適用。
国内試験では、ステージIの膵臓がんを見つける割合が約47%となり、従来の腫瘍マーカーCA19-9の約37%を数値上上回った。
大きさ2cm以下の膵臓がんでは、CA19-9との併用で検出感度が約3割から約7割に向上。米国でも検査性能を検証。
膵臓がんは自覚症状が現れにくく、早期発見が難しい。本田氏は、その発見につながる血液検査「APOA2-i」を開発した中心的な研究者で、関連特許の発明者の一人でもある。
着目したのは、血液中に存在する「アポリポタンパク質A2」というタンパク質だ。このタンパク質には、末端のアミノ酸が切り取られることで生じる複数のタイプがあり、血液中にはそれらが混在している。膵臓がんや膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、慢性膵炎などでは、各タイプの量のバランスが変化することが分かった。
がん細胞が出す物質を直接探すのではなく、膵臓の状態に伴うタンパク質の変化を血液から捉える点が特徴だ。本田氏らは、日本医科大学、国立がん研究センター、東レなどとの共同研究で検査薬を開発。東レが「東レAPOA2-iTQ」として製品化し、2024年に膵臓がんの診断補助検査として保険適用された。
検査性能については、2024年に公表された国内試験で、既存の腫瘍マーカー「CA19-9」と比較した。ステージIの膵臓がん19例では、APOA2-iの感度が約47%となり、CA19-9の約37%を数値上上回った。感度は、実際にがんがある人を陽性と判定できる割合を示す。一方、進行期の膵がんではCA19-9の方が感度が高く、両者には異なる特徴が認められた。
そこで注目されるのが、両者を組み合わせた場合の効果だ。大きさ2cm以下の膵臓がんでは、CA19-9単独で約3割だった感度が、APOA2-iとの併用で約7割に高まった。がんのない人を誤って陽性と判定する割合も増えたものの、既存の腫瘍マーカーでは捉えられない膵臓がんを見つける可能性が示された。
こうした補完的な役割は、実際の診療での有用性を調べた2026年の国内研究でも確認された。埼玉医科大学の研究においては、CA19-9が陰性だった膵臓がん17例のうち、9例がAPOA2-iで陽性となった。
検査性能の検証は、日本国内にとどまらない。米国国立がん研究所(NCI)の早期診断研究ネットワーク(EDRN)が提供した検体を使い、検査担当者にがんの有無を知らせない方法で性能を評価した。ステージIおよびIIの膵臓がん約100例を対象とした分析でも、APOA2-iは既存のCA19-9と同程度の検出性能を示した。
高リスク者を見つける検診研究、日本発の技術をさらに発展へ
膵臓の位置を示した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
APOA2-iを使って膵臓がんのリスクが高い人を絞り込み、MRIや超音波内視鏡などの精密検査につなげる研究が進む。
国内の約4400人を対象とした研究では、陽性後に精密検査を受けた84人の約36%に膵臓の病気が見つかった。
APOA2-iは既に膵臓がんの診断補助として利用可能。一般向けの検診としての有効性は未確立で、早期発見につなげる研究が続く。
APOA2-iの今後の活用として期待されるのが、膵臓がんのリスクが高い人を絞り込み、精密検査につなげる方法だ。膵臓を詳しく調べるMRIや超音波内視鏡(EUS)などの検査を、一般の人全員に繰り返し行うのは難しい。そのため、血液検査を入り口として、詳しい検査が必要な人を見つける方法が検討されている。
本田氏らは、国内各地でAPOA2-i研究用試薬を利用した検診研究を進めてきた。2020年に発表された研究では、約5100人を対象に検査を行い、陽性となった人に精密検査を実施したところ、膵臓がん1例のほか、膵嚢胞性病変などが見つかった。膵臓がんはステージIVで、早期発見には至らなかった。現在、APOA2-i体外診断用医薬品を用いた前向き検診研究が進行中だ。
こうした検診への応用を探る研究は、その後も続いている。2026年5月には、沖縄県の中頭病院の研究グループが、約4400人を対象とした研究結果を報告。陽性となり精密検査を受けた84人のうち、約36%に膵疾患が認められた。膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)も見つかっており、膵臓がんのリスクに関係する病変を拾い上げる可能性が示された。
APOA2-iは既に膵臓がんの診断補助として保険適用されている。日本膵臓学会の適正使用指針では、膵臓がんが疑われ、リスクが中等度または高度と判断される人を対象に、CA19-9などの検査結果も踏まえ、画像検査を行う必要があるか判断する際の使用を想定している。一方、一般の人が定期的に受ける膵臓がん検診としての有効性は、まだ確立していない。
本田氏は講演で、血液バイオマーカーの研究開発が日本の強みとなってきたことにも言及した。例えば、肝臓の線維化を調べる「M2BPGi」や、胃粘膜の萎縮を調べる「ペプシノゲン法」も日本で開発された検査だ。日本には、血液から病気に関する情報を捉える技術を開発し、実際の医療に役立ててきた実績がある。
APOA2-iも、こうした日本の血液バイオマーカー研究の蓄積から生まれた成果の一つとなる。本田氏は、血液検査を利用して病気のリスクを捉え、早期発見につなげる研究を、日本の強みとしてさらに発展させていく方向性を示した。
膵臓がんの早期発見につながる検査として、APOA2-iをどのように活用していくか。既に実用化された日本発の技術を、今後の検診や予防医療へと広げていくための研究が続いている。
参考文献
日本医科大学, 国立がん研究センター, 日本医療研究開発機構.膵がんの血液バイオマーカー(アポリポプロテインA2 アイソフォームズ)が、公的医療保険で臨床使用可能になりました(2024年、国立がん研究センター)
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