研究

慢性膵炎で膵臓がんリスク約6.4倍 定期検査で生存率向上の可能性

東北大学の研究グループ、全国データでがんリスクと経過への影響を解析

医師の手の上に膵臓のイメージ図が浮かび上がる概念図
膵臓の働きや状態を示したイメージ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 慢性膵炎の人は膵臓がんのリスクが約6.4倍に上ることが示された。

 東北大学などの研究グループが2025年11月に報告した内容により明らかになった。

膵臓がんを含むがんのリスクは?

医師が患者と向き合いながら問診を行う様子
医師が患者に症状を聞き取る診察の場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 慢性膵炎は膵臓の炎症が長く続き、消化や血糖調整の働きが低下する病気。
  • 日本の患者は推定約5万6500人で、原因の約7割を長年の飲酒が占める。
  • 全国28施設・1110人の調査で、がん発症や死亡リスク、原因別の違いを検証した。

 慢性膵炎は、膵臓に炎症が長く続くことで、膵臓が少しずつ傷んで働きが弱くなっていく病気。膵臓は、食べ物の消化を助ける消化液を出したり、血糖値を調整したりする重要な役割を担っている。そのため病気が進むと、腹痛や背中の痛みを繰り返すだけでなく、食べ物をうまく消化できなくなったり、糖尿病になったり、栄養状態が悪くなったりすることがある。

 日本では、慢性膵炎の患者はおよそ5万6500人いると推定され、患者の平均年齢は約62歳。原因として最も多いのは長年の飲酒で、慢性膵炎全体の約7割を占めている。

 これまで、慢性膵炎の人は膵臓がんを含むがんになりやすいと考えられてきたが、全国規模でその実態を示す新しいデータは十分ではなかった。

 最近では、消化を助ける薬や、膵液の通りをよくする治療、結石を砕く治療などが使われるようになり、慢性膵炎の治療は以前より進歩している。こうした変化を踏まえ、今の医療の下で患者の長期的な経過がどうなっているのか、また膵臓がんの定期的な検査がどれほど役立つのかを確かめる必要があった。

 研究チームは、この疑問を調べるため、2011年に受診した慢性膵炎の患者1110人を対象に調査を行った。全国28の医療機関に集まった診療データを基に、慢性膵炎の人が一般の人と比べてどのくらいがんになりやすいか、またどのくらい亡くなりやすいかを調べた。

 併せて、がんの発症や生存にどのような要因が関わるのかも詳しく分析した。さらに、慢性膵炎の原因がアルコールによるものかどうかという違いにも注目して比較した。

定期受診の意義も示される

医療従事者がプローブを当てて腹部の超音波検査を行う様子
超音波検査で体内の状態を確認する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 慢性膵炎患者では、がん全体が約1.6倍、膵臓がんが約6.4倍と発症リスクが高かった。
  • 死亡率上昇は主にアルコール関連慢性膵炎でみられ、膵臓がん発症は生存に大きく影響した。
  • 膵臓がん診断前に3か月に1回以上の定期検査を受けた人は、診断後の生存率が有意に高かった。

 解析の結果、慢性膵炎の患者は、一般の人に比べてがんになりやすく、全体のがんでは約1.6倍、膵臓がんでは約6.4倍、リスクが高かった。調査期間中に亡くなったのは143人で、全体の12.9%だった。亡くなった原因で最も多かったのはがんで、全体のほぼ半数を占めた。

 また、慢性膵炎の患者全体では、死亡する割合も一般の人よりやや高かった。ただし、この傾向は主にアルコールが原因の慢性膵炎で見られ、アルコールが関係する患者では死亡リスクがより高かった。一方で、アルコールが原因ではない慢性膵炎では、死亡率がはっきり高いとは確認されなかった。

 特に重要だったのは、膵臓がんが見つかった場合、その後の生存に与える影響が極めて大きかった点だ。複数の要素を織り込んで分析すると、膵臓がんのハザード比は48.92で、慢性膵炎の患者の中でも、膵臓がんを発症した人はそうでない人に比べて死亡の危険が著しく高いことが示された。

 慢性膵炎の長期経過を見る上では、痛みや消化機能の低下だけでなく、膵臓がんの合併が大きな影響を及ぼす。

 さらに、慢性膵炎の患者のうち膵臓がんを発症した人を調べると、がんと診断される前に3か月に1回以上の定期検査を受けていた人は、3カ月に1回未満の頻度で検査を受けていた人に比べて、診断後の生存率が有意に高かった。

 これは、慢性膵炎の患者に対して定期的に膵臓がんを調べることが、単なる経過観察にとどまらず、膵臓がんをより早い段階で見つけ、治療につなげることに役立つ可能性を示している。

 今後、検査やフォローアップの実施方法がより標準化されれば、膵臓がんの早期発見と治療成績の向上につながることが期待される。

参考文献

慢性膵炎で膵臓がんリスク6倍に -定期的な検査により生存率向上の可能性-(東北大学)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/11/press20251125-01-Pancreas.html

Matsumoto R, Kikuta K, Takikawa T, Nakai Y, Takenaka M, Oki K, Ohno E, Ito K, Fujimori N, Katanuma A, Masuda A, Hori Y, Ikeura T, Suzuki R, Yamamoto S, Sogame Y, Kawashima H, Ito T, Okuwaki K, Itoi T, Takayama Y, Nakamura A, Terai S, Matsumoto K, Kuwatani M, Kishiwada M, Shigekawa M, Matsumori T, Inatomi O, Hatta W, Irisawa A, Unno M, Takeyama Y, Masamune A; Japan Pancreatitis Study Group for Chronic Pancreatitis. Mortality and cancer risk in patients with chronic pancreatitis in Japan: insights into the importance of surveillance for pancreatic cancer. J Gastroenterol. 2026 Jan;61(1):105-116. doi: 10.1007/s00535-025-02321-0. Epub 2025 Nov 18. PMID: 41251799; PMCID: PMC12791062.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41251799/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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