コラム

「超音波内視鏡」とAIで膵臓の充実性病変を高精度に判別

複数の画像と臨床情報を組み合わせ、正診率94%を達成

腹部を押さえる患者に、医療者が診察室で説明している様子。
膵臓の病変は腹部症状などをきっかけに検査が行われることもある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 PREVONOでは、AI(人工知能)の活用について引き続き取り上げていく。

 中国・武漢大学の研究グループは2025年、複数の超音波内視鏡画像と臨床情報を組み合わせ、膵臓の病変を高い精度で判別するAI診断システムを開発した。

 通常の超音波画像だけでなく、組織の硬さを示す画像や腫瘍マーカーなどを組み合わせることで、診断精度を高められる可能性がある。

複数の画像と臨床情報を組み合わせて診断

超音波内視鏡を十二指腸から挿入し、膵頭部腫瘍を観察する仕組みを示した模式図。
超音波内視鏡では、十二指腸側から膵臓に近づいて病変を観察できる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock、AIで編集)
  • 超音波内視鏡(EUS)は膵臓を詳しく観察できる一方、画像の取得や読み取りには医師の技術と経験が必要になる。
  • 研究グループは、2016~2024年に超音波内視鏡検査を受けた425人のデータを用いてAI診断システムを開発した。
  • AIには、Bモード画像、エラストグラフィ画像、年齢や性別、CEA、CA19-9などの臨床情報を組み合わせて解析する仕組みが組み込まれた。

 膵臓がんは早期発見が難しく、進行してから見つかることが少なくない。

 一方、膵臓を詳しく観察する検査として、「超音波内視鏡(EUS)」が知られている。口から内視鏡を挿入し、先端から超音波を当てて、胃や十二指腸の近くから膵臓を画像化する検査だ。体外から行う超音波検査よりも、膵臓を詳しく観察できる。

 ただし、画像の取得や読み取りには医師の技術と経験が必要で、診断精度が担当医の経験によって左右されることがある。

 膵臓には、膵臓がんだけでなく炎症などによる良性のしこりも生じるため、画像だけで両者を見分けることは簡単ではない。検査法としてはCTやMRIも用いられるが、小さな病変では診断が難しいことも珍しくない。

 そこで、研究グループは、2016~2024年に超音波内視鏡検査を受けた425人のデータを解析した。AIには、膵臓の病変を検出する機能、内部が袋状になった嚢胞性病変と、内容が詰まった充実性病変を見分ける機能、病変の輪郭や大きさを測る機能を持たせた。さらに、充実性病変について、膵臓がんか良性病変かを判定する機能も組み込んだ。

 また、通常の白黒の超音波画像であるBモード画像に加え、組織の硬さを調べるエラストグラフィ画像、年齢、性別、腫瘍マーカーのCEAやCA19-9などの臨床情報も組み合わせ、診断精度の向上を目指した。

AIは診断精度94%、経験の浅い医師を上回る

肝臓、胃、腸とともに、膵臓の位置を示した消化器の模式図。
膵臓は胃や十二指腸の近くにあり、超音波内視鏡では消化管の内側から詳しく観察する。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock、AIで編集)
  • 病変の有無を判定するAIの精度は96.8%、充実性病変か嚢胞性病変かを判定する精度は98.9%だった。
  • 膵臓がんと良性病変の判別では、通常の超音波画像にエラストグラフィ画像を組み合わせることで正診率が94.0%まで向上した。
  • 単一施設の後ろ向き解析であり、今後は他施設での検証が必要だが、AIが膵臓がんの早期発見や治療方針の判断を支援する可能性が示された。

 解析の結果、病変の有無を判定するAIの精度は96.8%、充実性病変か嚢胞性病変かを判定する精度は98.9%だった。

 さらに、膵臓がんと良性病変を見分ける検証では、通常の超音波画像だけを用いたAIの正診率は70.2%だったが、エラストグラフィ画像を組み合わせると94.0%まで向上した。病変を見分ける性能を示す指標で、1に近いほど精度が高い「AUC」は0.937だった。

 医師8人との比較では、Bモード画像、エラストグラフィ画像、臨床情報を用いた医師の平均正診率は74.1%だったのに対し、AIは92.5~94.0%だった。

 また、生検で膵臓がんと診断できなかった17例を解析したところ、最終的に膵臓がんだった4例は、AIがすべて正しく判定した。一方、良性だった13例のうち11例は正しく良性と判定したが、2例は膵臓がんの可能性があると誤って判定した。

 この解析では、膵臓がんを見逃さない感度と、良性と判定された場合に実際に良性である割合を示す陰性的中率が、いずれも100%だった。ただし、対象は17例と少なく、結果の解釈には注意が必要だ。

 今回の研究は単一施設の後ろ向き解析であり、今後は他施設での検証が必要とされるものの、AIが超音波内視鏡診断を支援し、膵臓がんの早期発見や適切な治療方針の決定に役立つ可能性を示した。

参考文献

Zhang C, Tao X, Zhang J, Tan W, Zhou W, Hu S, Xiao B, Yu H. A multimodal artificial intelligence system for the detection and diagnosis of solid pancreatic lesions under EUS. Endosc Ultrasound. 2025 Sep-Oct;14(5):274-281. doi: 10.1097/eus.0000000000000145. Epub 2025 Nov 3. PMID: 41583348; PMCID: PMC12829714.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41583348/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

夕焼けの空の下に広がるシドニーの港とオペラハウス、ハーバーブリッジ。
オーストラリアでは、子ども向けの不健康な食品や飲料の広告規制を求める公衆衛生団体の動きが強まっている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

オーストラリアで子ども向け食品広告の規制を求める動き

子どもが日常的に目にする「ジャンクフード」の広告を減らし、将来の肥満やがんリスクの低減につなげようという動きがオーストラリアで強まっている。

MRI装置の前に置かれたノートパソコンに、撮影画像や解析画面が表示されている。
MRI画像から脳腫瘍の遺伝子変異を予測できれば、手術や生検前に治療方針を検討する材料になる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

MRI画像から神経膠腫のIDH遺伝子変異を予測するAI、海外と日本で性能差

脳腫瘍の遺伝子変異を、手術や生検を行う前にMRI画像から予測できる可能性が見えてきた。国立がん研究センター、理化学研究所、東海大学、旭川医科大学などの研究グ…

遺伝子解析の画面と顕微鏡を背景に、手袋をした手が検体チューブを持っている。
東北大学病院の解析では、がん遺伝子パネル検査を受けた患者の7.2%が、検査結果に基づく推奨治療を実際に受けていた。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

がん遺伝子パネル検査後の推奨治療と生存期間―東北大学病院1643例の解析

がんの遺伝子を詳しく調べ、治療薬や治験を探す「がん遺伝子パネル検査」が、実際の治療やその後の経過にどの程度つながっているのか。東北大学病院が1643例を追跡…

人体の消化器と大腸を示した医療イラスト。
日本人の大腸がんでは、一部の腸内細菌が作る毒素によるDNA損傷の痕跡が半数近くで確認された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

日本人大腸がんの約半数、腸内細菌の毒素がDNAを傷つけた痕跡

日本人の大腸がんの半数近くで、一部の大腸菌が作る毒素によってDNAが傷つけられたことを示す特徴的な痕跡が確認された。特に40歳未満で発症した大腸がんでは、そ…

3世代の女性が並んで笑顔を見せている。
乳がんリスク評価では、親族の乳がん経験である家族歴が参考にされるが、それだけでは将来のリスクを十分に把握できない可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

50歳未満の乳がんリスク評価、家族歴中心の基準で把握できた発症者は4.4%

50歳未満の女性で乳がんになる危険性が高い人を見つけるには、親族に乳がんを経験した人がいるという家族歴だけでは十分ではない可能性が示された。英ケンブリッジ大…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す