肝臓がんの発生リスクが高い「前兆」を捉える新たな指標が示された。
理化学研究所、千葉県がんセンター、岐阜大学、東京慈恵会医科大学などの共同研究グループが2026月2月、がんの前段階と考えられる、発がんリスクの高い状態を数値化して評価する方法を開発したと発表した。
がんが生まれやすい状態を見つける
遺伝子発現データと機械学習による早期病変可視化の研究概念図。がんが発生しやすい状態をスコアで察知できるようにする。(出典:理化学研究所)
- 肝臓がんは慢性肝障害の中で細胞の破壊と再生が繰り返される過程で発生しやすくなる。
- 研究では、肝臓がんの幹細胞で強く働く遺伝子「MYCN」に注目した。
- MYCNが強く働く領域「MYCNニッチェ」を特定し、その状態を数値化する「MYCNスコア」を作成した。
肝臓がんは、ウイルス感染や飲酒、肥満などによる慢性肝障害を背景に発生しやすくなる。肝細胞が壊れて再生する過程が繰り返される中で、がんが生まれやすい状態になると考えられている。
こうした過程では、免疫細胞や血管の細胞などが互いに影響し合い、臓器内の「微小環境」が変化する。慢性的な炎症が続くと、この環境は発がんを後押しする方向に傾く。
研究グループが注目したのは「MYCN」というがんに関わる遺伝子だ。MYCNは肝臓がんのがん幹細胞で強く働くことが知られ、発現の高さが患者の予後とも関係するとされる。一方、健康な肝臓では働きは低い。
また肝臓が再生する際には一時的にMYCNの働きが高まることが知られており、正常な再生と発がんに関わる変化を見分ける手がかりになる可能性がある。
そこで研究グループは、MYCNが肝臓のどの領域で強く働くのかを調べ、発がんリスクの指標として利用できるかを検討した。
研究グループは、マウスの肝臓を使った実験や組織の解析を行い、MYCNの働きが特に強い領域を発見した。研究グループはこの領域を「MYCNニッチェ」と名付けた。この領域は発がんの進行に伴って増える傾向があると考えられた。
研究のポイントは、肝臓の組織がどれだけ発がんしやすい状態にあるかを示す「MYCNスコア」という指標を機械学習を用いて作ったことだ。MYCNニッチェに特徴的な遺伝子の働き方を解析し、その状態を一つの数値で表す仕組みだ。
腫瘍の周りのスコアが高まると要注意
(A)肝がん腫瘍組織の遺伝子発現の状態から算出したMYCNスコアに基づき、MYCNスコアが高い患者(黄色110症例)とMYCNスコアが低い患者(水色111症例)の間には、肝がんの再発率に有意な差がないことが分かる。
(B)非腫瘍組織の遺伝子発現の状態から算出したMYCNスコアに基づき、MYCNスコアが高い患者(黄色105症例)の再発率は、MYCNスコアが低い患者(水色105症例)より、有意に高い(無再発生存率が低い)ことが分かる。(出典:理化学研究所)
- 肝臓がん患者のデータを解析した結果、腫瘍周囲の非腫瘍組織でMYCNスコアが高い人ほど再発しやすい傾向が見られた。
- がんそのものよりも、がんが生じやすい肝臓の環境が再発に関わる可能性が示された。
- この指標により再発リスクの高い患者を早期に見分け、治療や対策の判断に役立つ可能性がある。
この指標を、肝臓がん患者の腫瘍組織や周辺組織から得られた遺伝子発現データに当てはめて検証したところ、興味深い結果が得られた。
腫瘍組織のMYCNスコアと再発率の間には明確な関係は見られなかったものの、一方で、腫瘍周囲の「非腫瘍組織」でMYCNスコアが高い患者は再発しやすい傾向が確認された。がんそのものの特徴よりも、がんが生まれやすい肝臓の環境が再発に関わる可能性を示す結果だ。
がんになる前の段階で、肝臓の組織にどのような遺伝子の変化が起きているかを把握できれば、再発リスクの高い患者を早い段階で見分け、早期の治療や対策につなげられる可能性がある。
研究グループは、この成果が肝臓がん患者の予後や生活の質(QOL)の改善につながる可能性があると指摘している。さらに、がんが生まれやすい組織の環境を遺伝子の分布から評価する考え方は、他のがんの研究にも広がる可能性があるとしている。
成果は米科学アカデミー紀要PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)のオンライン版(2026年2月18日付)に掲載された。