世界

欧州でがん再発や進行の把握の仕組みが変わる

増え続ける「がんサバイバー」を支える新たな試み

医療者が患者にタブレットを見せながら説明している様子
医療者が検査結果などを説明する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 欧州で、がん患者の再発や進行を継続的に把握するための仕組み作りが本格的に動き出している。

増え続けるがんサバイバー

医師と向き合い相談する患者の様子
診察で医師に症状を相談する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 2020年時点で、欧州29カ国のがんサバイバーは2370万人に上ると推計されている。
  • 従来のがん登録は初発がんの情報が中心で、再発や進行には統一した定義や収集方法がなかった。
  • 欧州14カ国の専門家が協議し、再発・進行・transformationを含む共通の整理を進めた。

 この仕組み作りは、欧州がん登録ネットワーク(European Network of Cancer Registries、ENCR)主導で進められている。

 背景にあるのは、がんと診断された後に生きる、いわゆる「がんサバイバー」の増加だ。

 報告によれば、2020年時点で欧州の共同調査「EUROCARE-6」に参加した29カ国において、がんサバイバーは2370万人に上ると推計されている。

 治療の効果が高まっていることが進展である一方、再発や病気の進行を経験する患者も少なくない。医療提供体制や支援のあり方を考える上で、再発や進行についての状況を正しく把握することの重要性が高まっている。

 これまで欧州のがん登録は、新たに診断された人、がんのステージ、生存率など、最初に発症したがんに関するデータは長く蓄積され、標準化が進められてきた。それに対して、再発や進行については欧州全体で統一された定義や収集の方法が存在していなかった。

 そこで欧州がん登録ネットワークは14カ国の専門家を集め、固形がんと血液がんの双方を対象に、再発と進行の定義、標準化すべき情報を検討した。

 検討では、専門家が段階的に意見を出し合って合意を形成する手法が用いられた。2023年の調査や同年のワークショップ、さらに欧州がん登録ネットワークのメンバー全体への意見照会を経て、内容が練り上げられた。

 報告では、再発を「腫瘍縮小治療後に無病期間を経てがんが再び現れること」、進行を「治療後も完全奏効が確認されない中で病勢が増大すること」と整理した。

 また、腫瘍が緩徐な性質から侵襲性の高い性質へ変化する「transformation」も、再発や進行の枠組みに含めて扱う方針が示された。これにより、登録実務において曖昧になりやすかった事象を、比較可能な形で捉える下地が整いつつある。

まずは共通ルールの整備

研究者が実験データを記録している様子
研究者が記録する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 報告は、再発や進行を重要情報と位置づけ、登録現場で使える実務的な指針としてまとめた。
  • 欧州の人口ベースがん登録では、31%が全がん種、11%が特定がん種で再発・進行データを収集している。
  • 追加の人員や研修、臨床データへのアクセス改善が課題だが、2025年1月から収集体制の整備が始まっている。

 今回の報告で特に重要なのは、再発や進行を重要情報として扱うべきだと示しただけでなく、登録時に必要な定義、項目、記録方法を具体化した点だ。

 調査では、欧州の人口ベースがん登録のうち、再発と進行のデータを全がん種で収集しているのは31%にとどまり、11%は特定のがん種に限って収集していることが示された。

 一方で、多くの登録機関は、こうしたデータ収集には追加の人的資源、研修、臨床データへのより良いアクセスが必要だと回答している。

 それでも、2025年1月から指針に基づく収集体制の整備が始まっている。再発や進行に対して、原発がんの診断時期にかかわらず適用が始まった。さらに報告では、米国とも連携し、欧州外でも使える再発と進行の定義づくりが進められていることに触れており、この動きが国際標準化へ広がる可能性もある。

 十分な人材などのリソース確保という課題は残るものの、増え続けるがんサバイバーを支える医療政策と研究を前に進める上で情報収集は価値を持つと考えられる。日本でも参考となる可能性がある。

参考文献

Hawkins ST, Mitchell HJ, Bennett D, Maso LD, Farré X, Giusti F, Graham K, Huws DW, Lai J, Lyratzopoulos G, Marcos-Gragera R, Martos C, Manson C, Michalek I, Morgan E, Morrison D, Mousavi M, Carvalho RN, Nennecke A, Ortelli L, Randi G, Rous B, Smith K, Trojanowski M, Eycken LV, Neamtiu L, Verdoodt F, Visser O, Wicker T, Zadnik V, Gavin AT. European expert consensus on cancer recurrence and progression data collection by population based cancer registries. Cancer Epidemiol. 2026 Apr 6;102:103067. doi: 10.1016/j.canep.2026.103067. Epub ahead of print. PMID: 41946283.
https://doi.org/10.1016/j.canep.2026.103067

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

大腸がん検診、便潜血「陽性」の後が課題 精密検査の受診から結果把握まで「組織型検診」の体制整備を

大腸がん検診では、新しい検査技術の開発が進む一方、現在の検診を十分に活用できていないことが課題となっている。特に、便潜血検査で陽性となった人が確実に精密検査…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
キャプション 第54回日本磁気共鳴医学会大会で開催された「子宮肉腫の鑑別、最新事情」のシンポジウム。良性の子宮筋腫と子宮肉腫を見分ける難しさや、MRIによる診断精度の向上、AIを活用した診断支援の研究などが紹介された。(写真:編集部)

子宮肉腫、良性の子宮筋腫と見分ける難しさに挑む MRIの診断方法を改善、AI活用の研究も進む

子宮にできる悪性腫瘍の一つである「子宮肉腫」。良性の子宮筋腫と似た画像を示すことがあり、MRIを使っても手術前に正確に見分けることが難しい場合がある。肉腫を…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。乳房MRIをテーマにしたシンポジウムでは、超高速撮影による乳がんの検出や、拡散強調画像(DWI)を利用して不要な生検を減らす可能性などが議論された。(写真:編集部)

乳がんを見つけやすくする「ウルトラファストダイナミックMRI」、不要な生検を減らす研究も

乳がんの診断に使われるMRIの撮影技術が進歩し、これまで見つけにくかった病変を捉えたり、良性か悪性かを詳しく調べたりする研究が進んでいる。

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

MRIなどの画像の特徴を数値化、病気の発見や予測に役立てる「ラジオミクス」の研究進む

MRIやCTなどの医療画像には、病変の大きさや形だけでなく、濃淡や細かな模様など、医師が目で見るだけでは捉えにくい情報も含まれている。こうした特徴を数値化し…

医療従事者が手袋を着用し、腕の静脈から採血している様子。採血針を刺した部分をガーゼで押さえている。
採血した血液中のDNAを解析する「リキッドバイオプシー」が、診断の難しい悪性リンパ腫の検出に役立つ可能性が示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

診断が難しい悪性リンパ腫、採血による遺伝子検査で従来より高い検出率

原因不明の発熱が続く場合、その背景に悪性リンパ腫が隠れていることがある。そうした悪性リンパ腫について、採血によって血液中の遺伝子を解析する方法が、従来の皮膚…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す