膵臓の慢性炎症はなぜがんに進むのか 加齢やストレスで増えるタンパク質「CXCL13」に注目
京都大学CiRAが発表

膵臓がんの原因の一つとされる慢性炎症に、CXCL13というタンパク質が関わることが示された。
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究グループが、2026年5月に発表した。
加齢やストレスで膵臓に生じる「炎症の土壌」

- 膵臓がんは早期発見が難しく、慢性炎症が発生や進行に関わると考えられている。
- 研究では、加齢や膵臓へのストレスによってCXCL13が増えることをマウスで確認した。
- CXCL13が増え続けると免疫細胞が集まりすぎ、炎症が長引いてがんが進みやすい環境を作る可能性がある。
膵臓がん、特に膵管腺がんは、早期発見が難しく、症状が出にくく、見つかった時には進行していることも多い。治療が難しいこともあり、早期発見や予防につながる研究が重要になっている。
これまで、膵臓がんには喫煙や糖尿病、加齢、慢性炎症などが関わると考えられてきた。特に慢性炎症は、膵臓の中に長く炎症が続く状態であり、がんが発生したり進んだりする原因の一つとされている。ただし、膵臓の中でどのように炎症が長引き、がんが進みやすくなるのかは十分に分かっていなかった。
研究グループは「CXCL13」に注目した。CXCL13は、免疫細胞を呼び集める働きを持つタンパク質。今回の研究では、膵臓にストレスがかかったり、年齢を重ねたりするとCXCL13が増え、炎症が長引くことが分かった。
マウスを使った実験で、膵臓の細胞にストレスを与えた場合や、高齢のマウスの膵臓でCXCL13が増えることを確認。研究では、これが膵臓の細胞にかかるストレスを知るための手掛かりになると見なした。
CXCL13の働きは、もともとは体を守る反応とも考えられる。傷ついた組織を修復するために、周囲の細胞や免疫の働きを調整する可能性がある。しかし、この反応が長く続くと、免疫細胞が集まりすぎて炎症が慢性化する。結果として、膵臓の状態が悪くなり、がんが進みやすい環境が作られると考えられる。
CXCL13は膵臓に負担がかかっている状態を知る手がかりになる可能性がある。将来、CXCL13を調べることで、慢性膵炎や膵臓がんのリスクを早く見つける検査につながることが期待される。
CXCL13を抑えると炎症やがんの進行が弱まる

- CXCL13を抑える抗体により、老化した細胞や免疫細胞の異常な集まりが減ることを確認した。
- 膵臓がんを発症するマウスでは、CXCL13を抑えることでがんの進行が大きく抑えられた。
- CXCL13は炎症だけでなく、がんの増殖や線維化にも関わる可能性があり、検査や治療の標的として期待される。
さらに研究では、高齢のマウスの膵臓で、老化した細胞や免疫細胞が多く集まっていることも確認された。そこで、CXCL13の働きを抑える抗体を使ったところ、老化した細胞が減り、免疫細胞が異常に集まる状態も抑えられた。加齢に伴う膵臓の脂肪化も改善したという。
さらに、膵臓がんを発症するマウスで調べると、膵臓にストレスがかかった場合、がんが大きくなりやすく、がんの周囲に硬い組織が増える線維化も進んでいた。線維化は、がんの治療を難しくする要因にもなる。
そこで研究グループは、CXCL13の働きを抑えた場合に、がんの進み方が変わるかを調べた。膵臓がんを発症するマウスに、CXCL13を抑える抗体を投与したところ、がんの進行は大きく抑えられた。
さらに、CXCL13の影響を受けて細胞の増殖に関わる仕組みを抑える薬剤を使った場合にも、同じようにがんの進行が抑えられた。がん細胞の増殖だけでなく、周囲の細胞ががんに近い状態へ変化することや、がんの周りに硬い組織が増える線維化も減っていた。
この結果から、CXCL13は炎症を長引かせるだけでなく、膵臓がんを進みやすくする中心的な因子である可能性が示された。将来、CXCL13の働きを調べたり抑えたりすることが、膵臓がんの検査や治療の開発につながる可能性がある。
現時点では研究の初期ではあるものの、CXCL13を調べることで、膵臓の炎症や膵臓がんのリスクを評価できるようになる可能性がある。膵臓がんは、早く見つけることが難しいからこそ、がんになる前の炎症や、がんが進みやすい状態を捉えることが重要と見られる。
膵炎が膵臓がんのリスクにつながるという報告もある。今後、こうした膵臓の炎症が注目される可能性がある。
参考文献
膵臓のストレス応答因子「CXCL13」を特定 ―慢性炎症とがん進行を制御する新メカニズムを解明―(京都大学iPS細胞研究所 CiRA)
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/260502-030000.html
慢性膵炎で膵臓がんリスク約6.4倍 定期検査で生存率向上の可能性(PREVONO)
https://prevono.net/research/1106/
この記事の執筆者
星良孝
PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。





