研究

痛みが乳がんの進行を促す可能性

星薬科大学と国立がん研究センターが発表

胸に手を当てる女性の上半身。乳房の違和感やセルフチェックを示すイメージ。
乳房や胸の違和感を確認する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 がんによる痛みが、乳がんの進行に関わる可能性が示された。

 星薬科大学と国立がん研究センターの研究グループが、2026年4月に研究成果として発表した。

痛みを伝える神経が、乳がん細胞を刺激

脇の下に手を当てる人の上半身。わきの違和感やしこりの確認を示すイメージ。
わきの下の違和感を確認する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • がんの痛みは、生活の質を下げる症状としてだけでなく、乳がんの進行に関わる可能性が示された。
  • 痛みを伝える知覚神経から出るCGRPやサブスタンスPの濃度は、痛みの強さや生存期間と関係していた。
  • これらの物質を含む培養液を加えると、乳がん細胞の増殖や移動、抗がん剤への抵抗性が高まった。

 がんの痛みは、患者の生活の質を大きく下げる症状となる。これまでは主に、つらさを和らげるために管理すべき症状として考えられてきた。

 一方で今回の研究は、痛みが「結果」として起こるだけでなく、がんの進行に関わる可能性を示した点が特徴だ。

 研究グループは、乳がん患者を対象にした観察研究で、痛みの強さと病状の進行に関係がある可能性を確認。

 痛みを伝える知覚神経から出る「CGRP」と「サブスタンスP」という物質の血中濃度は、痛みの強さと関係していた。さらに、これらの濃度が高い患者では、生存期間が短い傾向も見られた。

 仕組みを調べるため、研究グループはヒトiPS細胞から、痛みを伝える神経を作った。この神経を光で刺激すると、痛みの信号に関わる「CGRP」や「サブスタンスP」という物質が放出された。

 次に、これらの物質を含む培養液を乳がん細胞に加えた。すると、乳がん細胞は増えやすくなり、移動しやすくなった。さらに、抗がん剤が効きにくくなる変化も見られた。

 この結果から、痛みを伝える神経から出る物質が、乳がん細胞を進行しやすい状態に変える可能性が示された。

痛みの信号を抑える治療につながる可能性

白衣を着た医師が、診察室で患者と向き合いながら説明している様子。
診察室で医師に相談する患者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 動物実験では、痛みを伝える神経を刺激すると腫瘍が大きくなりやすくなる傾向が確認された。
  • CGRPやサブスタンスPの働きを薬で抑えると、腫瘍の進行が抑えられた。
  • 痛みの神経には、がんを進める働きと抑える働きの両方があり、今後の支持療法への応用が期待される。

 動物を使った実験でも、痛みを伝える神経を刺激すると、腫瘍が大きくなりやすくなった。患者の腫瘍に近い状態を再現した実験でも、同様の傾向が確認された。

 反対に、「CGRP」や「サブスタンスP」の働きを薬で抑えると、腫瘍の進行は抑えられた。

 つまり、痛みを伝える神経から出る物質を止めることが、がんの進行を抑える方法になる可能性がある。

 さらに研究では、痛みを伝える神経が、がんを進める物質だけでなく、がんを抑える方向に働く物質も出していることが分かった。その一つが「ダイノルフィン」である。ダイノルフィンは痛みを抑える物質で、研究では、腫瘍の進行を弱める可能性も示された。

 この結果から、痛みを伝える神経には、がんを進める「アクセル」と、がんを抑える「ブレーキ」の両方があると考えられる。将来は、がんを進める働きを抑え、がんを抑える働きを生かす治療が、痛みの管理とがん治療を同時に支える方法になる可能性がある。

 今回の成果は、痛みを和らげるだけでなく、痛みを伝える神経の働きを抑えることが、がんの進行を抑える手掛かりになる可能性を示した。将来は、痛みの管理とがん治療を組み合わせる新しい支持療法につながる可能性がある。

 ただし、現時点では研究段階であり、すぐに治療へ使えるわけではない。今後は、より大規模な臨床研究で有効性や安全性を確かめる必要がある。

参考文献

成田 年教授らの研究グループが、研究成果を国際学術誌『Pharmacological Research』に発表しました(星薬科大学)
https://www.hoshi.ac.jp/news/news-study/44133/

Makabe H, Narita M, Nagumo Y, Fujiwara M, Hamada Y, Takise J, Yoshizawa T, Sano S, Iizuka S, Asaba E, Suda Y, Mori T, Saitoh T, Nagase H, Tawfik VL, Yagishita S, Hamada A, Yonemori K, Takayama S, Yoshida M, Yoshizawa R, Suzuki KGN, Kasai RS, Kuzumaki N, Satomi E, Narita M. Pain signaling via sensory neurons drives breast cancer progression through neuropeptide release and κ-opioid counter-regulation. Pharmacol Res. 2026 Mar;225:108113. doi: 10.1016/j.phrs.2026.108113. Epub 2026 Jan 28. PMID: 41616927.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41616927/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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