コラム

膵臓がんを血液などで早く見つける手掛かりに エクソソーム研究の可能性と課題

慈恵医大が検査研究の現状を整理、一般利用には標準化と検証が課題

細胞膜のような層の上に、エクソソームや細胞外小胞を思わせる透明な球体が浮かんでいる様子。
細胞膜と細胞外小胞の関係を模式的に表したもの。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 いわゆる「エクソソーム」は、がんの検査に使えるのか。

 東京慈恵会医科大学の研究グループが、膵臓がんを対象に、細胞外小胞を使った検査の可能性と課題を整理し、2026年2月に報告した。

がん細胞の情報を運ぶ小さな粒子

組織表面の上に、エクソソームや細胞外小胞を思わせる小さな球状構造が浮かぶ様子。
組織表面に浮かぶエクソソームや細胞外小胞。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • エクソソームは、細胞が外へ放出する小さな粒子の一種で、細胞外小胞に含まれる。
  • 細胞外小胞にはタンパク質やRNA、DNA、脂質などが含まれ、元の細胞の状態を反映する可能性がある。
  • がん細胞が出す細胞外小胞を調べることで、がんの有無や性質を知る手掛かりになる可能性がある。

 エクソソームは、細胞が外へ放出するごく小さな粒子の一種のことだ。細胞は、こうした粒子を周囲に放出し、ほかの細胞に情報を伝えている。エクソソームを含む小さな粒子は、まとめて「細胞外小胞」と呼ばれる。

 総説では、細胞外小胞の中には、タンパク質、RNA、DNA、脂質などが含まれ、元の細胞の状態を反映する可能性があると説明している。いわば、細胞から持ち出された情報の一部であり、どの細胞から出てきたのか、その細胞がどのような状態にあるのかを知る手掛かりになり得る。

 がん細胞も細胞外小胞を放出する。膵臓がんの場合、細胞外小胞の中に、がんに関係するタンパク質、マイクロRNA、DNAの変化などが含まれることがある。総説では、がんに関わる遺伝子変化や、治療への抵抗性に関係する情報が、細胞外小胞を通じて血液中などに出てくる可能性が整理されている。

 このため、血液などに含まれる細胞外小胞を調べれば、体の中にがんがあるか、がんがどのような性質を持っているかを知る手掛かりになる可能性がある。従来の腫瘍マーカーや画像検査では捉えにくい早い段階の変化を、細胞外小胞から読み取れるかもしれないという点が注目されている。

特に期待される膵臓がんへの応用

人体の上半身の内部構造が透過表示され、膵臓がオレンジ色で強調されている様子。
体内にある膵臓の位置を示した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 膵臓がんは症状が出にくく、早期発見が難しいため、細胞外小胞を使った検査への期待が高い。
  • 膵臓がん由来の細胞外小胞には、タンパク質やマイクロRNA、DNAの変化などが含まれることがある。
  • 複数の目印を組み合わせることで、がんの有無や進行の程度、治療への反応を知る手掛かりになる可能性。

 特に期待されているのが、膵臓がんの検査への応用だ。膵臓がんは、症状が出にくく、見つかった時には進行していることが少なくない。血液検査で使われる腫瘍マーカーのCA19-9も、早い段階の膵臓がんを見つけるには十分とはいえない。画像検査も重要だが、小さな病変をすべて拾い上げられるわけではない。

 今回の総説では、膵臓がんの5年生存率は約10%にとどまり、早期発見の方法を確立することが大きな課題とされている。その中で、血液や体液に含まれる細胞外小胞は、新しい検査の候補として位置づけられている。

 膵臓がんから出る細胞外小胞には、がんに関係するタンパク質のほか、遺伝子の働きを調整するマイクロRNA、タンパク質を作らないが細胞の働きに関わる長鎖ノンコーディングRNA、DNAの変化などが含まれることがある。これらを調べることで、がんの有無だけでなく、進行の程度や治療への反応を知る手掛かりになる可能性がある。

 例えば、細胞外小胞の表面にあるタンパク質や、中に含まれるマイクロRNAの組み合わせを調べる研究が進んでいる。さらに、膵臓がんでよく見られる遺伝子変化を、細胞外小胞に含まれるDNAから読み取ろうとする研究もある。総説では、単独の目印だけで判断するのではなく、複数の情報を組み合わせて精度を高めようとする流れが紹介されている。

 細胞外小胞が注目される理由の一つは、中に入った分子が壊れにくいことだ。血液中をただ漂うRNAやDNAよりも、膜に包まれた状態で運ばれるため、もとの細胞の情報を比較的保ちやすいと考えられている。総説では、膵臓がんのように早い段階では血液中に出てくるがん由来の情報が少ない病気で、この性質が検査への応用で重要になる可能性があると整理している。

一つひとつの粒子を調べる技術も進む

透明な球体の中に小さな粒子が集まり、組織表面の上に複数浮かんでいる様子。
細胞外小胞やエクソソームの構造を模式的に表したもの。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 血液中には正常な細胞由来の粒子も多く、がん由来のわずかな情報が埋もれる可能性がある。
  • 「単一細胞外小胞解析」により、がん由来のまれな粒子や遺伝子変化を持つ粒子を見分けられる可能性。
  • 膵液や胆汁、十二指腸液など、膵臓に近い場所の液体を調べる方法も研究されている。

 総説では、細胞外小胞を使った検査技術が、より細かく情報を読み取る方向へ進んでいることも紹介されている。

 従来は、血液などに含まれる多数の細胞外小胞をまとめて測る方法が中心だった。しかし、血液中には、がん細胞から出たものだけでなく、正常な細胞から出た粒子も大量に混ざっている。そのため、全体をまとめて測るだけでは、がん由来のわずかな情報が埋もれてしまう可能性がある。

 そこで注目されているのが、一つひとつの細胞外小胞を詳しく調べる「単一細胞外小胞解析」だ。総説では、「ナノフローサイトメトリー」、「超解像イメージング」、「ラマン分光」などの技術が紹介されている。こうした方法を使えば、がん由来のまれな粒子や、遺伝子変化を持つ粒子を見分けられる可能性がある。

 もう一つの方向性が、内視鏡を使って膵臓に近い場所から液体を採取する方法である。血液だけでなく、膵液、胆汁、十二指腸液、門脈血などを調べることで、膵臓がんに近い情報を得られる可能性がある。血液よりも、がんの近くにある液体の方が、がん由来の情報を多く含む可能性があるためだ。

 一方で、こうした内視鏡を使う方法は、体への負担がある。一般の人を広く対象にした検診というより、膵臓がんのリスクが高い人、画像検査で判断が難しい病変がある人、既に内視鏡検査が必要な人に向く方法と考えられる。

期待は大きいが、検診利用にはまだ課題

研究者が実験データを記録している様子
研究者が記録する様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 細胞外小胞を使った検査は、膵臓がんの早期発見やリスク評価、治療効果の確認に役立つ可能性。
  • 一般的な検診として広く使うには、測定法の標準化や大規模な検証が必要になる。
  • 現時点では既存の腫瘍マーカーや画像検査を置き換えるものではなく、それらを補う新しい選択肢として研究が進んでいる。

 細胞外小胞を使った検査にも、まだ課題は残る。

 リキッドバイオプシーそのものは、既に医療の一部で実用化が進んでいる。血液などからがんに関係する遺伝子変化や分子情報を調べる検査は、診断補助や治療選択、経過観察に使われる場面が出てきている。

 一方で、総説が扱っているのは、膵臓がんを対象に、エクソソームを含む細胞外小胞から早期発見やリスク評価につながる情報を読み取れるかというテーマだ。この領域では、まだ測定法や使い方をそろえる必要があるとされている。

 細胞外小胞は小さく、血液中には正常な細胞から出た粒子も大量に混ざっている。採血の方法、保存条件、細胞外小胞の取り出し方、測定機器が少し違うだけでも、結果が変わる可能性がある。総説でも、こうした手順の違いが、研究結果を比べにくくしてきた要因として整理されている。

 エクソソームを含む細胞外小胞の検査は、膵臓がんの早期発見、リスク評価、治療効果の確認に役立つ可能性がある。ただし、一般的な検診として広く使うには、測定法の標準化、大規模な検証、どの人に使うべきかの整理が必要になる。

 このため「エクソソームでがんを簡単に見つける検査」と一括りに受け止めるのは慎重さが求められている。現実的には、既存のリキッドバイオプシーや腫瘍マーカー、画像検査を置き換えるものではなく、それらを補い、膵臓がんの情報をより細かく読み取るための新しい選択肢として研究が進んでいる技術と見るのが適切だ。

参考文献

Shimamoto N, Sumiyama K, Fujita Y. Extracellular vesicle biomarkers in pancreatic ductal adenocarcinoma: from bulk detection to single-extracellular vesicle profiling and endoscopic liquid biopsy. J Gastroenterol. 2026 Feb 6. doi: 10.1007/s00535-026-02350-3. Epub ahead of print. PMID: 41649504.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41649504/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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