エクソソームなどの細胞外小胞は、がん検査に使えるのか。
前回は、膵臓がんを対象に、細胞外小胞を使った検査の可能性を示した、東京慈恵会医科大学の総説を紹介した。
日本では、これに近い分野の研究が他にも進んでいるので引き続き見ていく。
その一つが、大腸がんを対象に、便に含まれる細胞外小胞を調べた研究だ。栄研化学の研究グループが、2026年1月に論文として報告した。
便の中の「細胞外小胞」からがんの情報を探る
大腸の異常や検査・治療を表した説明図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
便潜血検査は便に含まれる血液を調べる検査だが、出血が少ないがんなどは拾いにくい可能性がある。
研究では、便に含まれる細胞外小胞に注目し、腸や腫瘍から出た分子情報を調べる発想が示された。
便中の細胞外小胞にはタンパク質やRNAなどが含まれ、大腸がんの新しい手掛かりになる可能性がある。
論文では、大腸がん検診の代表的な方法として便潜血検査に触れている。便潜血検査は、便を提出して、便に含まれる血液成分を調べる検査で、一般に広く使われている。
一方で、論文は、この検査が「出血」を手掛かりにしているため、出血が少ないがんや、がんになる前の病変を十分に拾えない可能性があると説明している。
また、便潜血検査で陽性となった場合には、大腸内視鏡検査による確認が必要になる。
このため便潜血検査は大腸がんを確定する検査ではなく、詳しい検査につなげるための入り口となる検査だ。
こうした背景の下、論文が注目したのが「便の中に含まれる細胞外小胞」だ。
細胞外小胞は、細胞が外へ放出する小さな粒子で、エクソソームもその一種に含まれる。中にはタンパク質やRNA、DNA、脂質などが含まれ、放出した細胞の状態を反映すると考えられている。
大腸がんでは、腫瘍は便の通り道である腸の内側にできる。そのため、便には血液のほか、腸の粘膜や腫瘍から出た成分も含まれる可能性がある。そこには腫瘍からの細胞外小胞が含まれる可能性がある。
そこで便中の細胞外小胞を調べて、腸の細胞や腫瘍から出たタンパク質などの情報を読み取れる可能性が考えられる。これが、大腸がんに関係する新しい手掛かりとなり得る。
便潜血検査が「血液」を手掛かりにする検査だとすれば、便由来の細胞外小胞を調べる方法は、腸の細胞や腫瘍から出る「分子情報」を見ようとする発想に近いといえる。
便潜血とは違う新しい目印になる可能性
腸管内にできたポリープを示した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
栄研化学の研究グループは、便から細胞外小胞を取り出し、中に含まれるタンパク質を網羅的に解析した。
大腸がん患者の便由来細胞外小胞では、複数のタンパク質の出方に特徴的な違いが見られた。
実用化にはさらなる検証や方法の標準化が必要だが、便潜血とは異なる新しい検査につながる可能性がある。
今回、研究グループは、便から細胞外小胞を取り出し、その中に含まれるタンパク質を網羅的に調べた。こうした方法は「プロテオーム解析」と呼ばれ、多数のタンパク質をまとめて調べ、病気に関係する特徴を探す手法である。
結果として、大腸がん患者の便由来細胞外小胞で、複数のタンパク質の出方に違いが見られた。便の中には多くの成分が混ざるが、その中から細胞外小胞を取り出して調べることで、大腸の病変に近い情報を拾える可能性がある。
こうした検査が実現するならば、大腸がん検査としての実用性が高い可能性がある。便を使う検査であれば、利用者にとっては採血や内視鏡を伴わない負担の少ない方法になり得る。
もっとも、現時点では、便由来細胞外小胞が大腸がん診断に役立つ可能性を示した段階で、実際に検査として使うには、対象者を増やした検証、便の採取や保存方法の標準化、どのタンパク質をどのように測るかの整理が必要になる。そうした前提はあるものの、今回の研究は、エクソソームなどの細胞外小胞が、将来的に検査の分野で応用される可能性を示した、今後の検査開発につながる手掛かりとして注目される。