研究

市販の医療AI、本当に誰にでも同じように使えるのか

252製品を扱う研究をレビューし、患者集団ごとのAI性能が報告されているかを調査

人体の骨格や脳画像などを表示したタブレットを確認する医療従事者。
放射線診断AIでは、医用画像を解析する性能が患者集団によって異ならないかを確認する必要がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 市販の医療AIは、誰に対しても同じように高い性能を発揮するのか。

 放射線診断に使われるAI(人工知能)について、性別や年齢、人種および民族などによって性能に差がないかを確かめた研究は、まだ限られていることが分かった。

 大阪公立大学の研究グループが2026年6月に論文で報告した。

集団ごとの性能まで示したのは一部

タブレットを操作する医師と、クラウド上の医療データ管理を示すデジタルイメージ。
市販の医療AIでは、全体の性能だけでなく、性別や年齢など患者集団ごとの検証も重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 市販の放射線診断AIを検証した545件の研究を調べ、性別や年齢、人種および民族ごとの性能報告の状況を分析した。
  • 患者集団の内訳を示した研究は392件あったが、集団ごとのAI性能まで報告した研究は77件にとどまった。
  • 年齢や人種・民族では患者の内訳自体を示していない研究も多く、誰に対しても同程度の性能かを判断する情報は不足していた。

 大阪公立大学の発表では、医療用AIが特定の患者集団で十分に検証されていない場合、性別や年齢、人種および民族という条件の違いによって性能に偏りが生じる可能性があると説明している。

 AIが異なる患者集団でも同程度の性能を発揮するかを確かめるには、全体の成績だけでなく、それぞれの集団に分けた評価が必要になる。

 今回の研究で対象となったのは、放射線医学の分野で医用画像を解析する市販のAI製品だ。545件の研究には、肺領域のAIを扱った検証研究が139件、骨格系が88件含まれていた。画像の種類では、胸部X線を使った研究が79件、骨X線が63件だった。こうした製品には、画像から病変などを検出する診断支援AIも含まれる。

 研究グループは、こうした市販の放射線診断AIを実際の患者データで検証した研究を対象に、2010年以降に発表された論文を調べた。どのような研究がどれだけ行われているかを整理する「スコーピングレビュー」という方法を使い、性別、年齢、人種および民族の情報と、それぞれの集団でのAIの性能が報告されているかを確認した。

 対象となったのは252製品について報告した545件の研究だった。このうち、性別、年齢、人種および民族のいずれかについて患者の内訳を示していた研究は392件あった。しかし、その集団ごとのAIの性能まであわせて報告していた研究は77件にとどまった。

 項目別に見ると、患者の性別を報告した研究は比較的多かったが、男女それぞれの性能まで報告した研究は限られていた。年齢や人種および民族については、患者の内訳自体を示していない研究も多かった。

研究が新しくても、集団別の性能報告は増えず

人体の骨格や脳画像などを表示したタブレットを確認する医療従事者。
放射線診断AIでは、医用画像を解析する性能が患者集団によって異ならないかを確認する必要がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 研究が新しくなっても、性別や年齢、人種・民族ごとの性能報告が増えている傾向は確認されなかった。
  • 結核検出AIの21データセットのうち14件では、男女別の性能を十分に分析するには患者数が不足している可能性が示された。
  • 幅広い患者でAIの性能を確かめるには、研究設計の段階から患者集団ごとの評価を組み込むことが重要とされる。

 研究グループは、発表年や研究資金などによって、集団ごとの性能報告が増えているかも調べた。その結果、より新しく発表された研究だからといって、性別や年齢、人種および民族ごとの性能が報告されやすくなっている傾向は確認されなかった。また、製品メーカーによる研究支援の有無とも明確な関係は見られなかった。

 さらに結核を検出するAIの研究を例に、男女別の性能を十分に分析できるだけの患者数があるかを試算したところ、21のデータセットのうち14件、67%で、性別ごとの分析には患者数が不足している可能性が示された。集団別の性能を十分な精度で評価するには、研究の規模も課題になる可能性がある。

 研究グループは今後、研究設計の段階から性別、年齢、人種および民族などに分けた評価を取り入れることを促し、放射線診断以外の医療AIについても検証を続けるとしている。医療AIが幅広い患者に対して同じように性能を発揮するのかを判断するには、全体の精度だけでなく、患者集団ごとの性能を確認できる形で研究結果を示すことが重要になりそうだ。

参考文献

医療用AIにおける公平性の現状と課題を明らかに ~性別、年齢、人種・民族ごとの性能評価が限定的であると判明~(大阪公立大学)
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-25974.html

Walston SL, Takita H, Mitsuyama Y, Sato J, Ueda D. The current state of demographic subgroup reporting for commercially available AI for radiology: a scoping review. Eur Radiol. 2026 Oct;36(10):7512-7523. doi: 10.1007/s00330-026-12652-y. Epub 2026 Jun 12. PMID: 42286177; PMCID: PMC13574847.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42286177/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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