日本

胸部X線やCTから内視鏡、脳MRIまで活用が広がる

胸部X線・CT・内視鏡・脳MRIで進む活用と「人+AI」の課題

第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場受付付近に置かれた案内表示とくまモンのぬいぐるみ。
熊本市で開幕した第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場。(写真:編集部)

 健診で撮影される胸部X線やCT、内視鏡、脳MRIを、AIが医師と一緒に見る時代が近づいている。

 第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会では2026年9月5日、医療AIをテーマとしたシンポジウムが開かれた。

 登壇したのは、大阪大学大学院医学系研究科准教授の梁川雅弘氏、がん研究会有明病院上部消化管内科・胃担当部長の平澤俊明氏、東北大学加齢医学研究所講師の舘脇康子氏の3人。

AIで「見逃し」と「ばらつき」を減らせるか

第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の大会テーマと熊本城のイラストが表示された会場スクリーン。
「人生のそばに予防医療を」をテーマに開かれた第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会。(写真:編集部)
  • 胸部X線やCT、内視鏡では、AIが病変の検出や定量化を支援し、医師による見逃しや読影のばらつきを減らす可能性がある。
  • 早期胃がん画像の研究では、AIの感度は58.4%で内視鏡医平均の31.9%を上回った一方、特異度はAI87.3%、医師97.2%だった。
  • AIには偽陽性や施設・撮影条件による性能差もあるため、AI単独ではなく、医師と組み合わせたときの診断精度を検証することが重要になる。

 大阪大学の梁川氏は、胸部X線やCTにAIを使う研究の進展を紹介した。AIは肺結節などの異常を見つけるだけでなく、病変の大きさや特徴を数値化し、過去画像との比較や診断支援まで行う方向に進んでいる。将来的には、病変の検出から定量化、レポート作成までを一連の流れで支援することも想定されている。

 健診では、画像を読む医師の経験や専門性に差がある。梁川氏は、AIによって経験の浅い医師を支援したり、読影のばらつきを小さくしたりする可能性を指摘した。

 一方で、ある施設のデータで高い性能を示したAIが、別の地域や人種、異なる撮影条件でも同じように働くとは限らない。AI単独の精度を見るだけでなく、「医師がAIを使ったときに実際の診断がどこまで良くなるか」を確かめる必要があるという。

 がん研究会有明病院の平澤氏は、胃や大腸の内視鏡AIを取り上げた。

 内視鏡は、医師がカメラを動かしながら小さな病変を探す検査で、経験による差が出やすい。平澤氏は、この「職人芸」に頼る部分をAIで補い、どこで検査を受けても一定の水準で病変を見つけられるようにすることを大きな役割として示した。

 紹介された研究の一つでは、早期胃がんを含む2940枚の画像をAIと67人の内視鏡医が判定した。がんを正しく拾う感度はAIが58.4%、内視鏡医平均が31.9%だった。一方、がんではない画像を正しく判断する特異度は、AIが87.3%だったのに対し、内視鏡医は97.2%で、人のほうが高かった。

 この研究では、AIはがんを拾う感度が高かった一方、正常な画像まで異常と判断する偽陽性が多かった。内視鏡医は特異度が高く、両者には異なる強みがあることが分かる。

 現在の内視鏡AIには、病変を見つける「CADe」と、見つけた病変の良性または悪性などを判断する「CADx」がある。既に胃や大腸で実用化が進む一方、泡や粘液、光の反射などでAIが誤って反応することもあり、AIが解析しやすい画像を撮影することも重要になる。

脳MRIからアルツハイマー病の変化をAIで推定

AIシステムと医師、患者を描いた医療AIのイラスト
AIを活用した医療サービスのイメージ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 一般的な脳MRI画像から、AIがアミロイドβの蓄積に関連する特徴を読み取り、アルツハイマー病に関係する変化を推定する研究が進んでいる。
  • 約900例のMRIなどを使った研究では、アミロイドβ蓄積の判別性能を示すAUCが0.86だった。
  • 現時点でPETの代替として確立した検査ではなく、施設や装置が変わっても同じ性能が得られるかなど、さらなる検証が必要となる。

 東北大学の舘脇氏は、認知症分野で進むAI活用を紹介した。

 アルツハイマー病では、脳にアミロイドβと呼ばれる物質が蓄積する。これを詳しく調べるにはPET検査などが使われるが、設備や費用の面から、無症状の人に広く行うことは容易ではない。

 そこで舘脇氏らが研究しているのが、一般的な脳MRI画像から、AIを使ってアミロイドβが蓄積している可能性を推定する方法だ。MRIでアミロイドβそのものを見るのではなく、MRI画像に表れた脳のさまざまな特徴をAIが読み取って推定する。

 講演では、約900例のMRIとアミロイドβの情報を使ってAIを構築し、判別性能を示すAUCが0.86となった結果が紹介された。AUCは、AIが対象をどの程度正しく見分けられるかを示す指標で、1に近いほど判別性能が高いことを示す。MRIは国内の多くの医療機関にあり、放射性薬剤を使わず、繰り返し撮影しやすい。このため、将来的に、アルツハイマー病に関係する脳の変化をより身近に調べる方法につながる可能性がある。

 ただし、現時点ではPETの代わりになる検査として確立したわけではない。異なるMRI装置や施設でも同じ精度が得られるかなど、さらに検証が必要になる。

 また、本人に「将来の認知症リスクが高い可能性がある」と伝えれば、それだけで健康行動が変わるとは限らない。舘脇氏は、リスクを示した後に、運動や睡眠、生活習慣の改善まで継続してフォローする仕組みが必要だとした。

 3人の講演から見えてきたのは、AIが進歩しても、健診をそのままAI任せにできるわけではないということだ。AIは小さな異常を見つけたり、多くの画像を素早く確認したりするのが得意な一方で、正常なものを異常と判断したり、病変を見逃したりすることもある。また、使う施設や撮影条件によって性能が変わる可能性もある。

 現時点では、AIは医師の判断を支える使い方が中心だが、今後は一部の診断をAIが担う場面が増える可能性もある。重要なのは、AIに任せられる部分と、人の判断が必要な部分を見極めることだ。AIの得意なことと苦手なことを理解しながら役割分担を進めることが、健診の質を高める鍵になりそうだ。

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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