がん検診は、国が推奨するがん検診を基本としながら、一人ひとりのリスクや希望に応じて、ほかの検査を選ぶ考え方をどう位置付けるのか。
第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会では、大会長を務めた日本赤十字社熊本健康管理センター所長の吉田稔氏らが、3年間にわたる議論を踏まえ、職域などで行われる「任意型がん検診」の今後の方向性を示す「熊本宣言」を発表した。
対策型がん検診を基本に、個人に合った検査も科学的に考える
熊本市で開幕した第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場。(写真:編集部)
- 国が推奨する対策型がん検診を基本としつつ、個人のリスクや希望に応じた検査も科学的に評価する。
- 検査の利益だけでなく、不利益や限界も伝え、受診者が納得して選べる「共有意思決定」を重視する。
- QOLや就労、生活習慣の改善、がんサバイバーへの支援など、検診後の生活まで含めて考える。
現在、国が対策型がん検診として基本的に推奨しているのは、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがん種だ。目的は、単に多くのがんを見つけることではなく、検診によって死亡を減らし、その利益が偽陽性、偶発症、身体的負担、過剰診断などの不利益を上回ることにある。
一方、人間ドックや職場などで行われる任意型がん検診では、個人の家族歴や生活習慣、これまでの病歴、本人の希望などに応じて、対策型がん検診とは異なる検査が選ばれることもある。
熊本宣言では、こうした任意型がん検診を単に自由な検査として扱うのではなく、科学的根拠を集め、本人にとってどのような利益があるのかを検証していく必要性が示された。
示された7項目は、次の通りだ。内容は、編集部でかみ砕いて表現している。
1.科学的根拠に基づく評価の推進 国が勧めるがん検診を基本にしながら、人間ドックなどで行われる新しい検査についても、本当に役立つのかをデータで確かめていく。単に新しい検査だから受けるのではなく、どんな人に、どの程度の利益があるのかを評価する。
2.共有意思決定(Shared Decision Making)の推進 シェアード・ディシジョン・メーキングは、医療従事者と受診者が検査に関する情報を共有し、その上で一緒に方針を決める考え方だ。検査の利益だけでなく、不利益や限界、ほかの選択肢についても説明し、受診者が内容を理解して納得した上で検査を選べるようにする。検査前の説明だけでなく、結果が出た後の説明も重視する。
3.個人のヘルスリテラシー向上への貢献 がん検診を受けて終わりにせず、結果をきっかけに、食事、運動、喫煙など、自分の生活習慣やがん予防について理解を深め、自分で健康を守る行動につなげる。
4.QOL・ウェルビーイングの尊重 がん検診の価値を、死亡を減らせるかどうかだけで考えない。早期に発見することで、治療の負担を軽くできるか、仕事を続けられるか、普段の生活を保てるかといった点も含めて考える。
5.特定の必要性を持つ個人への適切な支援 誰もが同じ検診で十分とは限らない。遺伝的にがんのリスクが高い人、ピロリ菌を除菌した人などには、その人のリスクに応じた検査や健康管理を考える。ここでは、がん治療後も長期的な健康管理が必要な「がんサバイバー」への支援も挙げられた。がんの治療が終わればそれで終わりではなく、その後の生活まで支える予防医療を考える。
6.健康経営など社会的価値への貢献 がんを早く見つけることは、本人の健康だけでなく、仕事や家族にも関わる。入院や通院、休職や離職を減らし、治療しながら働き続けやすくすることも、検診の価値として考える。
7.社会への適切な普及と責任ある支援 良さそうな検査をただ広めるのではなく、国や自治体、企業、保険者、医療機関などが連携して、本当に必要な人に適切な検査を届ける。学会も、その検査が有効かどうかを検証し、分かりやすい情報を出し続ける。
検査を受けるだけでなく「その後」までつなげる
「人生のそばに予防医療を」をテーマに開かれた第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会。(写真:編集部)
- 熊本宣言は検査項目を増やすことではなく、本当に必要な検査を見極めることを目指している。
- 遺伝的リスクが高い人やがん治療経験者などには、一律ではなく個別のリスクに応じた検診や健康管理が必要になる。
- 死亡率だけでなく、治療の負担や仕事、生活の質、家族への影響まで含めて検診の価値を評価していく。
熊本宣言が目指しているのは、任意型検診の項目を単純に増やすことではない。
検査には利益だけでなく、偽陽性や過剰診断、追加検査による身体的・心理的な負担などの不利益もある。そのため、受診者にとってどの検査が本当に必要なのかを、科学的根拠と本人の価値観の両方から考える姿勢が重要になる。
特に、一般的な対策型検診だけでは十分に対応しにくい人もいる。遺伝的にがんのリスクが高い人、ピロリ菌除菌後の人、がん治療を経験した人などでは、一律の検診ではなく、個別のリスクに応じた検査や健康管理が必要になる場合がある。
また、早期発見の価値を、死亡率の低下だけで測らない考え方も盛り込まれた。治療による身体的負担を減らせるか、仕事を続けられるか、生活の質を保てるか、家族の負担を減らせるかといった視点も、検診の価値として見ていく。
任意型がん検診を活用していく場合には、どの検査にどの程度の利益があり、誰に向いているのかを継続的に評価する必要がある。熊本宣言は、対策型検診を基本としつつ、一人ひとりに合った検診を、科学的根拠に基づいて考えていく方向性を示したものといえる。