コラム

台湾の肺がん検診が示す、早期発見と「見つけすぎ」の難しさ

低線量CTで早期肺腺がんは増加 進行がん減少は一部集団に偏り、評価は難しく

青空の下に広がる台北市街と、台北101を含む高層ビル群。
台湾・台北の市街地と台北101。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 過剰診断の問題を、肺がん検診から考えていく。

 第1回では、東アジア全体の状況を見た。第2回では、韓国で低線量CTによる肺がん検診が広がった後に、早期肺がんの発見や手術件数が増えたことを取り上げた。

 今回は、台湾のデータに目を向ける。第1回で紹介した総説でも、台湾の肺がん検診研究は重要な検討材料の一つとして扱われていた。台湾では、非喫煙者に多い肺腺がんを、低線量CTでどこまで見つけるべきかが、大きな論点になっている。

非喫煙者の肺がん検診で何が見つかっているか

画像検査装置の中で、検査台に横たわる患者に医療スタッフが声をかけている様子。
画像検査を受ける患者と対応する医療スタッフ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 台湾では、非喫煙者、特に女性に肺腺がんが多いことを背景に、低線量CT検診の研究が進められている。
  • TALENT試験では、1万2011人のうち318人、2.6%で肺がんが見つかり、その多くは肺腺がんだった。
  • 見つかった肺がんの約8割はステージIだった一方、ごく早い病変も含まれ、過剰診断の可能性も指摘された。

 台湾では、たばこを吸わない人にも肺がんが多く、特に女性で肺腺がんが多いことが知られている。こうした背景から、非喫煙者に低線量CT検診を行う研究が進められてきた。

 2024年に報告されたTALENT試験は、その代表的な研究だ。

 対象は55〜75歳で、たばこを吸ったことがない人、または喫煙歴が少ない人だった。肺がんの家族歴や受動喫煙など、肺がんに関係する可能性のあるリスク因子を持つ人が含まれた。

 台湾では、2022年7月に公的な低線量CT検診が始まった。対象には、50〜74歳で20パック・年以上の喫煙歴がある喫煙者や、禁煙後15年以内の元喫煙者だけでなく、肺がんの家族歴がある50〜74歳の非喫煙者も含まれる。TALENT試験は、この公的検診が始まる前の2015〜2019年に、非喫煙者または軽喫煙者を対象として実施された前向き研究である。

 低線量CTを行った結果、1万2011人のうち318人、2.6%に肺がんが見つかった。見つかった肺がんのほとんどは、非喫煙者に多い「肺腺がん」と呼ばれるタイプだった。さらに、約8割はステージIで、低線量CTによって症状が出る前の早い段階で肺がんを見つけられる可能性を示す結果となった。

 一方で、318人の中には、上皮内腺がんも61人含まれていた。上皮内腺がんは、ごく早い段階の病変で、将来どの程度進行するかの見極めが問題になる。研究では、こうした病変を含め、過剰診断が起きた可能性にも触れている。

 そこで重要になるのが、台湾全体で見たときに、早期がんの発見増加が進行がんの減少につながっているかという点だ。早期がんが増えたからといって、検診の利益がそのまま証明されるわけではない。検診が本当に効果を上げているなら、将来進行肺がんとして見つかる人が減ることも期待されるからだ。

進行がんの減少は明確ではなかった

CT検査装置の前で、検査台に横たわる患者と医療スタッフが向き合っている様子。
CT検査前に患者の状態を確認する医療スタッフ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 台湾の全国データでは、低線量CT検診の広がりとともに、ステージ0やステージIの早期肺腺がんが大きく増えていた。
  • 一方で、ステージII〜IVの進行肺腺がんは全体では明確に減っておらず、早期発見の増加が進行がん減少に直結したとは言い切れない。
  • 55歳未満の非喫煙女性など一部の集団では進行肺腺がんの減少も見られ、検診の効果をめぐる評価は複雑になる。

 2026年に発表された台湾の全国データ研究は、この点を調べたものだ。台湾大学などの研究グループは、2011〜2023年の台湾がん登録データと、5つの医療センターでの自費低線量CT検診データを用いて、肺腺がんのステージ別の変化を分析した。

 今回の研究で分析された自費検診も、2024年のTALENT研究と同じように、公的検診が始まる前から広がっていたものだ。

 解析対象となった肺腺がんは12万6753例で、そのうち56.1%が女性、69.3%が非喫煙者だった。5つの医療センターで自費の低線量CT検診を受けた7万803人では、83.7%が非喫煙者で、62.4%が55歳未満だった。台湾では、喫煙歴のある高リスク者だけでなく、若く非喫煙の人にも低線量CT検診が広がっていたことが分かる。

 最も大きな変化は、早期肺腺がんの増加だった。肺腺がん全体の年齢調整罹患率は、2011年の人口10万人当たり18.8人から、2023年には35.1人へとほぼ倍増した。特にステージ0は年平均49.6%増、ステージIは年平均13.0%増と大きく増えていた。

 一方で、ステージII〜IVの進行肺腺がんは、全体では年平均0.1%減にとどまり、明確に減っていたとはいえなかった。早期がんが増えることで、割合としては進行がんが減ったように見えることがある。しかし、人口全体で進行がんそのものが大きく減ったかを見ると、結果は限定的だった。

 ただし、すべての集団で同じだったわけではない。55歳未満の非喫煙女性では、進行肺腺がんが年平均1.9%減り、ステージIVも年平均2.9%減っていた。ここでは、早く見つけたことで進行がんが減る、いわゆる「ステージシフト」が起きている可能性が示された。喫煙歴のある75歳以上でも、進行肺腺がんの減少が見られた。男性では年平均2.3%減、女性では3.9%減だった。

 死亡についても変化があった。肺腺がんと診断された人の死亡率は2015〜2023年に年平均2.0%低下していた。ステージIIIでは年平均5.0%減、ステージIVでは年平均1.6%減と、進行例でも死亡は下がっていた。ただし、これは低線量CT検診だけでなく、分子標的薬や免疫療法など治療の進歩も関係している可能性がある。そのため、検診だけの効果とは言い切れない。

 研究グループは、この結果について過剰診断の可能性にも注意を促している。ステージ0の上皮内腺がんや、進行がんになりにくい微小な病変が低線量CTで多く見つかるようになった可能性があるためだ。早期発見による利益が示唆される一方で、進行肺腺がんの減少は一部の集団に限られており、著者らは、リスクに応じた検診戦略が必要だとしている。

過剰診断だけでは説明できない可能性

検査室に設置されたCT検査装置と検査台。
医療機関に設置されたCT検査装置。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 台湾のデータは、低線量CT検診による「見つけすぎ」の問題と、早期発見による利益の可能性が同時に存在することを示している。
  • 非喫煙者に一律に検診を広げるのではなく、家族歴、遺伝的要因、環境要因などを含めて対象を見極める必要がある。
  • 肺がんCT検診では、早く見つける利益と、将来治療を必要としない病変まで見つける不利益を同時に考えることが重要になる。

 台湾の研究が示しているのは、低線量CT検診をめぐる評価の難しさだ。

 早期肺腺がんが大きく増えたことは、検診で小さな病変を多く見つけていることを示す。一方で、多くの集団では進行肺腺がんの減少が明確ではなく、過剰診断の懸念は残る。

 ただし、一部の集団では進行肺腺がんの減少も見られた。研究グループは、台湾では「見つけすぎ」の問題と、早期発見による利益の可能性が同時に存在していると見ている。

 だからといって、非喫煙者にも一律に検診を広げればよい、という結論にはならない。

 台湾のように非喫煙女性の肺腺がんが多い地域では、喫煙歴だけでなく、家族歴、遺伝的な要因、環境要因なども含めて、誰が検診で利益を受けやすいのかを見極める必要がある。

 早期発見には利益がある可能性がある一方で、将来治療を必要としない病変まで見つける過剰診断も起こり得る。台湾のデータは、肺がんCT検診を考えるときに、利益と不利益を同時に考える必要があることを示している。

 PREVONOでは引き続き、過剰診断の問題について考えていく。

参考文献

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Wu JJ, Chiang CJ, Chen CH, Tseng JS, Feng PH, Yang YW, Zheng ZR, Chu CH, Yang CJ, Chong IW, Tu CY, Lee WC, Hsia JY, Chen KC, Yang PC, Yu SL, Chang GC. Stage shifts in national lung adenocarcinoma and the impact of opportunistic self-initiated LDCT screening in Taiwan: a nationwide population-based cohort study. Lancet Reg Health West Pac. 2026 May 25;71:101887. doi: 10.1016/j.lanwpc.2026.101887. PMID: 42239973; PMCID: PMC13227239.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42239973/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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