がんは早く見つけるほどよい。そう考える人は多い。
しかし、検診で見つかるがんの中には、放置しても生涯症状を起こさなかった可能性のあるものも含まれる。これが「過剰診断」と呼ばれる問題だ。
2025年にBMJに掲載された論文では、たばこを吸ったことがない人を対象にした肺がんCT検診について、慎重な見方が示された。著者は、米国ハーバード大学の関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院、台湾の台北医学大学、韓国ソウル大学病院、米国サウスカロライナ医科大学などの研究者だ。
PREVONOでは、今回から過剰診断に関連した研究を取り上げていく。第1回は、肺がん検診を例に、検診で「見つけること」が常に利益につながるのか、あるいは「見つけすぎ」が問題になる場合もあるのかを考える。
早期がんが増えても、進行がんが減らない場合
医療機関に設置されたCT検査装置。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
CT検診では小さな肺がんが多く見つかる一方、早期がんの増加が必ずしも死亡減少につながるとは限らない。
東アジアの一部地域では、CT検診の広がりとともに早期肺がんの診断は増えたが、進行肺がんの減少は明確ではなかった。
検診で見つかる早期肺がんの中には、もともと進行しにくく、生涯症状を起こさなかった可能性のある病変が含まれる可能性がある。
肺がん検診では、CTによって小さな肺の病変まで見つけられる。特に、喫煙歴が長い人など肺がんリスクが高い人では、低線量CTによる検診が有効とされ、肺がん死亡を減らす可能性が示されている。
一方で、たばこを吸ったことがない人にまでCT検診を広げるべきかについては、意見が分かれる。今回の報告によると、特に東アジアでは、台湾や韓国などで、非喫煙者にもCT検診が広がっている。
一見すると、これは良いことのように見える。早期肺がんが多く見つかり、検診で見つかったがんの生存率も高く見えるからだ。
しかし論文の著者らは、ここに注意が必要だと指摘している。検診が本当に命を救っているなら、早期がんが増えるだけでなく、進行した肺がんは減るはずだ。
論文では、中国・上海、韓国、台湾のがん登録データが取り上げられている。これらの地域では、CT検診の広がりとともに早期肺がんの診断が増えていた。一方で、進行肺がんとして見つかる人の減少は明確ではなかった。
検診の目的は、将来進行するがんを早い段階で見つけ、進行がんになる前に治療することだ。その効果が十分に出ていれば、早期肺がんの発見が増える一方で、進行肺がんは減るはずだと予想される。
実際には進行肺がんの減少が明確ではないため、著者らは、検診で見つかった早期肺がんの中に、もともと進行しにくい病変や、生涯症状を起こさなかった可能性のある病変が含まれていると見ている。
日本についても、論文では2001年のCT住民検診研究が紹介されている。
この研究では、喫煙は肺がんで亡くなるリスクと強く関係する一方、CT検診で見つかった肺がんと喫煙との関係は弱かった。著者らは、この違いについて、CT検診が命に関わる肺がんだけでなく、進行しにくい小さな肺がんも拾い上げている可能性を示すものと見ている。
こうしたデータから、著者らは非喫煙者へのCT検診拡大には慎重さが必要だと指摘している。見つかるがんの数が増えることと、肺がんで亡くなる人を減らすことは、必ずしも同じではないからだ。
見つけること自体が害になる場合もある
胸部CT検査で撮影された断面画像。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
過剰診断では、将来問題にならなかったかもしれない病変が見つかり、追加検査や手術につながる可能性がある。
「早期がんが多く見つかる」「生存率が高い」という数字だけでは、肺がん死亡を減らした証拠にはならない。
検診を広げる際には、命を救う利益だけでなく、不要な診断や治療を増やす不利益も確かめる必要がある。
過剰診断の問題は、がんを見つけた後に起こる。肺がんが疑われれば、追加検査や手術につながることがあるためだ。
論文では、台湾のCT検診で見つかった病変について、病理検査を経ずに手術へ進む例が多かったと報告している。病変が小さい場合、針生検や気管支鏡検査で確かめることが難しく、診断と治療を兼ねて手術が選ばれることがある。
しかし、手術には合併症のリスクがある。将来症状を起こさなかったかもしれない病変に対して手術を受ければ、本来は受けなくてもよかった負担を抱えることになる。これが過剰診断から過剰治療につながる問題だ。
さらに、検診では「早期がんが多く見つかる」「生存率が高い」といった数字が良く見えやすい。早く見つかれば診断から死亡までの期間は長く見えるし、もともと進行しにくいがんを多く見つければ、生存率も高く見える。だが、それだけでは肺がんで亡くなる人を減らした証拠にはならない。
著者らは、非喫煙者へのCT検診について、喫煙歴が長い人を対象とした研究結果をそのまま当てはめるべきではないと指摘している。検診を広げる前に、実際に肺がんで亡くなる人を減らせるのか、その一方で不要な検査や手術をどれだけ増やすのかを確かめる必要がある、という考えだ。
そのためには、検診を受ける人と受けない人を無作為に分けて比べる「無作為化比較試験」が必要になる。著者らは、非喫煙者を対象にしたCT検診でも、こうした研究によって利益と不利益を見極めるべきだとしている。
日本でも、CT検査は身近になり、健康意識の高い人が自費で受ける機会もある。だからこそ、検診で「見つかる数」が増えることと、「亡くなる人」が減ることを分けて考える必要がある。肺がん検診をめぐる東アジアのデータは、早期発見の利益だけでなく、過剰診断や過剰治療の可能性も同時に考える重要性を示している。
PREVONOでは今後も、がん検診や検査技術を考える上で避けて通れない過剰診断の問題を取り上げていく。