コラム

甲状腺がんの約9割を占める「甲状腺乳頭がん」、7~9割が過剰診断の可能性

米国データで推計、超音波検査の見直しが不要な診断を減らす可能性

医療者が女性の首にプローブを当て、甲状腺の超音波検査を行っている様子。
甲状腺の超音波検査は小さな結節を見つけるきっかけになる一方、過剰診断につながる可能性も指摘されている。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 PREVONOでは、「過剰診断」を重要なテーマの一つとして継続的に取り上げている。

 甲状腺乳頭がんは、一般に甲状腺がんの約9割を占める最も多いタイプだ。米国では、この甲状腺乳頭がんの診断数が大きく増えている一方で、その多くは命に関わらない小さながんまで見つけてしまう「過剰診断」による可能性が指摘されてきた。

 今回、米国で約30年分のデータを解析した結果、甲状腺乳頭がんの約7~9割が過剰診断だった可能性が示された。

 米国ウィスコンシン大学マディソン校などの研究グループが2026年2月に発表した。

甲状腺乳頭がんの増加、背景に過剰診断の可能性

女性が首元に手を当て、甲状腺のある部位を気にしている様子。
甲状腺のしこりや結節は、首元の違和感や画像検査をきっかけに見つかることがある。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 米国では甲状腺乳頭がんの診断数が大きく増えている一方、死亡率はほとんど変化していない。
  • 背景には、超音波検査やCTなどの画像検査により、命に関わらない小さながんまで見つかっている可能性がある。
  • 研究グループは、米国の約30年分のがん登録データを基に、過剰診断がどの程度あったかを数理モデルで推計した。

 甲状腺がんの中で最も多いのが「甲状腺乳頭がん」だ。論文によると、甲状腺乳頭がんは甲状腺がんの大半を占めるタイプで、米国では1990年以降、発症率が約250%増加した。一方で、死亡率はほとんど変化していない。

 患者数が大きく増えているのに死亡率がほとんど変わっていないことは、命に関わらない小さながんまで見つけている可能性を示す。

 背景には、甲状腺の超音波検査やCTなどの画像検査が広く使われるようになったことがある。

 甲状腺には、症状を起こさない小さながんが隠れていることが少なくない。論文でも、解剖研究では男女の約10%に小さな甲状腺乳頭がんが見つかるものの、本人はそれを知らないまま亡くなっていた例があると説明している。

 過剰診断とは、検査で見つかっても、生涯にわたって症状を起こしたり命に影響したりしなかったがんまで診断してしまうことを指す。診断されると、多くの患者は手術を受ける。甲状腺の手術には、合併症や生活の質への影響、がんと診断された心理的負担などが伴う可能性がある。

 研究グループは、1991~2019年の米国の甲状腺乳頭がんの発症状況を再現する数理シミュレーションモデルを用いて解析した。これは、実際のがん登録データを基に、年齢や性別ごとの発症率、進行度、死亡率の変化を再現し、「見つからなければ命に影響しなかったがん」がどれくらいあったかを推計する方法だ。

 さらに研究グループは、触れても分からない甲状腺結節に対する超音波検査を減らした場合に、甲状腺乳頭がんの診断数や死亡率がどう変化するかも推計した。検査を減らすことで、不要な診断をどこまで抑えられるかを調べた形だ。

超音波検査を減らしても死亡率への影響は0.1%未満

女性が首の前側に手を当て、甲状腺周辺を示している様子。
甲状腺乳頭がんでは、命に影響しない小さながんまで診断される過剰診断が課題となっている。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 1991~2019年に米国で診断された甲状腺乳頭がんのうち、72~94%が過剰診断だった可能性が示された。
  • 触れても分からない甲状腺結節への超音波検査を減らすと、甲状腺乳頭がんの診断数を抑えられると推計された。
  • 超音波検査を減らしても全体の死亡率への影響は0.1%未満とされ、不必要な診断や手術を減らせる可能性がある。

 解析の結果、米国では1991~2019年に診断された甲状腺乳頭がんのうち、72~94%が過剰診断だったと推計された。診断された人の多くは、仮にがんが見つからなかったとしても、甲状腺がんで命を落とすことはなかった可能性がある。

 過剰診断は、特に女性で多い傾向が示された。女性では75~95%、男性では63~90%が過剰診断と推計された。人数に換算すると、28年間で女性44万3212~57万3705人、男性10万7804~15万4504人に上る。女性、特に35~64歳で影響が大きかった。

 こうした過剰診断の背景には、甲状腺の超音波検査が診断の入り口になっていることがある。首に触れて分かるしこりがある場合だけでなく、触れても分からない小さな結節や、別の目的で受けた画像検査で偶然見つかった結節をきっかけに、超音波検査が行われることもある。その結果、生検へ進み、甲状腺乳頭がんと診断される流れが生じやすくなる。

 研究グループは、触れても分からない甲状腺結節への超音波検査を減らした場合の影響も推計した。超音波検査を33%減らすと甲状腺乳頭がんの診断数は17%減り、67%減らすと41%減ると見込まれた。一方で、全体の死亡率への影響はいずれも0.1%未満にとどまった。

 研究グループは、超音波検査が甲状腺がん診断の入り口になり、触れて分からない小さな結節の発見が過剰診断につながり得ると見ている。必要性の低い超音波検査の実施を減らすことで、不必要ながん診断や手術、心理的負担を抑えられる可能性がある。

参考文献

Francis DO, Davies L, Zhang Y, Arroyo N, Fernandes-Taylor S, Nordby P, Cher BAY, Venkatesh M, Aiello Bowles EJ, Alagoz O. Overdiagnosis of Papillary Thyroid Cancer. JAMA Netw Open. 2026 Feb 2;9(2):e2559852. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.59852. Erratum in: JAMA Netw Open. 2026 Apr 1;9(4):e269142. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2026.9142. PMID: 41733915; PMCID: PMC12933285.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41733915/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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