同じ種類のがんでも、進行の速さや治療への反応は患者によって異なる。その違いには、腫瘍の中に存在するさまざまな細胞の性質が関わっていると考えられている。
米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けたオレゴン健康科学大学などの研究グループは、細胞を1個ずつ解析したデータから患者の生存を予測するAI(人工知能)「scSurvival」を開発した。
腫瘍の中の「どの細胞」が生存に関わるかを見る
顕微鏡で観察される組織標本の画像。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 単一細胞解析により、腫瘍の中にあるがん細胞や免疫細胞などを1個ずつ詳しく調べられるようになっている。
- 従来のように細胞の情報をまとめて平均すると、生存に強く関わる少数の細胞の特徴が埋もれる可能性がある。
- 研究グループは、細胞ごとに患者の生存との関係を解析するAI「scSurvival」を開発した。
がん組織を細胞1個ずつ調べる「単一細胞解析」の技術が進み、腫瘍の中にどのような細胞が存在するのかを詳しく調べられるようになってきた。
1つの腫瘍の中には、がん細胞だけでなく、免疫細胞など多くの種類の細胞が混ざっている。こうした細胞の違いが、がんの進み方や治療への反応に関わることがある。
ただし、これまでの解析では、多数の細胞の情報をまとめて平均することが多かった。その場合、生存に強く関わる少数の細胞の特徴が、全体の中に埋もれてしまう可能性がある。
そこで研究グループは、「scSurvival」と呼ばれるAIを開発した。このAIは、細胞1個ずつについて、患者の生存とどの程度関係しているかを解析する。関係が強い細胞の情報を重く扱い、関係が小さい細胞の影響を抑えることで、生存に関わる細胞集団を見つけ出す仕組みだ。
研究では、生存期間の情報が付いた単一細胞データを使ってAIを学習させた。その後、メラノーマや肝臓がんを含む150人以上の患者データで、どの程度生存を予測できるかを検証した。
生存の予測だけでなく関わる細胞も示す
治療方針や検査結果について相談する患者と医療者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- scSurvivalは、メラノーマや肝臓がんの患者データで、従来法より高い精度で生存を予測できることが示された。
- 生存予測だけでなく、腫瘍内のどの細胞集団が予測に強く関わっているかも示せる点が特徴。
- 今後、より多くの患者データで検証が進めば、治療法の選択や新しい治療標的の発見につながる可能性がある。
検証の結果、構築したAIにより、メラノーマと肝臓がんの患者で、従来の方法より高い精度で生存を予測できることが示された。
このAIの特徴は、生存を予測するだけではない点にある。腫瘍の中にあるどの細胞集団が、その予測に強く関わっていたのかも示すことができる。
研究では、生存の見通しが良い患者と悪い患者では、腫瘍の中で目立つ細胞集団が異なることも示された。例えば、メラノーマでは、免疫療法への反応や生存の見通しと関係する免疫細胞の集団が見つかった。肝臓がんでは、生存の見通しと関係する腫瘍細胞の集団が確認された。
これにより、単に「リスクが高い」と判定するだけでなく、その背景にある細胞の特徴を探る手掛かりが得られる。どの細胞が病気の進み方に関わるのかを調べられることは、治療を考える上でも重要になる。
ただし、今回の研究は新しい解析手法を検証した段階の成果だ。実際の診療で使うには、さらに多くの患者データで性能を確かめる必要がある。
がんを細胞の集まりとして細かく読み解くことで、生存の予測だけでなく、治療法の選択や新しい治療標的の発見につながる可能性がある。