未知の小腸がん関連遺伝子「COPA」を発見
慶應義塾大学など、新たな発がん経路を解明

小腸がんはまれながんだが、見つかったときには進行していることも多く、新しい診断法や治療法の開発が求められている。このたび、その手掛かりとなる小腸腫瘍の新たな原因「COPA遺伝子変異」が発見された。
慶應義塾大学、国立がん研究センターなどの研究グループが2026年6月に発表した。
隆起型の小腸腫瘍にCOPA変異を発見

- 小腸がんの一部は、小腸腺腫と呼ばれる前がん病変から発生すると考えられている。
- 研究グループは、表面から大きく盛り上がる「丈の高い隆起型」の小腸腫瘍に注目し、COPA遺伝子変異を発見した。
- COPA変異を持つ腫瘍ではAPC遺伝子変異が確認されず、従来とは別の経路で生じている可能性が示された。
小腸がんの一部は、小腸腺腫と呼ばれる、がんになる前段階の病変(前がん病変)から発生すると考えられている。これまで、小腸腺腫の多くは、比較的平坦な形をしていると考えられてきた。
一方、研究グループは、表面から大きく盛り上がる「丈の高い隆起型」の小腸腫瘍に注目した。隆起型の腫瘍3例を詳しく調べたところ、いずれにもCOPA遺伝子の変異が見つかった。
研究グループがさらに254例の小腸腺腫を調べたところ、全体の約4%にCOPA変異が確認された。特に、丈の高い隆起型の小腸腺腫に限ると、COPA変異の頻度は50%弱だった。十二指腸がん55例でも、約13%にCOPA変異が見つかった。
一方で、COPA変異を持つ腫瘍には、従来の小腸腺腫とは異なる特徴も見られた。大腸がんや小腸腺腫の発生に深く関わることが知られているAPC遺伝子の変異が、COPA変異を持つ腫瘍では確認されなかった。この結果から、COPA変異を持つ腫瘍は、従来知られてきたAPC変異による仕組みとは別の経路で生じている可能性が示された。
細胞内の「運搬役」の異常が腫瘍形成に関与

- COPAは、細胞の中でタンパク質を適切な場所へ運ぶ仕組みに関わるタンパク質。
- オルガノイドを用いた実験で、COPA変異によってWntシグナルが活性化されやすくなり、腫瘍形成につながる可能性が示された。
- 丈の高い隆起型の小腸ポリープなどでCOPA変異を調べることが、将来のリスク評価や治療方針の判断に役立つ可能性がある。
COPAは、細胞の中でタンパク質を適切な場所へ運ぶ仕組みに関わるタンパク質だ。多くのがん関連遺伝子は、細胞の増殖を直接強めるものとして知られてきた。一方、COPAは細胞内の物質の運搬に関わる点で、従来とは異なるタイプのがん関連遺伝子といえる。
研究グループは、患者の小腸腫瘍から取り出した細胞を体外で育てる「オルガノイド」を作製した。オルガノイドは、臓器の特徴を一部再現した小さな組織モデルを指す。さらに、正常な小腸上皮のオルガノイドにCOPA変異を入れて、その影響を調べた。その結果、COPA変異によって腫瘍が形成されることを確認した。
詳しく調べると、COPA変異を持つ細胞では、本来なら増殖に必要なR-spondinという因子がなくても増えられるようになっていた。R-spondinは、細胞の増殖を支える信号を強める働きを持つ。COPA変異によって、Wntシグナルと呼ばれる細胞増殖に関わる経路が活性化されやすくなり、腫瘍形成につながる可能性が示された。
研究グループは、COPA変異を持つ腫瘍の一部が、小腸がんへ進みやすい可能性があると見ている。今後、丈の高い隆起型の小腸ポリープなどでCOPA変異を調べることにより、がん化のリスク評価や、早い段階で切除するかどうかの判断に役立つ可能性がある。
今回の研究は、小腸がんの一部に、これまで十分に分かっていなかった発がんの仕組みが存在することを示した。まれながんである小腸がんについて、病変の形と遺伝子変異を組み合わせて捉えることが、将来の診断や治療法の開発につながる可能性がある。
参考文献
未知の小腸がん遺伝子「COPA」を発見-新たな発がん経路を解明-(慶應義塾大学)
https://www.keio.ac.jp/ja/press-release/20260615-press-01/
Fujii M, Abeto N, Kishimoto S, Shiraishi K, Hashimoto T, Hiraoka N, Nonaka S, Kojima M, Matano M, Takahashi S, Colozza G, Koo BK, Yatabe Y, Kato M, Sato T, Sekine S. Recurrent COPA mutation drives R-spondin-independent Wnt activation in intestinal tumors. Nat Genet. 2026 Jun;58(6):1341-1352. doi: 10.1038/s41588-026-02616-9. Epub 2026 Jun 12. PMID: 42286202; PMCID: PMC13263151.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42286202/
この記事の執筆者
星良孝
PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。





