日本

乳がん検診に「造影剤を使わないMRI」という新しい選択肢

倉敷中央病院付属予防医療プラザが160人の初期経験を学会報告

第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場受付付近に置かれた案内表示とくまモンのぬいぐるみ。
熊本市で開幕した第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の会場。(写真:編集部)

 乳がん検診ではマンモグラフィが中心だが、乳房を圧迫する際の痛みなどから、検査を負担に感じる人もいる。

 そうした中、造影剤を使わずに乳房を調べるMRIを、人間ドックの検査として取り入れる動きが始まっている。

 第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会では2026年9月4日、倉敷中央病院放射線技術部の福島沙知氏が、同院付属予防医療プラザで非造影乳房MRIを健診に導入した初期経験を報告した。

マンモグラフィがつらい人の選択肢になるか

乳房MRI検査を受ける人物を描いた簡易イラスト
乳房MRI検査のためMRI装置で撮像を受ける様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 造影剤を使わず、乳房を圧迫せずに撮影するDWI中心の非造影乳房MRIを人間ドックに導入した。
  • 2024年7月から2026年1月までに160人が受診し、4人(2.5%)が要精密検査となり、1例の乳がんが確認された。
  • 対象者の選び方や他検査の併用などから、今回の結果だけで感度・特異度やマンモグラフィとの優劣を判断することはできない。

 今回使われたのは、造影剤を注射せずに乳房を撮影するMRIだ。中心になるのは「拡散強調画像(DWI)」と呼ばれる撮影法で、組織の中にある水分子の動き方の違いを画像にする。

 乳がんでは、がん細胞が密集することで水分子が動きにくくなることがある。DWIでは、こうした違いを手掛かりに病変を探す。

 発表では、京都大学先制医療・生活習慣病研究センター特定教授の片岡正子氏らが研究してきた、DWIを中心とする非造影乳房MRIの研究も踏まえた方法であることが説明された。片岡氏らは、高解像度のDWIにT1強調画像やT2強調画像などを組み合わせ、造影剤を使わずに乳房病変を評価する方法を研究してきた。

 ここで注意したいのが、DWIと、PREVONOでも伝えているDWIBS(ドゥイブス)は同じものではないことだ。DWIは、水分子の動きを利用して組織の特徴を見るMRIの撮影法。一方、DWIBSはDWIを応用し、背景の信号を抑えながら全身を広く撮影する方法。

 今回の検査はDWIBSではなく、乳房そのものを詳しく見るために調整されたDWIを中心とする非造影乳房MRIだ。

 2024年7月から2026年1月までに、この検査を受けたのは160人で、年齢は27~84歳だった。そのうち4人(2.5%)が要精密検査となり、1例の乳がんが確認された。

 受診者の94人(58.8%)は、マンモグラフィや超音波など、ほかの乳房検査も組み合わせて受けていた。また、約8割には過去に乳がん検診を受けた経験があった。受診理由には、新しい検査への関心のほか、マンモグラフィの代わりになる検査を求めたこと、家族歴、不安などがあった。

 今回の報告で注意が必要なのは、160人中1人で乳がんが見つかったという数字だけで、この検査の性能を判断することはできない点だ。対象は一般女性から無作為に選ばれた集団ではなく、自らこの検査を選んだ受診者だった。症状や家族歴、不安などを理由に受診した人も含まれている。また、半数以上がほかの乳房検査も併用していた。

 そのため、今回の発表は、非造影MRIの感度や特異度を確立した研究ではない。マンモグラフィより優れていることを示したものでもない。

新しい選択肢になる可能性

第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の大会テーマと熊本城のイラストが表示された会場スクリーン。
「人生のそばに予防医療を」をテーマに開かれた第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会。(写真:編集部)
  • マンモグラフィの痛みなどを理由に検診を避ける人にとって、非造影乳房MRIが別の選択肢になる可能性がある。
  • 一方、DWIでは小さな病変やDCIS、非腫瘤性病変などを検出しにくい場合があり、既存検査を置き換える段階ではない。
  • 今後は、適した対象者や乳がんの検出性能、見逃しや不要な精密検査の割合を、より大規模に検証する必要がある。

 造影剤を使わず、乳房を圧迫する必要もないMRIを、実際の人間ドックに導入する動きが始まったことには意味がある。

 討論では、マンモグラフィの痛みが検診を避けるきっかけになることも話題になった。マンモグラフィの負担を理由に検診を避けてしまう人に、別の選択肢を示せる可能性がある。

 非造影乳房MRIは、造影剤を使わずに乳房内の病変を調べる方法として研究が進められている。ただし、現時点でマンモグラフィや造影MRIを置き換えられると示されたわけではない。特にDWIでは、小さな病変や非浸潤性乳管がん(DCIS)、しこりとして明瞭に見えない非腫瘤性病変などは、検出が難しい場合もある。

 今回の報告は、非造影乳房MRIの有効性を確立した研究というより、人間ドックの現場に新しい選択肢を導入すると、どのような人が利用し、どのような結果になるのかを示した初期的な報告と見るのが適切だ。

 今後は、どのような人に向いているのか、どの程度の乳がんを見つけられるのか、見逃しや不要な精密検査がどの程度あるのかを、より多くの受診者で確かめていく必要がある。

参考文献

Amornsiripanitch N, Bickelhaupt S, Shin HJ, Dang M, Rahbar H, Pinker K, Partridge SC. Diffusion-weighted MRI for Unenhanced Breast Cancer Screening. Radiology. 2019 Dec;293(3):504-520. doi: 10.1148/radiol.2019182789. Epub 2019 Oct 8. PMID: 31592734; PMCID: PMC6884069.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6884069/

Avendano D, Marino MA, Leithner D, Thakur S, Bernard-Davila B, Martinez DF, Helbich TH, Morris EA, Jochelson MS, Baltzer PAT, Clauser P, Kapetas P, Pinker K. Limited role of DWI with apparent diffusion coefficient mapping in breast lesions presenting as non-mass enhancement on dynamic contrast-enhanced MRI. Breast Cancer Res. 2019 Dec 4;21(1):136. doi: 10.1186/s13058-019-1208-y. PMID: 31801635; PMCID: PMC6894318.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31801635/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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