乳がんの一種である「浸潤性小葉がん」は、最も一般的な「浸潤性乳管がん」とは異なる特徴を持つ。
今回、その小葉がんにどの程度似た特徴があるかを、遺伝子の働き方から数値で示す新たな指標「ILCness」が開発された。従来のように種類を分けるだけでなく、「小葉がんらしさ」の強さを連続的に捉えられる点が特徴だ。
横浜市立大学と群馬大学などの研究グループが2026年9月に発表した。
病理診断では浸潤性乳管がんでも、遺伝子は「小葉がん」に近い腫瘍も
乳房の画像検査結果を確認する医療従事者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
乳がんの大規模データを基に、遺伝子の働きから「小葉がんらしさ」を数値化する新指標「ILCness」が開発された。
ILCnessが高いほど、浸潤性小葉がんに近い遺伝子の特徴を持つことを示す。
従来の病理分類だけでは捉えにくかった中間的な性質を、連続的な数値として評価できる点が特徴となる。
乳がんにはいくつかの種類があり、代表的なものに「浸潤性乳管がん(IDC)」と「浸潤性小葉がん(ILC)」がある。小葉がんは、浸潤性乳管がんとは顕微鏡で見た組織の特徴や遺伝子の働きが異なる乳がんの一つだ。
こうした違いを詳しく見分けることには意味がある。見た目だけでは分からない腫瘍の性質まで捉えられれば、将来、患者ごとの予後予測や治療選択をより細かく考える手掛かりになる可能性がある。
これまでは、病理検査で腫瘍の形などを見て、「浸潤性乳管がん」「浸潤性小葉がん」と種類を分けるのが基本だった。ただ、実際にはその中間のような性質を持つ腫瘍もあり、従来の分類だけでは違いを十分に表せないことがあった。
そこで研究グループは、乳がんの大規模公開データベースを使い、浸潤性乳管がんと浸潤性小葉がんで遺伝子の働き方がどう違うかを調べた。
さらに、その違いを一つの数値で表す新たな指標「ILCness」を作った。ILCnessが高いほど、小葉がんに近い遺伝子の特徴を持つことを示す。乳がんを二つの種類に分けるだけでなく、「どの程度小葉がんに近いか」を段階的に見られるようにした点が特徴だ。
浸潤性乳管がんの中にも「小葉がんに近い」腫瘍
顕微鏡観察とデータ解析を行う研究者。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
浸潤性乳管がんと診断された腫瘍の中にも、ILCnessが高く、小葉がんに近い特徴を持つものが確認された。
ILCnessはリンパ節転移や予後、がん周囲の免疫細胞の構成などと関連していた。
乳がんを従来の組織型だけでなく、分子レベルでより細かく分類し、予後評価や治療選択に役立てられる可能性がある。
ILCnessを使って乳がんを調べると、従来の病理診断で「浸潤性乳管がん」「混合型」「浸潤性小葉がん」と分けられていても、ILCnessの値はきれいに分かれるわけではないことが分かった。
浸潤性乳管がんと診断された中にも、ILCnessが高く、小葉がんに近い遺伝子の特徴を持つ腫瘍があった。
ILCnessが高い腫瘍では、「上皮間葉転換(EMT)」と呼ばれる変化に関わる遺伝子の働きが強かった。EMTは、がん細胞が周囲の組織へ広がったり、移動しやすくなったりする性質と関係する仕組みとして知られている。一方で、細胞が増えることに関わる遺伝子の働きは低い傾向が見られた。
さらに今回の研究では、ILCnessがリンパ節転移や予後と関連していた。また、ILCnessの違いによって、がんの周囲にいる免疫細胞などの構成にも違いが見られた。浸潤性乳管がんと診断された患者の中でも、ILCnessによって予後の異なるグループを分けられることが示された。
今後さらに検証が進めば、乳がんを従来の種類だけで分けるのではなく、それぞれのがんが持つ特徴をより細かく見分け、患者に合った治療を選ぶ手掛かりになる可能性がある。