被害者が支援機関に相談する平均3~4年前から、IPV(親密なパートナーからの暴力で、家庭内暴力を指すDVのうち夫婦や交際相手などの間の暴力を指す)のリスクを予測できるAIが開発された。
米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けた米ハーバード大学を中心とする研究グループが、医療機関で日常的に収集される診療データを利用し、IPVにさらされるリスクを予測可能にした。
電子カルテと診療記録を組み合わせる
ソファに座り悩んだ表情で手を組む男性と、後ろで距離を置く女性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
DVの中でも、夫婦や交際相手など親密な関係の相手から受ける暴力をIPVと呼び、深刻な健康被害につながる公衆衛生問題とされる。
研究では、家庭内暴力支援センターに登録された女性841人と対照群5212人の医療データを用いてAIモデルを構築した。
電子カルテの診断・薬剤・バイタルなどの構造化データと、診療記録テキストをLLMで解析し、複数のデータを組み合わせて学習させた。
DV(domestic violence)は家庭内暴力を指し、親子や兄弟姉妹なども含む広い用語であるのに対して、IPV(intimate partner violence)は、夫婦や交際相手など、親密なパートナーから受ける暴力とされる。IPVは身体的なケガだけでなく、慢性的な痛みや精神的な病気なども含み、深刻な健康被害につながるため、公衆衛生の重要な問題と見なされている。
報告によれば、米国では女性の3人に1人が生涯のうちにIPVを経験するとされる。しかし、被害者は安全面への不安や社会的な偏見を恐れて、被害を申告しないケースも多い。医療現場でも見逃されることは少なくないという。
こうした課題を受け、研究グループは、医療データを活用して、IPVを見つけ出すための支援ツールの開発を目指した。
研究では、米国の大学医療センターで家庭内暴力支援センターに登録された女性841人と、年齢や人種などの条件を一致させた対照者5212人の医療データを用いて機械学習モデルを構築した。
開発されたモデルは3種類で、1つ目は、診断歴や薬剤、血圧や心拍などのバイタルサインなどの情報を用いる「構造化データモデル」。2つ目は、診療記録や放射線レポートなどのテキスト情報を解析する「診療記録モデル」。3つ目は、それらを組み合わせた「マルチモーダルモデル」。
研究グループは、テキスト解析には医療向け大規模言語モデル(LLM)を利用し、電子カルテの情報を多面的に学習できるように設計した。
AIが平均3~4年前からリスクを検出
テーブル越しに互いを指差しながら言い合う男女。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
構造化データ、診療記録、両方を組み合わせた3種類のAIモデルを比較し、統合モデルが最も高い予測性能(AUC0.88)を示した。
AIは、被害者が支援センターに相談する前の段階で80%以上のケースを検出し、平均3〜4年前からリスクを予測できた。
精神疾患、鎮痛薬の使用、胸痛、腕や顔の外傷関連検査の多さなどが、IPVリスクと関連する特徴として示された。
モデルの性能を評価した結果、「構造化データモデル」の性能(AUC=予測性能を示す指標)は0.85、「診療記録モデル」は0.87だった。両者を組み合わせた「マルチモーダルモデル」は最も高い性能(AUC=0.88)を示した。
AUCは1に近いほど精度が高い指標で、今回の結果はいずれも高い予測性能を示す値である。さらに別の患者群や別の病院のデータでもAUC0.8以上の性能が確認された。
特に注目されるのは、暴力のリスクを早い段階で見つけられる点である。「マルチモーダルモデル」は、被害者が家庭内暴力支援センターに相談する前の段階で、80%以上のケースを検出できた。しかも平均すると、実際の相談より3~4年前からリスクを予測できた。
診療データを分析すると、精神疾患の有無、鎮痛薬の使用、胸痛などの症状に加えて、腕や顔周辺の外傷に関連する画像検査の頻度が高いことなどが、リスクと関連する特徴として浮かび上がった。
研究グループは、このAIはIPVを診断するものではなく、医療者が患者を診察する際のサポートツールとしての利用を想定している。電子カルテに組み込むことで、リアルタイムにリスクを判断しやすくなる可能性がある。
被害者が自ら打ち明けることに依存せずに、早期発見と早期対処につながり、健康被害の悪化や深刻な暴力事件の防止に貢献する可能性がある。