研究

膀胱がんの再発や進行リスクを見極める手掛かり

がんが周囲へ広がる境界部に着目、進行に関わる可能性のある15遺伝子群を慈恵医大が報告

下腹部に手を当てて不調を感じている男性の様子
下腹部の違和感や不調を訴える様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 膀胱がんが周囲へ広がる境界部で、がんの進行や患者の予後に関わる可能性のある遺伝子群が明らかになった。

 東京慈恵会医科大学の研究グループが2026年4月に発表した。

筋層に達していない膀胱がんでも進行に注意

腹部の痛みを訴えながら医師の診察を受ける男性
腹部の症状について医師に相談する診察場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 筋層非浸潤性膀胱がんは早期のがんとされるが、再発しやすく、一部は進行することがある。
  • 再発や進行のリスクを見極めるため、がんと周囲の組織が接する浸潤境界部に注目した。
  • 一塊で切除した検体を使うことで、がんと周囲組織の位置関係を保ったまま詳しく解析できた。

 膀胱がんは、がんが膀胱の筋層まで及んでいるかどうかによって大きく分けられる。筋層まで達していないものは筋層非浸潤性膀胱がんと呼ばれ、新たに診断される膀胱がんの多くを占める。

 一方で、筋層非浸潤性膀胱がんは、早い段階のがんといえるものの、再発しやすいことが課題だ。さらに一部では、がんが筋層まで入り込み、より進行した状態になることもある。そのため、再発や進行のリスクが高い患者を早い段階で見極めることが重要となる。

 こうしたリスクを見極める上で注目されるのが、がんと周囲の組織が接する「浸潤境界部」だ。がんが周囲の組織へ広がっていく場所にあたり、進行の兆しを映し出す可能性がある。今回の研究では、この浸潤境界部に着目し、どのような遺伝子の変化が起きているかを調べた。

 そこで研究グループは、膀胱がんの腫瘍を細かく分けず、周囲の組織とともに一塊で切除した検体に注目した。従来の方法では、検体が細かく分かれたり、熱の影響を受けたりすることがあり、がんと周囲の組織の位置関係を詳しく調べにくい場合があった。これに対し、一塊で切除した検体では、がんと周囲の組織がどのように接しているかを確認しやすい。

 研究グループは、この検体を使い、組織の場所ごとに遺伝子の働きを調べた。これにより、がんの中心部だけでなく、がんが周囲の組織と接する部分で、どのような変化が起きているかを詳しく調べられる。

 今回の研究では、がんが膀胱の筋層には達していないものの、粘膜の下にある組織まで入り込んだ膀胱がん7例を解析した。研究グループは、組織画像と遺伝子の情報を基に、腫瘍の上部と、がんが周囲の組織と接する境界部に分けて詳しく調べた。

進行に関わる可能性がある15の遺伝子群

DNA配列を拡大して解析する様子を表したイラスト
遺伝子配列の解析や研究をイメージしたイラスト。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 深く入り込んでいるタイプの膀胱がんでは、浸潤境界部で15の遺伝子群が強く働いていた。
  • これらの遺伝子群には、がん細胞が周囲へ広がりやすくなる上皮間葉転換に関わるものが多く含まれていた。
  • 15の遺伝子群は患者の生存期間とも関連し、将来的に予後予測や治療方針の判断材料になる可能性がある。

 研究グループは、筋層には達していないものの、粘膜の下にある組織まで入り込んだ膀胱がんについて、がんの広がりの深さによる遺伝子発現の違いを調べた。その結果、より深く入り込んでいるタイプのがんでは、周囲の組織と接する境界部で、15の遺伝子群が強く働いていることが分かった。

 この15の遺伝子群には、「上皮間葉転換」と呼ばれる変化に関わるものが多く含まれていた。上皮間葉転換とは、がん細胞が周囲へ広がりやすくなる性質を持つようになる変化を指す。

 このことから、筋層まで達していない段階でも、がんと周囲の組織が接する部分では、進行につながる変化が既に起きている可能性がある。

 さらに研究グループは、公開されている膀胱がん患者のデータを使い、この15の遺伝子群が患者の経過と関係するかを調べた。その結果、これらの遺伝子が強く働いている患者では、生存期間が短い傾向が認められた。この結果から、今回見つかった15の遺伝子群は、がんが広がりやすい性質を示すだけでなく、その後の経過を見通す手がかりになる可能性が考えられた。

 ただし、現時点では研究段階の結果であり、すぐに一般的な検査として使えるわけではない。将来的には、再発や進行のリスクを見積もる検査や、治療方針を考える際の判断材料につながることが想定される。

 膀胱がんでは、再発や進行のリスクに応じて、経過観察の方法や追加治療の必要性を検討する場面がある。今回のように、がんと周囲の組織が接する部分で起きている変化を調べることで、治療方針を考える際の見通しを得やすくなる可能性がある。

参考文献

膀胱がんの浸潤境界部でがんの進行と予後に関連する遺伝子群を発見 〜塊のまま切除した検体からがんの進行を空間的に解析〜(東京慈恵会医科大学)
https://www.jikei.ac.jp/press/detail/?id=46836

Yoshihara K, Urabe F, Umemori M, Suzuki H, Ito K, Yanagisawa T, Sato S, Sekine K, Kimura T, Yamamoto Y. Spatial transcriptomics of en bloc transurethral resection of bladder tumor specimens defines an invasive-front gene expression signature. NPJ Precis Oncol. 2026 Apr 14. doi: 10.1038/s41698-026-01417-x. Epub ahead of print. PMID: 41981124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41981124/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

大腸がん検診、便潜血「陽性」の後が課題 精密検査の受診から結果把握まで「組織型検診」の体制整備を

大腸がん検診では、新しい検査技術の開発が進む一方、現在の検診を十分に活用できていないことが課題となっている。特に、便潜血検査で陽性となった人が確実に精密検査…

第64回日本癌治療学会学術集会の演台で、マイクを使って講演する坂東英明氏。
MCED検査の適正な利用に向けたガイダンス作成について講演する、国立がん研究センター東病院の坂東英明氏。(写真:編集部)

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が初の見解書を公表 世界でも先駆的な適正利用の考え方を提示

血液や尿などを使い、複数のがんをまとめて調べる「多がん種早期検出(MCED)」検査について、日本癌治療学会は2026年10月22日、初めての見解書となる「多…

第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。演台で講演する登壇者と、座長席で話を聞く2人の座長、参加者の様子。
2026年10月16~18日に鹿児島市で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。専門家による研究発表や討論が行われた。(写真:編集部)

MRIの撮影方法を工夫し、これまで分かりにくかった病気の特徴を捉える研究が進む

MRIの撮影方法を工夫することで、これまでの画像では分かりにくかった病気の特徴や、治療による変化を捉えようとする研究が進んでいる。注目されているのは、体内の…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
キャプション 第54回日本磁気共鳴医学会大会で開催された「子宮肉腫の鑑別、最新事情」のシンポジウム。良性の子宮筋腫と子宮肉腫を見分ける難しさや、MRIによる診断精度の向上、AIを活用した診断支援の研究などが紹介された。(写真:編集部)

子宮肉腫、良性の子宮筋腫と見分ける難しさに挑む MRIの診断方法を改善、AI活用の研究も進む

子宮にできる悪性腫瘍の一つである「子宮肉腫」。良性の子宮筋腫と似た画像を示すことがあり、MRIを使っても手術前に正確に見分けることが難しい場合がある。肉腫を…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

全身MRI、異常が疑われる場所をカラー表示で見やすく 画像を重ね合わせる「フュージョン」に注目

全身をMRIで調べる検査で、異常が疑われる部分と、体の形が分かる画像を重ね合わせる「フュージョン画像」が注目されている。2026年10月16日から鹿児島市で…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す