日本

がんを「光らせる薬」5-ALA、診断から治療、スクリーニング応用へ

膀胱がん、脳腫瘍などで活用進む 第34回日本光線力学学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会より

第36回日本光線力学学会学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会の会場入り口。
新来島高知重工ホールに設置された、第36回日本光線力学学会学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会の会場案内。(写真:編集部)

 5-ALA(5-Aminolevulinic Acid、5-アミノレブリン酸)を用いた光線力学技術が、がん診療の現場で広がっている。

 2026年5月22日、23日に高知市で開催された第34回日本光線力学学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会では、膀胱がんや脳腫瘍の診断での利用に加え、治療やスクリーニングへの応用の可能性、5-ALA以外の光線を使ったがん医療の進歩が示された。

赤く光らせて、見えにくい病変を見つける

第36回日本光線力学学会学術講演会と第22回日本脳神経外科光線力学学会の会長2人が、会場ステージで挨拶している様子。
学会の会長を務めた高知大学医学部泌尿器科学講座教授の井上啓史氏と筑波大学医学医療系脳神経外科教授の石川栄一氏による挨拶。(写真:編集部)
  • 5-ALAは体内でPpIXという物質に変わり、青い光を当てると赤く光る性質がある。
  • がん細胞ではPpIXがたまりやすいと考えられ、見えにくい病変を赤く浮かび上がらせる手掛かりになる。
  • 国内では、悪性神経膠腫や膀胱がんの手術で、病変を見つけやすくする診断法として使われている。

 5-ALAは、体の中にもともとあるアミノ酸の一種とされる物質だ。薬剤として飲むと、細胞の中に入り、ミトコンドリアでプロトポルフィリンIX(PpIX、Protoporphyrin IX)という物質に変わる。PpIXには、青い光を当てると赤く光る性質がある。

 正常な細胞では、PpIXに鉄が取り込まれ、ヘムという物質になる。ヘムは、血液中で酸素を運ぶ働きなどに関わる。一方、がん細胞ではPpIXに鉄を取り込めず、PpIXがたまりやすいと考えられている。

 そのため、5-ALAを使った後に青い光を当てると、PpIXがたまったがん細胞を含む病変が赤く浮かび上がる。通常の白色光では見えにくいがんを見つけやすくする仕組みだ。

 今回の学会でも、5-ALAが既に医療現場で使われている薬剤であることが改めて示されていた。

 国内では、脳腫瘍の一種である悪性神経膠腫(グリオーマ)の手術中に腫瘍を見えやすくする薬として、アラベル内用剤が2013年3月に承認されている。膀胱がんでは、アラグリオ顆粒剤分包1.5gが2017年9月に承認され、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)の際に、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)を見つけやすくする目的で使われている。

 このように、光を使って病変を見つける方法は、光線力学的診断、PDD(Photodynamic Diagnosis)と呼ばれる。

 膀胱がんや脳腫瘍では、「どこまでが病変か」を見極めることが治療の質に直結する。

 膀胱がんでは、白色光だけでは小さな病変や平坦な病変が分かりにくいことがある。学会でも、5-ALA PDDによって病変を赤く光らせ、がんの見落としを減らす意義が示されていた。

 脳腫瘍でも同じだ。腫瘍を取り残せば再発につながる一方、正常な脳を取りすぎれば神経機能を損なうリスクがある。悪性神経膠腫の手術中に腫瘍が赤く光ることは、切除範囲を判断する上で重要な支えになる。

 一方で、光を利用する技術は、病変を「見つける」だけでは終わらない。PpIXなどの光に反応する物質は、特定の光を受けると、一重項酸素などの活性酸素を発生させる。この力でがんを攻撃する治療が、光線力学療法、PDT(Photodynamic Therapy)だ。

 今回の学会では、PDTで先行している肺がんの治療に関する発表も複数あった。

 肺がんでは、5-ALAとは別の光感受性物質を使ったPDTが先行している。光感受性物質とは、光を受けて反応する物質のことだ。

 中心型早期肺がんに対するフォトフリンPDTは、1994年に承認され、1996年に保険収載された。その後、第二世代の光感受性物質であるレザフィリン、一般名タラポルフィンナトリウムも使われるようになり、2003年に承認、2004年に保険収載されている。

 学会では、国立がん研究センター東病院から、肺がんに対するPDTを日帰りで行う取り組みも紹介された。PDTは、大がかりな入院治療だけでなく、より身近な治療となる可能性がある。

5-ALAの治療やがん検診での活用も

第36回日本光線力学学会学術講演会の会長を務めた高知大学医学部泌尿器科教授の井上啓史氏。
「光線医療たちの想造」をテーマに開催された学会で登壇する高知大学医学部泌尿器科学講座教授の井上啓史氏。(写真:編集部)
  • 5-ALAは診断だけでなく、光でがん細胞を傷害する光線力学療法への応用も研究されている。
  • 尿中のポルフィリンを調べて膀胱がんの早期発見につなげる、光線力学的スクリーニングの研究も進んでいる。
  • 今回の学会では、診断、治療、スクリーニングへと広がる光線力学技術の可能性が示された。

 5-ALAを使ったPDTも、膀胱がんや悪性神経膠腫(グリオーマ)で研究されている。5-ALAは、病変を赤く光らせて見つけるPDDとして使われてきたが、同じPpIXを利用すれば、光でがん細胞を傷害する治療にもつながる可能性がある。

 診断技術を、がんのスクリーニングに広げようとする研究もある。光線力学的スクリーニング、PDS(Photodynamic Screening)と呼ばれる考え方だ。

 例えば、膀胱がんでは、がん細胞にたまったポルフィリンが尿中に出てくることがある。この性質を利用して、尿中のポルフィリンを測り、膀胱がんの早期発見につなげようとする研究が進んでいる。この検査により、体に大きな負担をかけずに、がんの兆候を捉えられる可能性がある。

 今回の学会では、診断、治療、スクリーニングに向けた研究に至るまで、光線力学技術の広がりが示された。5-ALAを使った光線医療の発展、脳腫瘍に対するPDD、肺がんに対するPDTなど、注目演題について今後の記事で続けて伝えていく。

参考文献

がんの「土壌」を調べる新しい選択肢 5-ALAを生かして「見えにくい変化」を予防につなげる、先制医療推進機構の関連講演から
https://prevono.net/column/1528/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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