前編では、5-ALAがなぜがん細胞を赤く光らせるのか、その基本となるPpIX蓄積の仕組みと、5-ALAを用いたPDDの限界について確認した。
後編では、5-ALAから作られたポルフィリンが細胞外へ出る現象に注目する。東京科学大学生命理工学院准教授の小倉俊一郎氏の講演では、この現象が手術中の診断や治療に関わるだけでなく、尿中ポルフィリンを利用した低侵襲な検査へ広がる可能性も示された。
高知大学との研究、ポルフィリンは細胞の外にも出る
第36回日本光線力学学会学術講演会で特別講演を行う小倉俊一郎氏。(写真:編集部)
- 5-ALAを加えた膀胱がん細胞ではポルフィリンが作られ、その一部が細胞外にも出ることが示された。
- 動物実験でも、5-ALA投与後に血中や尿中のポルフィリンが増加し、体液中に変化が反映される可能性が示された。
- ポルフィリンの排出はPDDでの蛍光の強さに影響する一方、尿中で検出する検査手段にもつながる可能性がある。
小倉氏は、5-ALAを用いた光線医療の新たな展開として、がん細胞の中で作られたポルフィリンが、細胞外にも出てくる点に触れた。PDDでは、細胞内に蓄積したPpIXを光らせて病変を見つける。一方、細胞外へ出たポルフィリンを検出できれば、がん細胞内で起きている5-ALA代謝の変化を、尿などの体液中のシグナルとして捉えられる可能性がある。
高知大学との共同研究では、5-ALAを加えた膀胱がん細胞でポルフィリンが作られ、その一部が培養上清中に検出された。これは、ポルフィリンが細胞内にとどまるだけでなく、細胞の外へ出てくることを示す結果となる。さらに動物実験でも、5-ALA投与後に血中や尿中のポルフィリンが増加した。細胞で生じたポルフィリン代謝の変化が、体液中にも反映される可能性を示している。
この現象には、ABCG2などの排出トランスポーターが関わっていると考えられる。ABCG2は、細胞内で作られたPpIXや関連するポルフィリンを外へ出す働きを持つ。PDDの観点では、ポルフィリンが外へ出れば細胞内に残る量が減り、蛍光の強さにも影響し得る。一方、スクリーニングの観点では、外へ出たポルフィリンこそが尿中で検出できる手段になる。
特に膀胱がんでは、腫瘍が尿路に接しているため、細胞外へ出たポルフィリンが尿中に反映されやすいと考えられる。病変を内視鏡で直接光らせて見るPDDに対し、尿中ポルフィリンを利用する方法は、体への負担が少ないスクリーニングや再発モニタリングとして展開できる可能性がある。
5-ALAは「見つける」技術から「早く拾い上げる」技術へ
第36回日本光線力学学会学術講演会のJPA/JPNS特別講演「アミノレブリン酸を用いた光線医療の変遷」で登壇する小倉俊一郎氏と、座長を務める井上啓史氏。(写真:編集部)
- 尿などに現れるポルフィリンを測定する発想は、光線力学的スクリーニング、PDSにつながる。
- 内視鏡で病変を直接確認する前に、詳しい検査が必要な人を拾い上げる手段になる可能性がある。
- 実用化には、偽陽性の抑制、対象者の整理、陽性時にどの検査へつなげるかの検討が必要になる。
こうした体液中のポルフィリンを利用する発想が、光線力学的スクリーニング、PDS(Photodynamic Screening)につながる。
PDDは、5-ALAを投与した後、病変に蓄積したPpIXを青紫色光で赤く光らせ、内視鏡や手術の場で直接確認する方法だ。一方、PDSは、尿などに現れるポルフィリンを根拠に、詳しい検査が必要な人を拾い上げようとする発想だ。
5-ALA投与後に尿中ポルフィリンを測定する方法が確立すれば、内視鏡で病変を直接確認する前の段階で、詳しい検査が必要な人を拾い上げる手段になり得る。
ただし、PDSはまだ研究段階にある。尿中ポルフィリンが高いからといって、直ちにがんと判断できるわけではない。炎症、他の疾患、代謝状態、薬剤の影響など、がん以外の要因で値が変わる可能性もある。
スクリーニングとして使うには、偽陽性をどう抑えるか、誰を対象にするか、陽性だった場合にどの検査へつなげるかを検討する必要がある。PDD、尿中バイオマーカー、画像診断、AI、分子診断などと組み合わせ、検査全体の中でどのように位置づけるかが課題になる。
小倉氏の講演から見えてきたのは、5-ALAを用いた光線医療が、病変を赤く光らせて見つけるPDDにとどまらず、光で治療するPDT、さらに尿中ポルフィリンを根拠にしたPDSへと広がっていることだ。5-ALAは「がんを光らせる薬」というだけでなく、がんの代謝を利用し、診断、治療、詳しい検査が必要な人の拾い上げへと展開する技術として発展している。