日本

5-ALAはなぜがん細胞を光らせるのか【前編】

東京科学大・小倉俊一郎氏が解説、PpIXががん細胞にたまる仕組み

マイクを手に、第36回日本光線力学学会学術講演会で講演する小倉俊一郎氏。
「アミノレブリン酸を用いた光線医療の変遷」について講演する小倉俊一郎氏。(写真:編集部)

 PREVONOで伝えたように、5-ALA(5-Aminolevulinic Acid、5-アミノレブリン酸)を用いた光線医療は、がんを「光らせて見つける」診断技術として、膀胱がんや脳腫瘍で実用化されている。

 2026年5月22、23日に高知市で開催された第36回日本光線力学学会学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会では、東京科学大学生命理工学院准教授の小倉俊一郎氏が、特別講演「アミノレブリン酸を用いた光線医療の変遷」で、5-ALAを用いた光線医療の歩みと今後の展開を解説した。

 前編では、5-ALAがなぜがん細胞を赤く光らせるのか、その基本となるPpIX蓄積の仕組みと、5-ALAを用いたPDDの限界について見る。

5-ALAがPpIXへ変わる仕組み

第36回日本光線力学学会学術講演会で、演者の小倉俊一郎氏と座長の井上啓史氏が登壇している様子。
第36回日本光線力学学会学術講演会のJPA/JPNS特別講演「アミノレブリン酸を用いた光線医療の変遷」で登壇する小倉俊一郎氏と、座長を務める井上啓史氏。(写真:編集部)
  • 5-ALAは体内でヘム合成に関わる物質で、細胞内でプロトポルフィリンIX(PpIX)に変換される。
  • PpIXは青色光を受けると赤色蛍光を発するため、がんを光らせて見つけるPDDに利用される。
  • PpIXが作られる量やヘムへ変換される流れには、複数の酵素や鉄の動きが関わっている。

 小倉氏は、5-ALAを用いた光線医療の基本として、5-ALAが体内でどのように変化し、なぜがん細胞を赤く光らせるのかについて述べた。

 5-ALAは、体内にもともと存在し、ヘム合成に関わる物質。タンパク質を構成する一般的なアミノ酸とは異なるが、アミノ酸様の物質として体内で重要な役割を持つ。

 5-ALAは「ヘム生合成経路」に入り、細胞内で代謝され、プロトポルフィリンIX(PpIX)という物質に変換される。PpIXは、青色光を受けると赤色蛍光を発する性質を持つ。

 5-ALAから生じるポルフィリン関連物質ががんで蓄積し、これが赤く光るようになることについては、PREVONOでも伝えてきたが、より詳細な仕組みが小倉氏により解説された。

 小倉氏が注目したポイントの一つは、5-ALAからPpIXへ進み、さらにPpIXがヘムへ変換されるまでの過程に関わる酵素の働きだ。

 5-ALAが細胞内に入るだけで自動的にPpIXがたまるわけではない。ヘム生合成経路には複数の酵素が関わっており、その働きの違いによって、PpIXが作られやすいか、ヘムへ変換されやすいかが変わる。

 通常、PpIXはミトコンドリア内で鉄を取り込んでヘムへと変換される。この最終段階を担う酵素がフェロケラターゼだ。また、PpIXに挿入される鉄をミトコンドリアへ運ぶ仕組みには、マイトフェリン1、マイトフェリン2などが関わる。

がん細胞にPpIXがたまる仕組み

演台に立ち、マイクを持って講演する小倉俊一郎氏。
第36回日本光線力学学会学術講演会で特別講演を行う小倉俊一郎氏。(写真:編集部)
  • がん細胞では代謝や鉄の利用に変化が起こり、PpIXが細胞内に蓄積しやすくなる。
  • マイトフェリン2やフェロケラターゼの働きが低いと、PpIXからヘムへの変換が滞り、赤く光りやすくなる。
  • 5-ALAは病変を見つけるPDDだけでなく、光で病変を攻撃するPDTにもつながる。

 がん細胞ではこうした代謝の流れに変化が生じ、PpIXが蓄積しやすくなる。

 がん細胞では鉄の需要が高く、鉄の取り込みが高まる一方で、PpIXをヘムへ変換するためにミトコンドリア内で利用できる鉄は少ない場合がある。

 さらに、ミトコンドリアへ鉄を運ぶマイトフェリン2の発現や、PpIXに鉄を挿入するフェロケラターゼの活性が低いと、PpIXからヘムへの変換が滞り、PpIXが細胞内にたまりやすくなる。

 こうした違いによって、5-ALAを投与した後にがん細胞が赤く光りやすくなる。

 5-ALAを投与した後に青色光を当てると、PpIXが蓄積した病変が赤く浮かび上がる。この現象を利用したのが、光線力学的診断、PDD(Photodynamic Diagnosis)だ。

 小倉氏は、青色光で励起し、赤色蛍光として検出するため、励起光と蛍光を分けやすい点も、5-ALAを用いたPDDの利点として説明した。

 国内では、悪性神経膠腫の手術中に腫瘍を見えやすくする薬としてアラベルが承認され、膀胱がんではアラグリオが経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)時の筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)の可視化に使われている。

 小倉氏は、PpIXが赤く光るだけでなく、光を受けることで一重項酸素などの活性酸素を発生させる点にも触れた。つまり、5-ALAは病変を「見つける」PDDだけでなく、病変を「光で攻撃する」PDT(Photodynamic Therapy)にもつながる。

たまりやすさに関連する「トランスポーター」

第36回日本光線力学学会学術講演会の会長を務めた高知大学医学部泌尿器科教授の井上啓史氏。
「光線医療たちの想造」をテーマに開催された学会で登壇する井上啓史氏。(写真:編集部)
  • 5-ALAの取り込みにはPEPT1、PpIXなどの排出にはABCG2というトランスポーターが関わる。
  • 5-ALAが入りやすく、PpIXが外へ出にくい状態では、がん細胞内にPpIXがたまりやすくなる。
  • 取り込み、生成、排出、鉄代謝のバランスを調べることが、PDDやPDTの効果を考える手掛かりになる。

 5-ALAによる診断や治療を考える上で重要になるのが、なぜがん細胞にPpIXがたまりやすいのかをより深く理解することだ。

 小倉氏は、酵素のほかにも、こうしたPpIX蓄積に関わる分子として、5-ALAの取り込みに関わるトランスポーター「PEPT1」と、ポルフィリンの排出に関わる「ABCG2」についても説明した。

 PEPT1の発現が高い細胞では、5-ALAが細胞内に入りやすくなる。一方、ABCG2の働きが強い細胞では、細胞内で作られたPpIXや関連するポルフィリンが外へ出やすくなる。

 5-ALAが入りやすく、PpIXが外へ出にくい状態では、細胞内にPpIXが蓄積しやすい。逆に、5-ALAの取り込みが少ない場合や、PpIXが外へ排出されやすい場合には、PDDで赤く光りにくくなる可能性がある。

 小倉氏は、5-ALAを投与するとがん細胞が赤く光る背景には、5-ALAの取り込み、PpIXの生成、排出、さらに鉄代謝のバランスが関係していると説明した。

 こうした特徴次第で、PDDで光りにくくなったり、PDTでの治療効果が不十分になったりする可能性もある。それらを深く調べることで、PDDで光りにくい病変の背景を理解し、診断精度やPDTへの反応性を評価する手掛かりになる可能性もある。

光らない病変という限界

第36回日本光線力学学会学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会の会場入り口。
新来島高知重工ホールに設置された、第36回日本光線力学学会学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会の会場案内。(写真:編集部)
  • 5-ALAを用いたPDDでも、病理学的にはがんなのに赤く光らない偽陰性病変がある。
  • 光らない背景には、5-ALAの取り込み不足、PpIXの排出、ヘムへの変換などが関係する可能性がある。
  • 偽陰性の仕組みを分子レベルで理解することが、診断精度や治療効果の向上につながる可能性がある。

 こうした5-ALAを利用したPDDは万能ではない。小倉氏は、PDDには偽陰性があることにも触れた。病理学的にはがんであっても、PDDで赤色蛍光を示さない病変がある。

 光らない理由として考えられるのは、PpIXが十分に蓄積しないことだ。5-ALAが細胞内に入りにくい場合、作られたPpIXがABCG2などによって外へ排出される場合、あるいはPpIXがヘムへ変換されやすい場合などには、細胞内にPpIXがたまりにくいと考えられる。

 また、PDDで光る病変と光らない病変では、分子の特徴が異なる可能性もある。講演では、FGFR3という細胞増殖に関わる分子の異常との関係にも言及された。

 偽陰性の背景を詳しく理解することは、5-ALAを用いたPDDの技術を改善することにもつながる。5-ALAの取り込み、PpIXの生成、細胞外への排出、ヘムへの変換に関わる酵素やトランスポーターの働きが分かれば、どのような病変が光りにくいのか、どうすればPpIXをより蓄積させられるのかを考えやすくなる。

 小倉氏の講演は、5-ALAを用いたPDDの限界を示すだけでなく、その限界を分子レベルで理解することで、診断や治療の精度を高める可能性を示すものともいえる(続く)。

参考文献

がんを「光らせる薬」5-ALA、診断から治療、スクリーニング応用へ 膀胱がん、脳腫瘍などで活用進む 第34回日本光線力学学術講演会・第22回日本脳神経外科光線力学学会より
https://prevono.net/japan/1722/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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