研究

PSAの値が上がらない前立腺がん、進行する理由が明らかに

金沢大学などの研究グループが難治性前立腺がんの仕組みを報告

前立腺がん検査と書かれた採血管と、PSAの項目にチェックが入った検査依頼書。
前立腺がん検査に関する血液検体と検査依頼書。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 前立腺がんでは、PSAという血液検査の数値が、がんの動きを見る目印としてよく使われる。

 一方で、PSAが上がらないまま進行する前立腺がんもある。

 金沢大学などの研究グループは、こうした治療が難しい前立腺がんが進む仕組みの一端を明らかにし、2026年5月に発表した。

PSAでは追いにくい前立腺がんがある

PSAと書かれた採血管を、青い手袋を着けた手が持っている様子。
PSA検査用の血液検体。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 前立腺がんでは、PSAという血液検査の数値が病気の動きを見る目印として使われる。
  • 一方で、PSAが上がらないまま画像検査で進行や転移が見つかるタイプもある。
  • このタイプでは、血液検査だけでなく、CTやMRI、PETなどの画像検査で確認することが重要になる。

 前立腺がんは、多くの場合、男性ホルモンの影響を受けて増える。治療では、男性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法が広く使われている。

 しかし、治療を続けるうちに、ホルモン療法が効きにくくなることがある。この状態は「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ばれ、治療が難しい前立腺がんの一つとされる。

 前立腺がんの経過を見るときには、PSAという血液検査の数値が重要になる。PSAが上がれば、がんが再び動き出したり、進行したりしている可能性を考えるきっかけになる。

 ところが、すべての前立腺がんがPSAの変化として表れるわけではない。PSAが上がらないまま、画像検査で進行や転移が見つかることがある。

 しかも、このタイプでは、別のがんの性質を調べる血液マーカーでも変化をつかみにくい場合がある。研究グループは、こうした血液検査で追いにくい前立腺がんを「ダブルネガティブ去勢抵抗性前立腺がん」と呼んでいる。

 このタイプでは、血液検査の数値だけでは病気の動きをつかみにくい。CTやMRI、PETなどの画像検査、さらにがんの性質が変わっていないかを見ることが重要になる。

がんの周囲の細胞が進行を後押しする可能性

医師が男性患者の話を聞きながら、問診票に記入している様子。
前立腺や泌尿器の症状について相談する診察場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 研究では、前立腺がん細胞と周囲の間質細胞とのやり取りに注目した。
  • ホルモン療法後に、細胞増殖に関わるKRASの働きが高まる可能性が示された。
  • PSAでは追いにくい前立腺がんの進行には、がんの周囲の細胞環境も関わる可能性がある。

 研究グループが注目したのは、前立腺がんの周囲にある「間質細胞」との関係だ。間質細胞は、がんの周りにある土台のような細胞で、がん細胞の増え方や動きに影響することがある。

 研究では、ホルモン療法によって前立腺がんの増殖に関わる働きが抑えられると、がん細胞と周囲の間質細胞のやり取りが変化し、「KRAS」と呼ばれる細胞増殖に関わる経路が活性化することが示された。

 KRASは、細胞の増殖や生存に関わる重要な仕組みとして知られている。がんではKRAS遺伝子の変異が問題になることがあるが、今回の研究では、変異がなくても、周囲の細胞との関係によってKRASの働きが高まる可能性が示された。

 研究グループは、KRASの働きを抑える薬を使うと、前立腺がん細胞の増殖や移動、周囲の組織に入り込む力が抑えられることも確認した。動物実験でも、腫瘍の増殖が抑えられた。

 この成果は、すぐに新しい治療法が使えることを示すものではないが、PSAでは追いにくい前立腺がんの背景に、がん細胞と周囲の細胞のやり取りが関わる可能性を示した点が重要だ。

 PSAでは追いにくい前立腺がんを見逃さないためには、画像検査や、がんの性質の変化を併せて見る必要性が改めて浮かび上がる。前立腺がんが治療中に性質を変える場合、血液検査の数値だけでは見逃される可能性もある。

 今後は、KRASの働きや、がん細胞と間質細胞のやり取りを標的にした治療法の研究が進む可能性がある。今回の研究は、その課題を考えるための新しい視点を示している。

参考文献

難治性前立腺がんの進行メカニズムを新たに解明 ―前立腺間質細胞との相互作用による前立腺がん細胞のKRASシグナル活性化を特定―(金沢大学)
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2026/05/20260514_izumi.pdf

Kamijima T, Izumi K, Hiratsuka K, Inaba T, Koketsu Y, Nakagawa R, Toriumi R, Aoyama S, Kano H, Makino T, Naito R, Kadomoto S, Iwamoto H, Yaegashi H, Kawaguchi S, Nohara T, Shigehara K, Nakata H, Saito Y, Nakagawa-Goto K, Lin WJ, Mizokami A. Fibroblast-mediated KRAS activation in double-negative prostate cancer. Cell Death Dis. 2026 May 2;17(1):403. doi: 10.1038/s41419-026-08800-3. PMID: 42069672; PMCID: PMC13139504.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42069672/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す