研究

食道腺がんの早期発見に新たな手掛かり

バレット食道が見えない例にも前がん状態の痕跡 英国ケンブリッジ大学などが3100人解析

胸に手を当てて違和感を感じている女性
胸の不快感や違和感を訴える様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 食道腺がんが、バレット食道と呼ばれる状態から発生することが根拠に基づいて示された。

 英国ケンブリッジ大学などの研究グループが2026年4月に発表した。

がんの前段階を探る

首に手を当てて不調を感じている女性
喉や首の違和感を感じている様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 食道腺がんは進行して見つかることが多く、がんになる前の段階を明らかにして早期に対応することが重要とされている。
  • 研究グループは英国25施設の食道腺がん患者3100人を解析し、診断時にバレット食道が見える例と見えない例の違いを調べた。
  • 遺伝子解析も組み合わせることで、両者が同じ発生経路にあるのか、それとも別の経路をたどるのかを検証した。

 食道がんにはいくつかのタイプがあり、食道腺がんはその一つ。日本では扁平上皮がんが多いが、食道腺がんも見逃せないがんであり、欧米では特に増加が目立っている。食道腺がんは発見時には進行していることが多く、治療が難しいがんとして知られる。そのため、がんになる前の段階を見つけ、早期に対応することが重要になる。

 食道腺がんは、これまでバレット食道を出発点として発生すると考えられてきた。バレット食道とは、胃酸の逆流などが長く続くことで、食道の内側を覆う粘膜が、腸に似た性質に変化した状態をいう。内視鏡で見ると、通常とは異なる色調の領域として確認されることがある。

 一方で、食道腺がんと診断された時点で、バレット食道が見つからない患者もいる。もともとバレット食道がなかったのか、それともがんが進行する過程で見えなくなったのかは、はっきりしていなかった。そのため、食道腺がんにはバレット食道を経ない別の発生経路があるのではないか、という疑問が残されていた。

 研究グループは、この疑問を明らかにするため、英国の25施設から食道腺がん患者3100人のデータを集めて解析した。まず、診断時にバレット食道が確認されたかどうかを調べ、年齢、性別、肥満、喫煙、胸やけ、がんの進行度などとの関係を検討した。

 さらに一部の患者では、がん組織の遺伝子を詳しく解析した。710人については全ゲノム解析を行い、87人については同じ腫瘍の複数の部位から採取したサンプルを比べた。これにより、バレット食道が確認されるがんと確認されないがんで、発生の仕方に違いがあるのかを調べた。

 ポイントは、バレット食道が確認された食道腺がんと、確認されない食道腺がんが、同じ経路で発生しているのかを調べることだった。仮に別の経路で発生しているなら、患者の特徴やがんの遺伝子変化にも違いが出ると考えられる。

 一方で、両者に大きな違いがなければ、診断時にバレット食道が見えなくても、もともとはバレット食道から発生した可能性が高い。

 今回の研究は、その点を大規模な患者データと遺伝子解析によって検証したものだ。

進行したがんが前がん状態を隠す

内視鏡を手に持つ医療従事者が検査の準備をしている様子
内視鏡検査の準備を行う医療現場の様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 解析の結果、バレット食道が見える食道腺がんと見えない食道腺がんでは、遺伝子変化やゲノムの特徴に大きな違いは見つからなかった。
  • バレット食道が見えない例でもTFF3やREG4といった分子マーカーが検出され、もともとはバレット食道由来だった可能性が示された。
  • 進行したがんが前がん状態を覆い隠している可能性があり、分子マーカーを使った早期発見につながる手掛かりとして期待される。

 解析の結果、バレット食道が確認された食道腺がんと、確認されない食道腺がんは、遺伝子の変化やゲノム全体のパターンがほぼ同じだった。少なくとも、両者が別々の経路で発生したことを示す明確な差異は見つからなかった。

 そうした手がかりの一つとして、研究グループは、TFF3やREG4という分子に注目した。これらは、バレット食道の性質を示す手がかりになる分子マーカーだ。調べたところ、バレット食道が見えない食道腺がんの組織にも、これらの分子マーカーが検出されることがあった。

 両者の大きな違いは、がんの進行度だった。バレット食道が見つからない食道腺がんは、より進行した段階で診断される傾向があった。がんが大きくなるにつれて、もともとあったバレット食道の組織が覆い隠されたり、失われたりしている可能性が考えられた。

 このことは、見た目にはバレット食道が確認できなくても、がん組織の中にその名残が残っている可能性を示している。

 研究グループは、バレット食道が食道腺がんに共通する前段階である可能性が高いと見ている。これは、食道腺がんの予防や早期発見を考える上で重要な手がかりになる。

 これまでは、内視鏡で粘膜の変化を見つけることが大きな手がかりだった。しかし、バレット食道の範囲が小さい場合や、進行したがんに覆われている場合には、内視鏡で見ても分かりにくいことがある。今後は、TFF3やREG4のような分子マーカーを調べることで、見た目では分かりにくいリスクを早い段階で捉えられる可能性がある。

 もっとも、バレット食道や分子マーカーを見つけることが、実際に食道腺がんによる死亡を減らせるかどうかは、今後さらに確かめる必要がある。

 今回の研究は、食道腺がんを進行後に見つけるだけでなく、がんになる前の変化を手がかりに捉える道を開く可能性がある。

参考文献

Scientists confirm precursor to most common form of oesophageal cancer – offering opportunities to catch the disease early(Early Cancer Institute, University of Cambridge)
https://www.earlycancer.cam.ac.uk/news/scientists-confirm-precursor-most-common-form-oesophageal-cancer-offering-opportunities-catch

Integrated epidemiological and molecular data inform the relationship between precancer and cancer states of esophageal adenocarcinoma(Nature Medicine)
https://www.nature.com/articles/s41591-026-04331-8

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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