日本

静岡県立大学発の大腸がんリスク検査「コリバクチン検査」 郵送検査が開始、実用化が広がる

DNAを傷つけ大腸がんと関連する細菌由来物質に着目

下腹部に手を当てる女性の様子
下腹部に手を当てて体調の変化を気にする様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 大腸がんリスクを判定する「コリバクチン検査」と呼ばれる検査が実用化された。

 この検査は、静岡県立大学薬学部教授である渡辺賢二氏らの研究グループが発明したもので、郵送検査サービスとして2026年3月9日から提供が開始された。

大学発の技術を社会実装

腹部を抱えるようにして座る女性
腹部の痛みや不快感を感じている様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 大腸がんは日本で年間約15万人が罹患し、増加傾向が続く一方、早期発見できれば高い確率で治癒が見込める。
  • 静岡県立大学の研究グループは、DNAを損傷させる腸内細菌由来物質「コリバクチン」に着目し、産生菌を簡便に検出する技術を確立した。
  • この技術を基に大学発ベンチャーが「コリバクチン検査」を実用化し、便潜血検査と併用できる新たな大腸がんリスク判定法として展開してきた。

 日本では大腸がんの年間罹患数が約15万人に上り、増加傾向が続いている。この40年で約7倍に増加したとされる一方、早期に発見し、治療につなげることができれば、高い確率で治癒が見込めることも知られている。

 国立がん研究センターの統計によれば、がんが発生した臓器にとどまっている段階で発見された場合、大腸がんの5年相対生存率は92.3%と報告されている。

 こうした状況の中で、静岡県立大学の研究グループは、大腸がんとの関連が注目されている遺伝毒性物質「コリバクチン」に着目した。コリバクチンは腸内細菌が産生する物質で、特にpks遺伝子群を持つ一部の大腸菌が作ることが知られている。遺伝毒性物質とされるのは、この物質が細胞のDNAに損傷を与え、突然変異を引き起こし得るためだ。

 論文では、コリバクチンがDNAを「アルキル化」と呼ばれる変化によって傷つけることが示された。この物質がDNA鎖同士をつなぐ損傷につながる可能性も示されており、こうした修復の難しい損傷が蓄積することで、発がんに関わる変異を招く恐れがある。こうした点から、コリバクチンは大腸がんと関連する細菌由来の物質として注目されている。

 研究グループは、コリバクチンを産生する菌を簡便に検出する技術を確立した。渡辺教授らが発明した「コリバクチンおよびコリバクチン産生菌の検出方法」は、日本と米国で特許を取得している。

 この技術を社会実装するため、渡辺教授は静岡県立大学認定ベンチャーのアデノプリベントを2019年に立ち上げ、「コリバクチン検査」を実用化した。

 この検査は、従来の便潜血検査と併用することで、より精度の高いリスク判定につながる点が特徴だ。これまで3万検体を超える検査実績を重ねてきたが、受検できる健診機関は東京などの都市圏に限られていた。

郵送で全国対応へ

コリバクチン産生菌による腸内環境の変化と大腸がん発生までの過程を示した模式図
コリバクチン産生菌が腸内で炎症やDNA損傷を引き起こし、大腸がんにつながる過程を示した図。(出典:ヘルスケアシステムズ)
  • ヘルスケアシステムズとの連携により、自宅で採便してポスト投函するだけの郵送検査サービスが始まり、全国で利用しやすくなった。
  • 研究報告では、大腸がん患者の約半数にコリバクチン産生菌の関与が示されており、保有の有無がリスク把握の一要素として注目されている。
  • 検査は診断を確定するものではないが、受診のきっかけをつくり、早期発見や早期治療への意識を高める役割が期待される。

 今回、研究グループは、名古屋市に本社を置く検査事業などを手掛けるヘルスケアシステムズと連携し、自宅で採便し、そのままポストに投函するだけで受けられる郵送検査サービスの開始に至った。

 これにより、これまで医療機関や一部の健診機関に限られていたコリバクチン検査が、静岡県内をはじめ全国で、より手軽に利用できるようになった。

 この検査の意義は、複数の研究報告から読み取ることができる。

 2025年4月の国立がん研究センターの報告では、日本人の大腸がん患者のおよそ50%にコリバクチン産生菌の関与が示された。さらに、疫学研究では、大腸がん患者の67%、健常者の27%がコリバクチン産生菌を保有していたことが報告されている。これらの結果は、コリバクチン産生菌の有無が、大腸がんリスクを考える上で確認すべき要素の一つであることを示している。

 この検査は医師の診断や治療を支える位置付けとして、医療機関の受診を促すきっかけとなるものだ。研究グループは、測定結果は採取時の状態を反映するもので、将来の病気を否定したり確定したりするものではないという注意も示している。また、偽陽性や偽陰性には依然として注意が必要だとしている。

 もっとも、こうした検査環境の整備は、大腸がんへの関心を高め、受診を考える契機の一つとして位置づけられる。がんの早期発見や早期治療が進み、命を守ることにつながることが期待される。

参考文献

本学発の大腸がんリスク検査「コリバクチン検査」が郵送サービスを開始 ―大腸がんの早期発見・予防をより身近に―(静岡県立大学)
https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/news/20260421d/

「コリバクチン検査」郵送検査サービスを開始しました(ヘルスケアシステムズ)
https://hc-sys.com/news/press-release/260312/

前立腺がん・乳がん・膵臓がんで明暗 国立がん研究センターが5年生存率を公表
https://prevono.net/japan/500/

Wilson MR, Jiang Y, Villalta PW, Stornetta A, Boudreau PD, Carrá A, Brennan CA, Chun E, Ngo L, Samson LD, Engelward BP, Garrett WS, Balbo S, Balskus EP. The human gut bacterial genotoxin colibactin alkylates DNA. Science. 2019 Feb 15;363(6428):eaar7785. doi: 10.1126/science.aar7785. PMID: 30765538; PMCID: PMC6407708.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6407708/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の演台で、マイクを使って講演する坂東英明氏。
MCED検査の適正な利用に向けたガイダンス作成について講演する、国立がん研究センター東病院の坂東英明氏。(写真:編集部)

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が初の見解書を公表 世界でも先駆的な適正利用の考え方を提示

血液や尿などを使い、複数のがんをまとめて調べる「多がん種早期検出(MCED)」検査について、日本癌治療学会は2026年10月22日、初めての見解書となる「多…

第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。演台で講演する登壇者と、座長席で話を聞く2人の座長、参加者の様子。
2026年10月16~18日に鹿児島市で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。専門家による研究発表や討論が行われた。(写真:編集部)

MRIの撮影方法を工夫し、これまで分かりにくかった病気の特徴を捉える研究が進む

MRIの撮影方法を工夫することで、これまでの画像では分かりにくかった病気の特徴や、治療による変化を捉えようとする研究が進んでいる。注目されているのは、体内の…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
キャプション 第54回日本磁気共鳴医学会大会で開催された「子宮肉腫の鑑別、最新事情」のシンポジウム。良性の子宮筋腫と子宮肉腫を見分ける難しさや、MRIによる診断精度の向上、AIを活用した診断支援の研究などが紹介された。(写真:編集部)

子宮肉腫、良性の子宮筋腫と見分ける難しさに挑む MRIの診断方法を改善、AI活用の研究も進む

子宮にできる悪性腫瘍の一つである「子宮肉腫」。良性の子宮筋腫と似た画像を示すことがあり、MRIを使っても手術前に正確に見分けることが難しい場合がある。肉腫を…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

全身MRI、異常が疑われる場所をカラー表示で見やすく 画像を重ね合わせる「フュージョン」に注目

全身をMRIで調べる検査で、異常が疑われる部分と、体の形が分かる画像を重ね合わせる「フュージョン画像」が注目されている。2026年10月16日から鹿児島市で…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。乳房MRIをテーマにしたシンポジウムでは、超高速撮影による乳がんの検出や、拡散強調画像(DWI)を利用して不要な生検を減らす可能性などが議論された。(写真:編集部)

乳がんを見つけやすくする「ウルトラファストダイナミックMRI」、不要な生検を減らす研究も

乳がんの診断に使われるMRIの撮影技術が進歩し、これまで見つけにくかった病変を捉えたり、良性か悪性かを詳しく調べたりする研究が進んでいる。

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す