大腸がん検診では、便潜血検査が広く使われている。便に血液が混じっていないかを調べる検査で、体への負担が少なく、多くの人に実施しやすい。
ただし、便潜血検査はがんを見つけ出すためにはあくまで入口に過ぎない。
陽性となった人が精密検査を受け、がんやポリープがないかを確認して初めて、検診は次の段階に進む。便潜血検査で異常を拾い上げても、その後の大腸内視鏡などにつながらなければ、検診の効果は十分に発揮されない。
第65回日本消化器がん検診学会総会で論点になったのは、この大腸内視鏡を検診の中でどう位置づけるかだった。
大腸内視鏡は、便潜血検査で陽性となった人が受ける精密検査として理解されることが多い。もちろん、その役割は大きい。ただ、大腸内視鏡の意味はそこにとどまらない。がんを見つけるだけでなく、がんになる前の病変を見つけ、切除できるからだ。
便潜血陽性者を内視鏡につなげる
大腸がん検診などで用いられる便検査キット。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 便潜血検査は大腸がん検診の入口で、陽性となった人を大腸内視鏡などの精密検査へ確実につなげることが重要。
- 大腸内視鏡では、がんの有無を確認するだけでなく、腺腫などの前がん病変を見つけて切除できる。
- 便潜血検査を再度受けても精密検査の代わりにはならず、陽性後は大腸内視鏡などで詳しく調べる必要がある。
大腸がん検診でまず重要になるのは、便潜血検査で陽性となった人を精密検査へ確実につなげることだ。
便潜血検査は、便の中の血液を手がかりに、詳しく調べるべき人を拾い上げる検査になる。一方、大腸内視鏡は、直腸から大腸の奥まで粘膜を観察し、病変があれば組織を採取したり、ポリープを切除したりできる。
大腸がんの多くは、腺腫と呼ばれるポリープなどを経て発生すると考えられている。がんになる前の段階で病変を見つけ、切除できれば、がんを早く見つけるだけでなく、将来の大腸がんを減らすことも期待できる。
ここに、大腸内視鏡の大きな意義がある。
胃がん検診や肺がん検診では、基本的にはがんを早く見つけることが中心になる。大腸がん検診では、そこに「前がん病変を取り除く」という発想が加わる。大腸内視鏡は、診断と治療の距離が近い検査といえる。
だからこそ、便潜血検査で陽性となった後に、精密検査へ進まないことは大きな問題になる。
症状がないから大丈夫だと思う。仕事を休みにくい。前処置がつらそう。検査が怖い。費用が気になる。理由はさまざまだが、精密検査に進まない人が出る。中には、便潜血検査をもう一度受けて様子を見ようと考える人もいる。
しかし、便潜血検査で陽性となった後に、もう一度便潜血検査を受けても、精密検査の代わりにはならない。大腸がんやポリープがあるかどうかは、大腸内視鏡などの精密検査で確認する必要がある。
大腸がん検診で問われるのは、便潜血検査を何人が受けたかだけではない。陽性者をどれだけ確実に大腸内視鏡へつなげられるか。内視鏡で見つかった病変をどう診断し、必要な治療や経過観察につなげるか。ここまで含めて検診の力になる。
最初から全員に内視鏡、ではない
大腸内視鏡検査では、医師の観察力とAI支援の活用をどう両立させるかが課題となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 全大腸内視鏡には前処置や検査時の負担、出血や穿孔などの不利益があり、医療資源も必要になる。
- 国立がん研究センターの2024年度版ガイドラインでは、便潜血検査は推奨する一方、全大腸内視鏡を対策型検診として一律に行うことは推奨していない。
- 便潜血検査で広く対象者を拾い上げ、陽性者やリスクの高い人を内視鏡へつなぐ組み合わせが重要になる。
一方で、大腸内視鏡を広げればすべて解決するわけではない。
全大腸内視鏡には前処置が必要になる。検査には時間がかかり、苦痛や恥ずかしさを感じる人もいる。出血や穿孔などの偶発症もゼロではない。検査枠、内視鏡医、看護師、前処置の説明、偶発症への対応まで含めれば、医療資源の負担も大きい。
国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」2024年度版では、免疫法便潜血検査は対策型検診、任意型検診の双方で実施を推奨している。一方、全大腸内視鏡検査については、死亡率減少効果を示す科学的根拠はあるものの、不利益などの課題もあり、現状では対策型検診として実施しないことを推奨している。
ここは重要だ。
大腸内視鏡には、前がん病変を見つけて切除できる強みがある。しかし、自治体などが住民全体を対象に行う検診として一律に広げるには、利益と不利益、費用、受診者の負担、医療体制を慎重に見る必要がある。
その意味で、学会で見えた論点は「全員が最初から内視鏡を受けるべきだ」という単純な話ではない。
便潜血検査で広く拾い上げ、陽性者を確実に内視鏡へつなげる。必要に応じて、年齢やリスク、過去のポリープ歴などを踏まえ、内視鏡を受けるべき人を見極める。大腸内視鏡の意義を生かすには、この組み合わせが重要になる。
最初から全員に内視鏡、ではない
熊本市では、一定年齢の市民を対象に全大腸内視鏡検査を無料で行う取り組みが進められている。画像は熊本市内の街並み。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 熊本市では、一定年齢の市民を対象に、全大腸内視鏡を無料で受けられる機会を設ける取り組みが進められている。
- 台湾では便潜血検査を入口に、陽性者を大腸内視鏡へつなぎ、その後の経過まで追う全国的な仕組みが整えられている。
- 限られた内視鏡資源を必要性の高い人に届けるには、検査件数だけでなく、陽性後の精密検査や経過を管理する組織型検診が重要。
学会では、熊本市の取り組みも紹介された。熊本市では、2026年度、熊本市在住で年度内に55歳から59歳になる人のうち、50歳以降に全大腸内視鏡を受けていない人を対象に、問診と全大腸内視鏡検査を無料で行う事業を進めている。対象人数は2000人に広げられ、申し込みが多い場合は抽選となる。
これは、住民全員に内視鏡を行う制度ではない。一定の年齢で一度、全大腸を確認する機会を設け、以後の検診や経過観察につなげる試みといえる。
台湾の大腸がん検診も、考える手がかりになる。台湾では、定量免疫法の便潜血検査を2年に1回行い、陽性となった人を大腸内視鏡につなげる全国的な体制が取られている。2025年からは、無料検診の対象が45歳から74歳の人と、40歳から44歳で大腸がんの家族歴がある人に広がった。
重要なのは、台湾が単に便潜血検査を配っているだけではない点だ。国民健康保険の仕組みやデータ管理を背景に、誰が対象で、いつ検査を受け、陽性者が大腸内視鏡に進んだのかを追う組織型検診として動いている。
すべての人に最初から内視鏡を行うのではない。便潜血検査で広く拾い上げ、陽性者を内視鏡へつなぎ、結果を管理する。限られた内視鏡資源を、必要性の高い人に届ける設計だ。
大腸内視鏡の意義を生かすには、検査件数を増やすだけでは足りない。便潜血検査で陽性となった人を確実に精密検査へつなげ、その結果を次の検診や経過観察に戻す組織型検診の仕組みが必要になる。