卵巣がん患者の術前造影CT画像から、腹腔内に細かな腫瘍が種を播いたように広がる「腹膜播種」の有無を判定するAI(人工知能)モデルが開発された。
東京慈恵会医科大学およびサイオステクノロジーの研究グループが2026年3月に発表した。
手術前の評価が難しかった
検査装置に横たわり画像検査を受ける女性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
卵巣がんでは腹膜播種、特に小腸播種の有無が手術方針や切除の可否を大きく左右する。
CTでは小さな播種病変の判定が難しく、MRIも負担やコストの面で実用性に課題があった。
研究グループは術前造影CTを用い、腹膜播種全体用のP-Modelと小腸播種用のSB-Modelを構築した。
上皮性卵巣がんは、診断時点ですでに腹膜播種を伴うことが少なくなく、完全な切除が困難とされる。
その予後を改善するには、初回手術で腫瘍を完全に摘出することが重要とされるが、播種が広範囲に及んでいる場合にはそれが難しくなる。
中でも小腸への播種は治療方針を左右し、広い範囲の小腸切除は重い合併症につながる可能性があるため、完全な切除が困難とされる。
このため、手術前に小腸播種の有無を正確に把握することが求められてきた。
しかし、現在広く用いられているCT検査では、播種病変が小さいこともあって診断精度に限界があり、とくに小腸播種は読影のみで見極めることが難しかった。
一方で、MRIによる改善の可能性はあるものの、検査時間やコスト、患者負担の面で現実的とは言いにくく、実際には手術によっておなかの内部を目視する試験的開腹や、腹腔鏡によって確認する審査腹腔鏡といった手段に頼る場面もあった。
今回、研究グループは、AIを用いて卵巣がん患者の腹膜播種の有無を見極めるシステム構築を試みた。2020年から2023年に慈恵医大附属病院と附属柏病院で手術を受けた卵巣がん患者227人の術前造影CT画像を解析し、腹膜播種全体の有無を判定するAIモデル「P-Model」と、小腸播種の有無を判定するAIモデル「SB-Model」を構築した。性能は「8分割交差検証」など複数条件で評価し、結果の安定性や再現性も確認した。
腹膜播種全体で77%、小腸播種で82%を正しく判定
CT装置で検査を受ける患者と医療スタッフ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
AIモデルは、腹膜播種全体を77.3%、小腸播種を81.9%をそれぞれ正しく判定した。
小腸播種を判定するAIモデルは感度86.4%、特異度77.5%を示し、読影を上回る結果となった。
腹水や腫瘍量が多い症例では精度低下もみられたが、手術を伴う検査をせずに手術前の評価への道筋を示した。
解析の結果、AIモデルは腹膜播種全体だけでなく、従来は術前CTで見極めが難しかった小腸播種についても判定できることが分かった。特に小腸播種に特化したSB-Modelは、全体として81.9%の症例を正しく判定し、人による読影結果を上回った。
具体的には、腹膜播種全体を判定するP-Modelは、全体として77.3%の症例を正しく判定。実際に病気や病変がある人を「ある」と判定できる割合である感度は68.8%、実際に病気や病変がない人を「ない」と判定できる割合である特異度は85.8%だった。小腸播種に特化したSB-Modelは、感度86.4%、特異度77.5%だった。
一方で、すべての症例で高精度に判定できたわけではない。研究では、腹水が多い症例や腫瘍量が多い症例ではAIの診断精度が下がる傾向も確認された。AIが苦手とする条件が見えてきたことは、今後の改良につながる重要な知見といえる。
今回の研究は、2施設・227症例という限られたデータに基づくもので、診断精度もなお100%には届いていない。それでも、従来確認が難しい小腸播種の有無を、手術を伴う検査をせずにCT画像だけから予測する道筋を示した意義は大きい。
今後さらに研究が進むことで、卵巣がん治療の手術前の評価の質を高め、治療方針の決定をより迅速に進める可能性がある。
研究成果は2026年3月23日付で「Scientific Reports」に掲載された。
参考文献
CT画像から卵巣がん腹膜播種を診断するAIモデルを開発 読影では困難な小腸播種を82%の正確性で診断(東京慈恵会医科大学)
https://www.jikei.ac.jp/press/detail/?id=45809
Kim R, Seki T, Noda K, Yoshida K, Yokosu K, Hamada R, Habuchi E, Takahashi M, Takano H, Okamoto A. Diagnostic performance of artificial intelligence for detecting peritoneal and small bowel dissemination in epithelial ovarian cancer using preoperative contrast-enhanced CT imaging. Sci Rep. 2026 Mar 23;16(1):8739. doi: 10.1038/s41598-026-41728-4. PMID: 41872308; PMCID: PMC13009186.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41872308/