研究

歯周病菌が乳がん発症や転移に関与か

BRCA1変異でリスク増大の可能性、米ジョンズ・ホプキンス大学が報告

手で口元を覆い息のにおいを確認する女性
手で口元を覆い息のにおいを確認する女性。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 歯周病に関連する口腔内細菌が、乳がんの発症や転移に関与する可能性が示された。

 米国のジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターの研究グループは、2026年1月に報告した。

 その報告によれば、従来、歯周病と乳がんリスクの関連を示す研究が多く、その背景にある仕組みへの関心が高まっていた。

 今回、研究グループは、それらの因果関係を解明するために研究を行った。実施したのは、細胞や動物実験による因果関係の検証だ。

口腔細菌と乳がんの新たな関連性

歯科医がミラーで口内を診察している様子
歯科医がミラーで口内を診察している様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 乳がん組織で口腔細菌フソバクテリウムの増加とバイオフィルム形成細菌の共存が確認。
  • 細菌の定着により炎症やDNA損傷が生じ、前がん病変を誘導。
  • 血流を介して腫瘍増殖や肺転移を促進する作用も確認された。

 こうした解析の結果、乳がん組織で、口腔内細菌の一つであるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)の増加が確認された。さらに、歯周病で細菌が作り出すことが知られるバイオフィルムを形成する他の口腔細菌の共存が確認された。

 研究グループが動物実験を行ったところ、この細菌が乳腺に定着することで炎症やDNA損傷、細胞の異常増殖を引き起こし、前がん病変(過形成や化生)を誘導することが示された。

 さらに、血流を介して全身に広がったフソバクテリウム・ヌクレアタムは、既存の乳がん腫瘍の増殖を加速し、肺への転移を促進した。

 分子レベルでは、この細菌がDNA損傷を引き起こし、誤りを伴いやすい修復経路を活性化することが確認された。

 また、DNA修復に関わるタンパク質(DNA-PKcs)の働きが高まり、細胞の移動性、浸潤性、幹細胞様性、化学療法抵抗性が高まることが示された。

BRCA1変異細胞で顕著な影響と臨床的意義

歯ブラシで歯を磨く口元のクローズアップ
歯ブラシで歯を磨く様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • BRCA1変異細胞では細菌の付着や侵入が起こりやすく影響が増強。
  • DNA損傷の蓄積により腫瘍成長や転移能力がさらに高まる。
  • 遺伝要因と口腔細菌の相互作用ががん進行に関与する可能性。

 特に注目されるのは、DNAの損傷を修復し、がんの発生を抑える働きを持つBRCA1遺伝子に変異を持つ乳腺細胞や乳がん細胞で、フソバクテリウム・ヌクレアタムの影響がより強く現れた点だ。

 これらの細胞では、細菌が付着するための目印となる糖(Gal-GalNAc)が多く存在しており、そのため細菌が細胞に付着しやすく、内部に入り込み、長くとどまりやすくなっていた。

 その結果、DNAの傷が蓄積し、腫瘍の成長を後押しする作用が強まり、がん細胞の増殖や転移のしやすさがさらに高まることが確認された。

 これは、生まれ持った遺伝的な要因と、細菌のような外部環境の要因が互いに影響し合い、がんの進行や悪性化を促すことを示す重要な知見である。

 研究は、口の中の細菌環境が乳がんの発症や進行に関わる可能性を示した。特にBRCA1遺伝子に変異を持つ人では、新たなリスク要因となる可能性がある。

 今後は、口腔ケアによる予防の重要性や、細菌をターゲットにした新たな治療法の開発につながる可能性がある。

 研究は2026年1月、「Cell Communication and Signaling」に掲載された。

参考文献

Oral Bacterium May Promote Breast Cancer Development and Spread(Johns Hopkins Medicine)
https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/2026/01/oral-bacterium-may-promote-breast-cancer-development-and-spread

Parida S, Nandi D, Verma D, Yi M, Yende A, Queen J, Gabrielson KL, Sears CL, Sharma D. A pro-carcinogenic oral microbe internalized by breast cancer cells promotes mammary tumorigenesis. Cell Commun Signal. 2026 Jan 15. doi: 10.1186/s12964-025-02635-9. Epub ahead of print. PMID: 41535941.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41535941/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

胸を押さえ、心臓付近の痛みを示す男性。
心筋梗塞や脳卒中などのリスク評価では、通常のリスク計算に加え、対象を選んで冠動脈カルシウム検査を使うことの有用性が検討された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

心臓CTの「カルシウム検査」、全員には必要ない可能性

心臓の血管にたまったカルシウムをCTで調べる「冠動脈カルシウム検査」は、将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを見極める方法として利用が広がっている。しかし、すべて…

第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会の大会テーマと熊本城のイラストが表示された会場スクリーン。
「人生のそばに予防医療を」をテーマに開かれた第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会。(写真:編集部)

がん検診、職場と自治体の情報を一体把握へ 厚労省が第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会で最新動向を説明

がん検診を「受けてもらう」だけでなく、職場と自治体に分かれた検診情報を連携させ、科学的根拠が蓄積してきた新しい検査を、自治体で実際に運用できるか検証する──…

日本人間ドック・予防医療学会学術大会で、健診から肝疾患を拾い上げる方法について議論する肝臓関連シンポジウムの様子。
第67回日本人間ドック・予防医療学会学術大会で開かれた、日本肝臓学会との共催シンポジウム。健診を入口に、MASLDやアルコール関連肝疾患をどう見つけるかが議論された。(写真:編集部)

肝疾患の拾い上げ、健診は「ALT30超え」を入口に次の行動へ

健診で「肝機能の数値が少し高い」と言われても、そのままにしている人は少なくない。一方で、血液検査の数値が大きく外れていなくても、脂肪肝や肝臓の線維化が進んで…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す