乳房の「年齢」とがんの関わり
英国ケンブリッジ大が解明、がん細胞が定着しやすい環境

女性の乳房組織は年とともに変化し、特に閉経期に大きな変化が起こる。これが乳がんのできやすさにつながる可能性がある。
英国ケンブリッジ大学とカナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究グループが2026年3月に報告した。
乳房は年齢とともに大きく作り替わる

- 500人超、300万細胞超の解析で、乳房組織が年齢とともに大きく作り替わる様子を調べた。
- 閉経期には細胞数や細胞分裂が低下し、小葉の縮小、消失や乳管比率の上昇が目立った。
- 加齢に伴い支持層の肥厚、脂肪細胞の増加、血管の減少など、乳房内の構造変化も確認された。
乳がんは女性で最も多いがんの一つで、発症の多くは50歳以降に集中している。
一方で、なぜ若い時期には排除できていた異常な細胞が、年齢を重ねると生き延びやすくなるのかは、十分に分かっていなかった。
今回、研究グループは、乳がんとは関係のない理由で採取された乳房組織を含む検体を用い、乳房の変化を空間的に調べた。
対象としたのは、15歳から86歳までの500人を超える女性の乳房組織。年とともに乳房内で何が起きるのかを、300万細胞を超える規模で分析した。実施したのは、先端的な画像解析のほか、画像データにホルモン受容体、免疫細胞、組織構築の情報を重ね合わせ、乳房組織の変化を詳細に調べた。
こうした研究を通して、年とともにあらゆる細胞種の数が減り、細胞分裂も低下することが分かった。特に母乳をつくる小葉は縮小または消失して、乳管の比率が相対的に高まり、その周囲の支持層が厚くなっていた。脂肪細胞が増える一方で、血管が減っていた。
免疫の見張りが弱まる

- 閉経期には乳房組織の構造だけでなく、免疫の状態も大きく変化していた。
- 年とともに「B細胞」や活性の高い「T細胞」が減り、炎症性が高く防御力の低い可能性がある免疫環境へ移行した。
- 免疫細胞と上皮細胞の距離が広がって相互作用も弱まり、異常細胞やがんの前段階の細胞が残りやすくなる可能性が示された。
研究グループによれば、20代にも妊娠や出産に関連するとみられる変化は見られたが、組織全体を大きく組み替えるほどの変化は、閉経期に最も顕著だった。この時期に乳房組織の構造や免疫の状態が大きく変化していた。
とりわけ研究グループが注目したのは、、年とともに起こる免疫環境の変化。若い乳房では、がん細胞を見つけて排除する働きに関わる「B細胞」や活性の高い「T細胞」が比較的多く存在していた。ところが年齢を重ねるにつれて、これらの細胞は減り、より炎症性が高く、防御力が低い可能性のある免疫状態へと移っていた。
さらに、免疫細胞や間質細胞と、乳管や小葉を形づくる上皮細胞との距離が広がり、細胞同士の相互作用も弱まっていた。こうした変化は、初期の異常細胞やがんの前段階にある細胞が周囲の監視をすり抜けやすくする可能性がある。
研究グループは、乳房で自然に生じる変異細胞が、年齢とともに定着し、広がりやすくなる背景には、このような微小環境の変化があると見ている。
今回の成果は、乳がんリスクを「遺伝子変異の蓄積」だけでなく、「年齢とともに変わる組織の受け皿」という視点から捉え直すものとなる。閉経を境に乳房組織がどのように変化し、免疫監視がどの段階で弱まるのかを詳しく理解できれば、将来的には年齢やライフステージに応じた予防戦略や、より精密ながんリスク評価につながる可能性がある。
研究は、学術誌「Nature Aging」で発表された。
参考文献
Most detailed map to date of breast tissue changes reveals role of menopause in cancer susceptibility(University of Cambridge)
https://www.cam.ac.uk/research/news/most-detailed-map-to-date-of-breast-tissue-changes-reveals-role-of-menopause-in-cancer
Gupta P, Lee E, Masqué Soler N, Schrader E, Wang XQ, Mayer S, Flores C, Beatty S, Roth A, Aparicio S, Ali HR. Single-cell spatial atlas of the aging human breast. Nat Aging. 2026 Mar 31. doi: 10.1038/s43587-026-01104-3. Epub ahead of print. PMID: 41917190.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41917190/
この記事の執筆者
星良孝
PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。





