診療ガイドラインは、医療機関を受診した患者に、標準的で適切な医療を提供するための指針。
しかし、こうしたガイドラインが現場で十分に徹底されていないからといって、その不足を補うために検診を拡充し、病気の早期発見や早期対応につなげようとする考え方は適切ではない。
英国の国立検診委員会(UK National Screening Committee、UK NSC)は2026年4月、このような見解を公表した。
検診と日常診療は、似ているようで制度の前提が異なる
診察室で医師が患者の話を聞きながら記録を取る様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 検診は無症状の人を対象とするため、偽陽性や過剰治療などの不利益を抑える慎重な設計が必要。
- 日常診療は症状や不安のある人を対象に、医師と相談しながら検査や治療の意味を個別に判断できる。
- 検診と診療は目的も対象も異なるため、診療の不備を検診で埋め合わせるべきではない。
記事では、NICE(英国国立医療技術評価機構)などのエビデンスに基づく推奨を示す組織が強く勧めている医療対応であっても、現場で十分に実施されていないことがあると指摘している。
その場合でも、問題の解決策は新たな検診を作ることではなく、日常診療の体制そのものを改善することにあると明確に述べている。
今回の見解で最も重要なのは、検診と日常診療は、そもそも目的の異なる仕組みだという点だ。
検診は、症状がなく、まだ病気と診断されてもいない人を対象に行われる。
そのため、本当は病気ではないのに異常ありと判定されて不安を招くことや、必要のない治療につながることを、できるだけ避けなければならない。
このため、検診は日常診療以上に慎重に設計する必要がある。
これに対して、日常診療や継続的な治療の対象となるのは、既に症状がある人や、体調への不安があって受診している人。
こうした場合は、医師と直接相談しながら、検査や治療を受ける意味、不利益の可能性を一人ひとりに応じて考えることができる。
また、もともと病気の可能性がある人を診ているため、検査で見つかった異常が本当に病気である可能性も、検診より高い。
例えば、病気の見逃しが問題になると、これまで検診の対象ではなかった病気についても、新たに検診を設ければよいという発想に傾きやすい。
しかし委員会は、そうした考え方に慎重である。検診を日常診療の穴埋めとして使うべきではないとするためだ。
診療ガイドラインの徹底が不十分で、その結果として病気の見逃しが起きているのであれば、まず改善すべきなのは日常診療の側だ。
検診と診療は目的も対象も異なる別の仕組みであり、それぞれの課題はそれぞれの仕組みの中で解決すべきだというのが委員会の立場となる。
検診は、症状のない人に安全に検査を提供するため、対象者の把握や受診勧奨、IT管理、品質保証などを含む特別な体制の上に成り立っている。
したがって、診療の問題を解決するために検診制度を持ち込むのは筋違いだとしている。
必要なのは「検診化」ではなく、日常診療をきちんと機能させること
医師が高齢の患者と対話しながら診察を進める様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 慢性疾患ごとに新たな検診制度を増やすのは、運用面でも医療資源の面でも現実的ではない。
- 改善すべきなのは検診の拡大ではなく、必要な患者の把握や受診勧奨、結果追跡ができる日常診療の体制。
- 検診で培われたデータベース管理やコール・リコールの考え方は、日常診療の強化に応用できる。
記事では、慢性疾患の管理がNHSの医療の大きな部分を占めていることにも触れ、こうした病気ごとに新たな検診プログラムを設けていくのは、現実的でも合理的でもないと指摘している。
検診には、対象者を把握して案内し、受診状況や結果を追跡し、質を保つための仕組みや人員が必要となる。こうした体制をあらゆる病気に広げれば、限られた医療資源を圧迫しかねない。
そのため委員会は、診療の問題を検診で補うのではなく、日常診療の側を改善すべきだとする。診療ガイドラインが十分に徹底されず、必要な対応が患者に届いていないのであれば、直すべきなのは診療体制そのものであるという考え方だ。
具体的には、必要な医療を受けるべき患者をきちんと把握すること、適切な時期に受診を促すこと、受診したかどうかや結果を追跡できるようにすることなどが重要だとする。
委員会は、こうした点では、検診で使われているデータベースやコール・リコール、IT管理の考え方を日常診療にも生かせるとしている。
今回の見解が示しているのは、病気の見逃しを防ぎたいからといって、何でも検診にすればよいわけではないということである。検診と日常診療は別の仕組みであり、診療に課題があるなら、検診に頼るのではなく、診療の仕組みそのものを立て直す必要がある。