研究

家庭での尿検査をより正確に

水分摂取量などによって変わるの違いを補正するセンサーを開発、東北大学が発表

採尿に使用される清潔なトイレ空間の様子
医療機関などで採尿に使用されるトイレ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 家庭での尿検査の精度向上につながる技術を、東北大学の研究グループが開発し、2026年2月に報告した。

 これまで、尿は自宅で採取できても、検査結果を正確に評価するうえで欠かせない「クレアチニン測定」は、医療機関や研究室の装置に頼ることが多かった。今回の研究では、この課題の解決を目指し、家庭向けの小型センサーを開発した。

尿の濃さの違いを補正する技術が欠かせない

採尿カップと検査用の容器が問診票の上に置かれている様子
採取した検体を提出する際のイメージ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 尿検査では、水分摂取量などで変わる尿の濃さ、つまり尿の濃度を補正して評価することが欠かせない。
  • その基準となるクレアチニン測定は重要だが、従来は医療機関や研究室の装置に頼ることが多かった。
  • 東北大学の研究グループは、家庭でも使いやすい小型・低コストの新しいセンサーを開発した。

 尿検査は身近な検査だが、実は奥の深い検査でもある。水分摂取量などによって尿の濃さ、つまり尿の濃度が変わるため、結果をそのまま比べるだけでは正確な評価が難しい。そこで必要になるのが、クレアチニンを基準にして値を補正する「クレアチニン補正」だ。

 クレアチニンは、筋肉の代謝によって体内で生じる物質で、血液中をめぐった後、腎臓でろ過されて尿に排出される。尿の濃さの違いを補正する際の基準として使われており、これを正しく測ることが、尿検査の結果をより正確に評価する土台になる。

 背景には、尿に含まれるさまざまな成分から、健康状態や病気のリスクを調べる研究が進んでいることがある。一方で、こうした成分を正確に評価する前提となるクレアチニン測定は、これまで医療機関や研究室の装置に頼ることが多く、家庭で手軽に行うのは難しかった。従来のセンサーは構造が複雑で、小型化や低コスト化、使い捨て化にも課題があった。

 今回、研究グループは、小型で低コストの新しいセンサーを使い、家庭でもクレアチニンを測れるようにすることを目指した。

 そのために開発したのが、よりシンプルな仕組みのセンサーだ。センサーには、白金ナノ粒子と複数の酵素を含む材料が使われている。尿の中のクレアチニンが酵素の働きで分解されると、その変化が電気抵抗の変化として表れる。この変化を読み取ることで、クレアチニンの濃度を測定する仕組みだ。

 構造を簡単にしたことで、小型化や量産もしやすくなった。家庭で使いやすい尿検査技術の実現につながる成果といえる。

数十秒で測定、その場での尿評価を支える技術に

目盛り付きの採尿用カップが複数並べられている様子
検査で使用される目盛り付き採尿カップ。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 新しいセンサーは、クレアチニン濃度を高感度かつ数十秒で測定できる。
  • 家庭でその場で使える実用性があり、尿検査の正確な評価を自宅で行える可能性がある。
  • 将来的にはクレアチニン以外の測定にも応用され、尿検査で確認できる項目の拡大が期待される。

 研究グループは、この新しいセンサーによって、クレアチニン濃度を高感度かつ短時間で測定できることを示した。

 測定にかかる時間は数十秒程度で、家庭でその場で使うことを見据えた実用性の高さが特徴だ。

 尿そのものはこれまでも自宅で採取できたが、正確な評価に必要なクレアチニン測定は、医療機関や研究室の装置に頼ることが多かった。今回の技術が実用化に近づけば、採取した尿を外部で分析してもらわなくても、家庭で、より正確に評価できる可能性がある。

 さらに、このセンサーはクレアチニン以外の測定にも応用できる可能性があるという。将来的には、尿検査で調べられる項目の幅を広げ、その場で健康状態を確認しやすくする技術として期待される。

 研究成果は2026年2月13日付で科学誌「Microsystem & Nanoengineering」に掲載された。

参考文献

家庭での尿検査を可能にする新技術―クレアチニン補正を実現する簡易・高感度バイオセンサを開発(東北大学)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20260216_02web_bio.pdf

Kao YH, Van Toan N, Abe T, Voiculescu I, Ono T. High sensitivity chemiresistive biosensor prepared via enzyme-catalyzed redox and nanoparticle conduction network. Microsyst Nanoeng. 2026 Feb 13;12(1):57. doi: 10.1038/s41378-025-01155-3. PMID: 41680133; PMCID: PMC12901010.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41680133/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

大腸がん検診、便潜血「陽性」の後が課題 精密検査の受診から結果把握まで「組織型検診」の体制整備を

大腸がん検診では、新しい検査技術の開発が進む一方、現在の検診を十分に活用できていないことが課題となっている。特に、便潜血検査で陽性となった人が確実に精密検査…

第64回日本癌治療学会学術集会の演台で、マイクを使って講演する坂東英明氏。
MCED検査の適正な利用に向けたガイダンス作成について講演する、国立がん研究センター東病院の坂東英明氏。(写真:編集部)

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が初の見解書を公表 世界でも先駆的な適正利用の考え方を提示

血液や尿などを使い、複数のがんをまとめて調べる「多がん種早期検出(MCED)」検査について、日本癌治療学会は2026年10月22日、初めての見解書となる「多…

第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。演台で講演する登壇者と、座長席で話を聞く2人の座長、参加者の様子。
2026年10月16~18日に鹿児島市で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。専門家による研究発表や討論が行われた。(写真:編集部)

MRIの撮影方法を工夫し、これまで分かりにくかった病気の特徴を捉える研究が進む

MRIの撮影方法を工夫することで、これまでの画像では分かりにくかった病気の特徴や、治療による変化を捉えようとする研究が進んでいる。注目されているのは、体内の…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
キャプション 第54回日本磁気共鳴医学会大会で開催された「子宮肉腫の鑑別、最新事情」のシンポジウム。良性の子宮筋腫と子宮肉腫を見分ける難しさや、MRIによる診断精度の向上、AIを活用した診断支援の研究などが紹介された。(写真:編集部)

子宮肉腫、良性の子宮筋腫と見分ける難しさに挑む MRIの診断方法を改善、AI活用の研究も進む

子宮にできる悪性腫瘍の一つである「子宮肉腫」。良性の子宮筋腫と似た画像を示すことがあり、MRIを使っても手術前に正確に見分けることが難しい場合がある。肉腫を…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

全身MRI、異常が疑われる場所をカラー表示で見やすく 画像を重ね合わせる「フュージョン」に注目

全身をMRIで調べる検査で、異常が疑われる部分と、体の形が分かる画像を重ね合わせる「フュージョン画像」が注目されている。2026年10月16日から鹿児島市で…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す