研究

ビタミンB12は不足だけでなく高値にも注意か 大腸がんとの複雑な関係

米国テキサス大学が、ビタミンB12値と大腸がん予後との関連を分析

手のひらにのせた錠剤やカプセルを、もう一方の手で取ろうとしている様子。
錠剤やカプセルを服用しようとする場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 大腸がん患者で血液中のビタミンB12値が高い場合、がんの転移や生存率の低下と関連する可能性が示された。

 米国テキサス大学の研究グループが2026年2月、ビタミンB12と大腸がんの予後との関係を分析し、その結果を発表した。

不足は問題だが、血中高値にも注意

医療従事者の前に、ビタミンB12を示す木製ブロックが置かれている様子。
ビタミンB12と健康管理に関する場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • ビタミンB12は赤血球の生成や神経の働き、DNAの合成・修復に欠かせない栄養素。
  • 不足は貧血や神経症状につながる一方、血液中のビタミンB12値が高い場合も注意が必要とされる。
  • 血中高値は、ビタミンB12そのものが原因ではなく、がんの進行や肝臓への影響の結果として表れている可能性がある。

 ビタミンB12は、赤血球をつくり、神経の働きを保ち、DNAの合成や修復を支える重要な栄養素だ。肉や魚、卵、乳製品などに多く含まれるため、通常の食生活では必要量を摂取できることが多い。一方で、菜食中心の人、高齢者、腸からの吸収に問題がある人では不足しやすい。

 ビタミンB12が不足すると、貧血や神経症状を引き起こすことがある。さらに、DNAの複製にも関わるため、不足が長く続けば細胞の異常につながる可能性もある。そのため、ビタミンB12不足は医学的に見過ごせない問題だ。

 一方で、血液中のビタミンビタミンB12が高い人では、がんが見つかる割合や死亡リスクが高いという報告もある。ただし、ビタミンB12そのものががんを引き起こすと分かったわけではない。がんの進行や肝臓への影響によって、結果的に血液中のビタミンB12値が高くなっている可能性がある。

 大腸がんでも、ビタミンB12値の高さが転移や生存率の低下と関係する可能性が指摘されている。

 今回の研究では、世界108施設の医療機関から集めた診療データを使い、大腸がんと診断された後、1年以内にビタミンB12値を測定していた3万7106人を調べた。

 患者はビタミンB12値によって「低い」「正常」「高い」の3つに分けられ、それぞれで生存期間や転移の状況が比較された。

高ビタミンB12値で生存期間が短く、転移も多い

医療従事者の前に、ビタミンB12を示す木製ブロックが置かれている様子。
ビタミンB12と健康管理に関する場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 大腸がん患者3万7106人の解析で、血液中のビタミンB12値が高い患者は生存期間が短い傾向が示された。
  • 高ビタミンB12値の患者では、診断時点でステージ4の割合が高く、肝臓、肺、腹膜への転移も多かった。
  • B12高値は、がんの原因ではなく、転移や肝機能の異常、生存率低下を示す手がかりになる可能性がある。

 解析の結果、血液中のビタミンB12値が高い大腸がん患者では、生存期間の中央値が59.4カ月だった。正常値の患者では129.8カ月、低値の患者では137.3カ月であり、高B12値の患者では生存期間が短い傾向が示された。

 年齢や性別、治療内容などの違いを調整した解析でも、高ビタミンB12値は生存率の低下と関連していた。また、高ビタミンB12値の患者では、診断時点で既にステージ4だった割合が高く、転移を伴う患者も多かった。診断から1年以内に見つかった転移も、肝臓、肺、腹膜のいずれでも高ビタミンB12値の患者で多かった。

 特に重要なのが肝臓との関係だ。肝臓はビタミンB12を蓄える臓器であり、大腸がんが転移しやすい場所でもある。今回の研究では、高ビタミンB12値の患者で肝転移が多く、肝臓の状態を示す検査値の異常も多かった。がんの進行や肝臓への影響が、ビタミンB12値の高さとして表れている可能性がある。

 さらに、B12を使う酵素「MTR」に関わる遺伝子の働きも調べた。大腸がん組織ではMTRの発現が高く、発現が高い患者では生存率が低い傾向が見られた。大腸がんの増殖や進行に、ビタミンB12に関係する代謝の仕組みが関わっている可能性を示す結果だ。

 研究グループは、今回の結果について、ビタミンB12値の高さが大腸がんの原因だと示すものではないと説明している。注目すべきは、B12高値が転移や肝機能の異常、生存率の低下を示す手がかりになり得る点だ。

 通常の食事からビタミンB12を摂ること自体を心配する必要はなく、不足を防ぐことは大切だ。ただし、ビタミンB12は一般的な健康診断で測定される項目ではない。今後、がんの進行や転移、肝機能の変化を反映する指標として使えるかどうかを検討する余地がある。

参考文献

Vitamin B12: the essential nutrient with a complicated cancer link(The Conversation)
https://theconversation.com/vitamin-b12-the-essential-nutrient-with-a-complicated-cancer-link-282527

Association between Vitamin B12 Levels and Colon Cancer Survival: A Global Network Study(Cancer Research Communications)
https://doi.org/10.1158/2767-9764.CRC-25-0557

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

ARCHIVE

新着記事

第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」の大型ロゴ。背景には大会名と大会テーマが表示されている。
第64回日本癌治療学会学術集会の会場に設置された「JSCO2026」のロゴ。2026年10月22~24日に神戸市で開催された。(写真:編集部)

大腸がん検診、便潜血「陽性」の後が課題 精密検査の受診から結果把握まで「組織型検診」の体制整備を

大腸がん検診では、新しい検査技術の開発が進む一方、現在の検診を十分に活用できていないことが課題となっている。特に、便潜血検査で陽性となった人が確実に精密検査…

第64回日本癌治療学会学術集会の演台で、マイクを使って講演する坂東英明氏。
MCED検査の適正な利用に向けたガイダンス作成について講演する、国立がん研究センター東病院の坂東英明氏。(写真:編集部)

多がん種早期検出(MCED)、日本癌治療学会が初の見解書を公表 世界でも先駆的な適正利用の考え方を提示

血液や尿などを使い、複数のがんをまとめて調べる「多がん種早期検出(MCED)」検査について、日本癌治療学会は2026年10月22日、初めての見解書となる「多…

第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。演台で講演する登壇者と、座長席で話を聞く2人の座長、参加者の様子。
2026年10月16~18日に鹿児島市で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の講演会場。専門家による研究発表や討論が行われた。(写真:編集部)

MRIの撮影方法を工夫し、これまで分かりにくかった病気の特徴を捉える研究が進む

MRIの撮影方法を工夫することで、これまでの画像では分かりにくかった病気の特徴や、治療による変化を捉えようとする研究が進んでいる。注目されているのは、体内の…

第54回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム会場。演台で講演する登壇者と座長、講演を聴く参加者の様子。
キャプション 第54回日本磁気共鳴医学会大会で開催された「子宮肉腫の鑑別、最新事情」のシンポジウム。良性の子宮筋腫と子宮肉腫を見分ける難しさや、MRIによる診断精度の向上、AIを活用した診断支援の研究などが紹介された。(写真:編集部)

子宮肉腫、良性の子宮筋腫と見分ける難しさに挑む MRIの診断方法を改善、AI活用の研究も進む

子宮にできる悪性腫瘍の一つである「子宮肉腫」。良性の子宮筋腫と似た画像を示すことがあり、MRIを使っても手術前に正確に見分けることが難しい場合がある。肉腫を…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

全身MRI、異常が疑われる場所をカラー表示で見やすく 画像を重ね合わせる「フュージョン」に注目

全身をMRIで調べる検査で、異常が疑われる部分と、体の形が分かる画像を重ね合わせる「フュージョン画像」が注目されている。2026年10月16日から鹿児島市で…

鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会の会場入口。大会名や開催日程が記された案内看板が設置されている。
2026年10月16~18日に鹿児島市の城山ホテル鹿児島で開催された第54回日本磁気共鳴医学会大会。MRIの画像解析やAI技術などに関する研究成果が発表された。(写真:編集部)

胆管や膵管のMRI検査、AIで撮影時間を約6割短縮

MRIを利用して肝臓の働きや腫瘍の特徴を詳しく調べる研究が進んでいる。また、人工知能(AI)を活用し、胆管や膵管の検査時間を短くする技術も登場している。20…

関連する病気から探す

カテゴリーから探す

あなたの立場から探す

あなたの関心から探す