研究

たばこの発がん物質がDNAに残す新たな「痕跡」、人のがんで確認

約7000件のがんゲノムを解析、腎臓がんや膵臓がんなど約350件から検出

開いた箱に入った複数の紙巻きたばこ。
たばこに含まれる発がん物質が、がん細胞のDNAに特徴的な変異の痕跡を残す可能性が示された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 たばこ特有の発がん物質が、人のがん細胞のDNAに特徴的な変異の痕跡を残すことが分かった。

 国際がん研究機関(IARC)などの研究グループが2026年7月に発表した。

たばこ特有の発がん物質が残すDNA変異を特定

口元に紙巻きたばこをくわえ、煙を吸っている人の横顔。
喫煙に関連する発がん物質は、肺がん以外のがんにも関わる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 研究グループは、たばこ特有の発がん物質であるNNNとNNKがDNAに残す特徴的な変異を調べた。
  • NNNやNNKから生じるPOBという構造がDNAに結び付き、特有の「POB変異シグネチャー」を生じさせることが分かった。
  • 細胞や動物の実験で得た変異パターンと、約7000件の人のがんゲノムデータを照合した。

 がんは、細胞のDNAにさまざまな変異が積み重なることで発生する。変異の現れ方は、紫外線や化学物質、加齢など、DNAに傷を与えた原因によって異なる。

 原因ごとに現れる特徴的な変異の組み合わせを「変異シグネチャー」と呼ぶ。DNAに残る指紋のようなもので、がんの発生にどのような要因が関わったのかを調べる手掛かりになる。

 研究グループが注目したのは、たばこに特有の発がん物質「NNN(N′-ニトロソノルニコチン)」と「NNK(4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン)」だ。いずれも「たばこ特異的ニトロソアミン」と呼ばれ、たばこの煙やたばこ製品に含まれる。

 研究では、培養した哺乳類の細胞や動物をNNNまたはNNKにさらし、DNAにどのような傷や変異が生じるかを調べた。

 その結果、NNNとNNKが体内で変化する過程で生じるPOB(ピリジルオキソブチル)と呼ばれる構造がDNAに結び付き、特徴的な変異パターンを生じさせることが分かった。研究グループは、この変異の特徴を「POB変異シグネチャー」として特定した。

 さらに、同じ変異が人のがんにも存在するかを確かめるため、約7000件のがん組織のゲノムデータを解析した。

腎臓がんや膵臓がんなど約350件のがんゲノムから検出

刻まれたたばこ葉の上に置かれた紙巻きたばこと喫煙具。
たばこ特有の発がん物質によるDNA変異の痕跡が、約7000件のがんゲノム解析で確認された。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • POB変異シグネチャーは約350件のがんゲノムから見つかり、血液がんや腎臓がん、膵臓がんなどが含まれていた。
  • 従来知られていた喫煙関連の変異とは異なる種類のがんで検出され、発がん物質ごとに影響を受けやすい臓器が異なる可能性が示された。
  • 変異が見つかっても喫煙が直接の原因とは断定できないが、たばこへの曝露と幅広いがんとの関係を調べる手掛かりになる。

 約7000件のがんゲノムを調べた結果、POB変異シグネチャーは約350件から見つかった。検出されたがんには、血液がん、腎臓がん、前立腺がん、膵臓がん、乳がんなどが含まれていた。

 注目されるのは、これまで知られていた喫煙関連の変異とは、見つかりやすいがんの種類が異なっていた点だ。

 従来、たばこの煙に含まれるPAH(多環芳香族炭化水素)との関連が知られるSBS4やSBS92と呼ばれる変異シグネチャーが、喫煙の痕跡として知られてきた。SBSは、DNAを構成する塩基が一つ別の塩基に置き換わる一塩基置換を指す略語である。SBS4やSBS92は、そのうち4番と92番の変異シグネチャーを示す。これらは、主に肺がん、肝臓がん、頭頸部がん、膀胱がんで多く見つかる。

 一方、今回特定されたPOB変異シグネチャーは、腎臓や膵臓、前立腺、乳房、血液など、これらとは異なる部位のがんから検出された。

 この違いから、たばこの煙に含まれる発がん物質の種類によって、影響を受けやすい臓器や、DNAに残る変異の特徴が異なる可能性がある。

 今回の成果は、肺がんだけでなく、たばこと関係する幅広いがんがどのように発生するのかを調べる手掛かりになる。将来は、がん細胞に残された変異から、発症に関わった可能性のある化学物質を推定する研究にも役立つ可能性がある。

 ただし、POB変異シグネチャーが見つかっただけで、その人の喫煙ががんの直接的な原因だったと断定できるわけではない。今回の研究は、細胞や動物の実験で得た変異パターンと、人のがんゲノムデータを照合したものだ。喫煙量や喫煙期間、がんになる危険性との関係を直接調べた研究ではない。

 とはいえ、たばこ特有の発がん物質が、人のがん細胞のDNAに特徴的な痕跡を残すことを示した点は重要だ。たばこへの曝露と幅広いがんとの関係を理解する手掛かりになる。

参考文献

Korenjak M, Temiz NA, Keita S, Chavanel B, Renard C, Sirand C, Cahais V, Mayel T, Vevang KR, Jacobs FC, Guo J, Smith WE, Oram MK, Tăbăran FA, Ahlat O, Cornax I, O’Sullivan MG, Das S, Nandi SP, Cheng Y, Alexandrov LB, Balbo S, Hecht SS, Senkin S, Virard F, Peterson LA, Zavadil J. Human cancer genomes harbor the mutational signature of tobacco-specific nitrosamines NNN and NNK. Genome Med. 2026 Jul 2. doi: 10.1186/s13073-026-01685-z. Epub ahead of print. PMID: 42393796.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42393796/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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