膵臓がんでは、最初にどの抗がん剤を選ぶかが重要。一方で、治療効果だけでなく副作用の強さも異なるため、「どの患者にどの治療が合うのか」を判断するのは簡単ではない。
米カリス・ライフサイエンシズ(Caris Life Sciences)は2026年8月、膵臓がん患者の腫瘍に含まれる膨大な遺伝子などの情報をAIで解析し、初回治療の選択を支援する方法を発表した。
膵臓がん、「どの抗がん剤を最初に選ぶか」が難しい
膵臓がんでは、腫瘍の遺伝子情報を詳しく調べ、治療選択に生かす研究が進んでいる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 進行膵臓がんでは、FOLFIRINOXやゲムシタビン+nabパクリタキセルなど複数の初回治療がある。
- どの治療が患者ごとに適しているかを見分ける、広く使われているバイオマーカーはまだ確立していない。
- AIは全エクソーム解析と全トランスクリプトーム解析の情報を組み合わせ、患者のリスクと治療効果を予測する。
進行した膵管腺がんでは、最初の治療として複数の抗がん剤を組み合わせる方法が使われる。
代表的なのが「FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)」と、「ゲムシタビン+nab(ナブ)パクリタキセル」だ。いずれも生存期間を延ばす効果が期待できる一方、治療の強さや副作用には違いがある。そのため、患者の体力や病状などを踏まえて治療法を選ぶ必要がある。
しかし、どちらの治療がその患者のがんにより適しているかを判断するための、広く使われているバイオマーカーはまだない。そのため現在は、患者の状態などを見ながら医師が治療を選択している。
今回、カリスが開発した「Caris AI Insights(カリスAIインサイツ)」は、一つの遺伝子だけを見るのではなく、腫瘍の遺伝子などの情報をまとめてAIで解析する。
具体的には、腫瘍のDNAのうち、タンパク質の設計図となる部分を幅広く調べる「全エクソーム解析」と、実際にどの遺伝子がどの程度働いているかをRNAから調べる「全トランスクリプトーム解析」のデータを使う。がん細胞がどのような遺伝子の特徴を持ち、それらが実際にどの程度使われているかをまとめてAIに解析させる仕組みだ。
AIは、まず腫瘍の遺伝子などの情報から患者を「標準的なリスク」と「高いリスク」に分類する。これとは別に、FOLFIRINOXとゲムシタビン+nabパクリタキセルのどちらの治療で、より大きな効果が期待できるかも予測する。
AIの予測と治療が一致した患者で生存期間に差
AIによる治療予測は、膵臓がん患者ごとの治療方針を検討する材料になる可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- AIがFOLFIRINOXの利益が大きいと予測した患者では、実際に同治療を受けた人の生存期間中央値は16.0カ月だった。
- 同じ予測群でゲムシタビン+nabパクリタキセルを受けた患者の生存期間中央値は9.9カ月だった。
- 腫瘍の遺伝子情報をAIで解析することで、患者ごとにより適した初回治療を選ぶ判断材料になる可能性がある。
検証では、標準的リスクとされた患者のうち、AIがFOLFIRINOXによる治療の利益が大きいと予測した患者を詳しく調べた。
その結果、実際にFOLFIRINOXを受けた患者の生存期間中央値は16.0カ月だったのに対し、ゲムシタビン+nabパクリタキセルを受けた患者では9.9カ月だった。
また、研究対象となった患者のおよそ半数は、AIモデルが推奨する治療とは異なる初回治療を受けていたという。
この結果は、同じ膵臓がんでも腫瘍の特徴によって、より効果が期待できる治療が異なることを示している。AIで腫瘍の性質を詳しく調べることで、負担の大きい治療がより必要な患者と、別の治療でも効果が期待できる患者を見分ける手掛かりになり得る。治療開始前に「この患者にはどの治療がより合いそうか」を判断する材料として期待される。