研究

ピロリ菌感染、膵臓がんの一部と関連か 愛知県がんセンターが約3600人を解析

抗体値と胃粘膜萎縮を組み合わせ、膵臓内の発生部位別に関連を解析

胃の中にピロリ菌が存在する様子を示した模式図。
胃に感染するピロリ菌は、胃がんの原因として知られるが、膵臓がんとの関連も検討されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 胃がんの主要な原因として知られるピロリ菌が、膵臓がんの一部にも関係している可能性が示された。

 愛知県がんセンター研究所の研究グループが2026年7月、論文発表した。

ピロリ菌の抗体値が高いほど膵臓がんと関連

人体の腹部にある膵臓を強調して示した医療イラスト。
膵臓がんとピロリ菌感染との関連を、膵臓内の発生部位別に解析した研究。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 膵臓がん全体では、ピロリ菌抗体が陽性か陰性かだけでは明確な差はなかった。
  • 一方、抗体値が10 U/mL高くなるごとに膵臓がんのオッズは1.04倍となり、抗体値が高いほど関連が強まる傾向がみられた。
  • 胆道がんでは、ピロリ菌感染との明確な関連は確認されなかった。

 ピロリ菌は主に胃に感染する細菌で、胃がんの原因として広く知られている。一方、膵臓や胆道のがんにも関係するのかは、これまでの研究で結果が一致していなかった。

 今回の研究では、2001~2013年に愛知県がんセンターを初診した18~79歳の人を対象に、血液からピロリ菌感染の状態を調べた。膵臓がん417人、胆道がん116人と、がんではない3086人を比較した。

 ピロリ菌は長期間感染すると、胃の粘膜が萎縮して血液中の抗体が低下し、感染していても抗体検査で陰性になる場合がある。そのため研究グループは、ピロリ菌の抗体検査だけでなく、胃粘膜の萎縮をみる「ペプシノゲン検査」も組み合わせて感染状態を評価した。

 さらに、年齢、性別、喫煙、飲酒、調査時期、遺伝性がんに関係する遺伝子の変化などの影響を考慮して解析した。

 その結果、胆道がんでは、ピロリ菌感染との明確な関連は見られなかった。胆管や胆のうなど、発生部位を分けて調べても同様だった。

 一方、膵臓がん全体では、単純にピロリ菌抗体が陽性か陰性かで比べると明確な差はなかったものの、抗体値が10 U/mL高くなるごとに、膵臓がんのオッズは1.04倍となった。オッズ比は、ある要因の有無などによって病気のオッズを比較する指標で、1を超えると、比較する基準より病気のオッズが高いことを示す。今回の結果では、抗体値が高いほど膵臓がんとの関連が強くなる傾向が見られた。

膵頭部は3.04倍、膵体部は1.75倍

青色の人体シルエットの中で、腹部の膵臓をオレンジ色で示した医療イラスト。
膵頭部や膵体部など、膵臓内の部位別にピロリ菌感染との関連が調べられた。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 膵頭部では、長期感染で胃粘膜の萎縮が進んだ可能性がある群で、がんのオッズが3.04倍だった。
  • 膵体部ではピロリ菌抗体陽性の人でオッズが1.75倍だった一方、膵尾部では明確な関連はみられなかった。
  • 発生部位によって関連の現れ方が異なる可能性があり、因果関係や除菌による予防効果は今後の検証が必要。

 膵臓のどこにがんができたかで分けると、さらに違いが見られた。

 十二指腸に近い「膵頭部」では、長期間のピロリ菌感染によって胃粘膜の萎縮が進み、抗体が低下した状態を反映する可能性がある群で、ピロリ菌抗体と胃粘膜萎縮の指標がともに陰性の群に比べ、膵頭部がんのオッズが3.04倍だった。

 膵臓の中央部分にあたる「膵体部」では、ピロリ菌抗体が陽性だった人は、陰性だった人に比べて膵体部がんのオッズが1.75倍となった。一方、脾臓に近い「膵尾部」では明確な関連は見られなかった。

 このことから研究グループは、ピロリ菌感染との関連が、膵臓内の発生部位によって異なる可能性があるとしている。

 一方、日本人約2万人を2010年まで追跡した国立がん研究センターのJPHC研究では、ピロリ菌感染や萎縮性胃炎と膵臓がん全体との明確な関連は確認されていない。今回の研究は、膵臓内の発生部位まで詳しく分けて解析した点が異なり、今後はより大規模な研究で同じ傾向が見られるかを確かめる必要がある。

 ピロリ菌除菌によって膵臓がんを予防できるかも、現時点では分かっていない。今後、因果関係や除菌による効果が確認されれば、胃がん予防を目的に行われてきたピロリ菌対策が、膵臓がんの一部の予防にもつながる可能性がある。

参考文献

ピロリ菌感染と膵臓がんリスクとの関連を示唆-胆道がんでは明確な関連を認めず、膵臓内の部位別解析で異なる関連パターン(愛知県がんセンター)
https://cancer-c.pref.aichi.jp/wp/wp-content/uploads/%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%AA%E8%8F%8C%E6%84%9F%E6%9F%93%E3%81%A8%E8%86%B5%E8%87%93%E3%81%8C%E3%82%93%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%82%92%E7%A4%BA%E5%94%86-.pdf

Helicobacter pylori Infection and the Risk of Biliary Tract and Pancreatic Cancers: Subsite-specific Associations in a Japanese Population(International Journal of Cancer)
http://doi.org/10.1002/ijc.70652

ヘリコバクター・ピロリ菌感染と膵がんリスクとの関連について―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―(国立がん研究センター)
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8392.html

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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