日本のがん検診は、検査を受けた後の流れが見えにくい。
要精密検査と判定された人は、本当に精密検査を受けたのか。どこで調べ、どのような診断になり、治療につながったのか。さらに、その積み重ねは死亡率の低下につながっているのか。
現在の仕組みでは、この流れを一人ひとりについて追い切ることが難しい。
第65回日本消化器がん検診学会総会で改めて前面に出たのは、がん検診を「受けて終わり」にしないための「組織型検診」の課題だった。
学会の議論は、日本の消化器がん検診で以前から続く情報連携の課題を、もう一度考える場になった。
「受けて終わり」では検診の効果が分からない
検診を「受けて終わり」にせず、結果説明、精密検査、診断、治療へつなげる仕組みが求められる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 組織型検診は、受診勧奨から検査、精密検査、診断、治療、その後の評価までを一つの流れとして管理する仕組み。
- 日本では自治体、職場、人間ドック、医療機関などに情報が分散し、要精検者がその後どの医療を受けたか追いにくい。
- 検診の利益や不利益を正しく評価するには、精密検査や治療の結果を戻し、継続的に追跡できる体制が必要となる。
組織型検診とは、検診を一回ごとの検査で終わらせず、対象者の把握、受診勧奨、検査、結果通知、精密検査、診断、治療、その後の評価までを一つの流れとして管理する仕組みをいう。
問われるのは、何人が受けたか、何人が要精密検査になったかだけではない。要精検者を実際の医療につなげ、その結果を次の受診勧奨や精度管理に戻せるかどうかだ。
しかし、日本ではこの流れがうまく回っていない。
自治体検診、職場の検診、人間ドック、医療機関での任意検診。受診の入口は多い。これは利点でもあるが、情報はそれぞれの場所に分散しやすい。
例えば、自治体検診で要精密検査と判定された人が、勤務先の近くの医療機関で精密検査を受ける。その結果が自治体に戻らなければ、検診後に何が起きたのかは分からない。職場の検診や人間ドックで異常を指摘された場合も、その後の診断や治療が公的な検診データに反映されるとは限らない。
要精検者が「どこへ行ったのか分からない」状態だ。
この状態では、検診の効果についても十分に評価できない。早く見つけて治療につながったのか。前がん病変を見つけて将来のがんを減らせたのか。不要な検査や過剰診断などの不利益はどの程度あったのか。利益と不利益を見ようとしても、検査後の情報から検証は難しい。
マイナポータルや医療情報の共有システム(Public Medical Hub、PMH)は、検診情報を共有する入口になる。ただ、組織型検診で必要なのは、結果を保存することだけではない。精密検査、病理診断、治療、がん登録、死亡情報まで、どう結びつけるかが問題になる。
検診を「受けて終わり」にしない。要精検者を医療につなげ、結果を戻し、次の検診に生かす。その継続管理こそが、組織型検診のキモになる。
医療DXは組織型検診を促すか
消化器がん検診では、要精密検査後の内視鏡検査や診断結果をどう把握するかが課題となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 全国医療情報プラットフォームや医療情報の共有システムなど、検診や診療情報をデジタルで共有する基盤の整備が進められている。
- データ化だけでは不十分で、精密検査、病理診断、治療、がん登録、死亡情報までどう結びつけるかが課題となる。
- 本人確認とは別に追跡用IDを設けるなど、個人情報を守りながら検診後の経過をつなぐ仕組みも検討課題となる。
検診後の情報を、紙の報告書や施設ごとの管理だけで追い続けるには限界がある。ここで医療DXが関わってくる。
医療DXは、単に電子カルテを医療機関に入れるだけの話ではない。必要な情報を、必要なときに、安全に使えるようにするためのプラットフォームづくりと言ってもいい。
国は、全国医療情報プラットフォーム、電子カルテ情報共有サービス、PMHなどを通じて、医療情報をつなぐ仕組みを整えようとしている。
電子カルテ情報共有サービスでは、健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリーといった文書や、傷病名、アレルギー、感染症、検査、処方などの情報を共通の形式で扱う方向が示されている。自治体検診でも、PMHを使って検診情報をデジタル化し、本人や関係機関が確認しやすくする取り組みが進む。
ただし、データ化すれば組織型検診が実現するわけではない。
精密検査の結果をどのように回していくか。病理診断や治療情報を検診データとどう結びつけるのか。がん登録や死亡情報と照合する場合、個人情報をどう守るのか。こうした詳細も決まらなければ、データの置き場所が増えるだけで、検診の全体的な流れは見えないまま残る。
学会では、ID連携や中核データ管理者の役割も取り上げられた。検診機関、医療機関、自治体、医師会、がん登録などに分かれた情報をつなぎ、要精検者を追う役割が必要になるためだ。
検診専用IDのような考え方も、その延長にある。マイナポータルは本人確認や情報閲覧の基盤としては活用できるが、検診機関、医療機関、自治体、がん登録などが共通して使う追跡用IDとして設計されたものではない。また、マイナンバーは法律で利用できる事務が限定されており、検診データに直接記録して、さまざまな機関が共通の番号として利用することは難しい。
このため、マイナンバーカードなどで本人を確実に確認しながら、検診データ上では別のIDを付ける方法が考えられる。個人を直接示す番号を広く共有せず、検診、精密検査、診断、治療、その後の経過を必要な範囲で結びつける仕組みとなる。
情報発信の課題にはメディアの活用も
がん検診では、検査後の精密検査や診断、治療までの情報連携が重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 組織型検診を社会に広げるには、専門家だけでなく受診者や自治体、職場にも課題を分かりやすく伝える必要がある。
- 学会側には、取材窓口やメディア向け説明の機会を整え、正確な情報発信を支える体制づくりが求められる。
- 検診を「受けて終わり」にしない仕組みとともに、その必要性を社会へ伝える開かれた情報発信も重要となる。
もう一つ、学会側には情報発信の課題がある。
学会では、消化器がん検診について、もっと社会に情報を届けるべきだという発言もあった。方向性は当然といえる。がん検診は、専門家だけの話ではない。受診する人、自治体、職場、医療機関が関わる社会的な仕組みだからだ。
情報発信を強めるなら、学会がメディアをどう受け入れるかも整理する必要があるだろう。学術集会においては、取材窓口をどこに置くのか。一般向けに説明できるメディア向けのブリーフィングの機会を設ける選択肢もある。検診の利益と不利益を、誤解が生じにくい形でどう伝えるのか。
現状では、取材窓口が見えにくく、参加費用も一般メディアには高い壁になり得る。取材後の成果を学会が確認するという運用は一般ではない。現状では、学会の内側で「情報発信が必要」と語っても、社会には届きにくいだろう。
必要なのは、取材を受ける体制を整え、メディアが正確に理解し、読者に伝えやすくする準備だ。組織型検診を社会に広げたいなら、学会もまた、情報を外へ出す仕組みを持つ必要がある。
検診を「受けて終わり」にしないためには、検査結果のデジタル化だけでは足りない。要精検者を追い、結果を戻し、次の検診に生かす仕組みがいる。さらに、その課題を社会に伝える開かれた発信体制も問われている。