コラム

ノーベル賞で知られるCRISPRは、がんを早く見つける検査技術になれるのか

リキッドバイオプシーでctDNAやRNAを検出する可能性 実用化へは大規模検証が課題

DNAの鎖を切断し、別の配列を挿入する様子を表した遺伝子編集の図。
DNA配列の切断や編集を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 遺伝子を狙って変えるCRISPR(クリスパー)は、ノーベル賞の対象となった研究として広く知られている。

 一般には、遺伝子を書き換える技術として語られることが多いが、現在は、がんを見つける技術としても注目されている。

 2025年に学術誌Cellsに掲載されたレビュー論文は、CRISPRを、血液などからがんの手がかりを探す「リキッドバイオプシー」に生かす可能性を整理した。

CRISPRは、がんの目印を探す技術としても期待される

DNAの二重らせん構造を、ピンセットで操作している様子を表した図。
DNAや遺伝子解析を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • CRISPRは遺伝子を書き換える技術として知られる一方、がんに特徴的なDNAやRNAを見つける診断技術としても注目されている。
  • 血液中のctDNA、mRNA、miRNA、DNAメチル化、細胞外小胞などを対象に、がんの手がかりを検出する研究が進んでいる。
  • DNAやRNAを増やして検出しやすくする技術と組み合わせることで、体への負担が少ない検査につながる可能性がある。

 PREVONOでこれまでも見てきたが、リキッドバイオプシーで問題となる点の一つは、血液などの中に含まれる、がんの手がかりがあまりにも少ないことだ。

 特に早期がんでは、がん由来のDNAやRNAはごくわずかで、従来の検査では見つけにくい場合がある。レビュー論文は、こうした弱点を補う候補として、CRISPRに注目している。

 CRISPRは、狙ったDNAやRNAの並びを見分ける仕組みだ。案内役になるRNAが標的を指定し、それに従って酵素が目的の配列を探し当てる。

 遺伝子を書き換える時は、その酵素が標的を切る方向で使われるが、診断では切ること自体が目的ではない。がんに特徴的なDNAやRNAを見つけた時だけ、光や色などの反応が出るようにして、目印を拾う方向で使う。

 狙う対象は、がん細胞から出てくるctDNA(循環腫瘍DNA)を中心に、mRNA(メッセンジャーRNA)やmiRNA(マイクロRNA)といったRNA、DNAメチル化と呼ばれる変化など。エクソソームを含む細胞外小胞も、応用先の一つとして紹介されている。

 対象となるがんも一つに限られない。レビュー論文では、ctDNAの検出では白血病に関連する遺伝子変異、RNAの検出では前立腺がんや非小細胞肺がん、食道がんに関係するmiRNAなどが紹介されている。さらに、DNAメチル化の検出、乳がんに関連する細胞外小胞、HPVに関連する子宮頸がん、EBVに関連する鼻咽頭がんなど、複数のがんやがん関連ウイルスを対象にした研究が取り上げられている。ただし、これらは「すでに幅広いがん検診に使える」という意味ではなく、がんごとの目印をCRISPRで検出できるかを探る研究段階の例である。

 論文では、CRISPR診断は、DNAやRNAを増やして検出しやすくする技術と組み合わせることで、高い感度を目指せる可能性があると説明している。

 将来的には、小型装置や試験紙のような形にして、外来やベッドサイドで使える可能性もある。体への負担が少ない検査を、より身近にできる可能性がある点が、この技術の特徴だ。

期待は大きいが、すぐに「がん検診に使える」とは言えない

ピペットで小型容器に液体を滴下している検査作業の様子。
検査容器に試料を加える実験・分析作業。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 早期がんでは血液中のがん由来DNAが極めて少なく、CRISPRで安定して拾えるかは今後の課題になる。
  • 多くの研究は人工的な試料や少数の患者サンプルを使った初期段階にあり、大規模な臨床検証が必要とされる。
  • 現時点では、早期発見や治療後モニタリング、外来での簡便な検査につながる候補技術として位置づけられる。

 ただし、このレビュー論文は、CRISPRを使ったがん検査がすぐに実用化できると述べているわけではない。

 最大の壁として挙げられているのは、早期がんでは血液中のctDNAが極めて少ないことだ。CRISPRは高い精度で目印を見つけられる可能性がある一方で、こうしたごく微量のがん由来DNAを、実際の検査で安定して拾えるかは、まだ十分に確かめられていない。特に、早期がんで問題になるような低い変異割合まで対応できるかは、今後の検証課題とされている。

 論文では、多くの研究がまだ人工的な試料や少数の患者サンプルを使った初期段階の検証にとどまっている点も指摘している。技術としては面白くても、実際の臨床でどこまで正確に使えるのか、偽陽性や見逃しがどの程度あるのかといった点は、なおデータが足りない。集団を対象とする本格的ながんスクリーニングに広げるには、大規模な臨床試験や規制面での整理が必要になる。

 この分野が注目される理由ははっきりしている。体への負担が少ない検査を、より早く、より簡単に、より身近にできる可能性があるからだ。論文全体を通して見ると、CRISPRは現時点では「すぐにがん検診を変える技術」というより、早期発見や治療後モニタリング、外来での簡便な検査につながる候補として位置づけられている。がん診断をどこまで身近にできるかという点で、今後も注目される。

参考文献

Slattery JR, Naung NY, Kalinna BH, Pal M. CRISPR-Powered Liquid Biopsies in Cancer Diagnostics. Cells. 2025 Oct 1;14(19):1539. doi: 10.3390/cells14191539. PMID: 41090767; PMCID: PMC12524292.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41090767/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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