研究

ウエアラブル端末に「皮膚に溶け込む」新たな形 目立たない薄膜電極を開発

眼球運動や脳波を12時間安定して計測 東京大学や慶應義塾大学などが発表

人体のシルエットと複数のデジタル画面が重なり、身体情報の解析を表したイメージ。
身体から得られる生体情報をデジタル技術で解析するイメージ。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

ウエアラブルデバイスは、腕時計型や眼鏡型だけでなく、皮膚に直接貼り付ける形へと進化する可能性がある。

東京大学や慶應義塾大学などの研究グループは、顔に貼っても見えにくく、触っても気づきにくい極薄の「ステルス皮膚電極」を開発した。皮膚になじむ見た目と触感を持ち、眼球運動やまばたき、表情筋の動き、脳波を測定できる。歩行や会話を含む12時間の装着でも、安定した計測が可能だった。

研究グループが2026年7月に発表した。

皮膚のように光を反射し、見た目も触感もなじむ

頬に従来フィルムとステルス皮膚電極を貼った状態を、注釈なしと注釈ありで比較した写真。
頬に貼付した従来フィルムとステルス皮膚電極の見え方の比較。(出典:東京大学)
  • 顔は心理・認知状態に関わる生体信号を得やすい一方、従来の電極は目立ちやすく、装着者の心理状態に影響する課題があった。
  • 開発した電極は、銀ナノワイヤと酸化チタン粒子を含む厚さ約200nmの薄膜で、皮膚に近い光の反射と触感を再現する。
  • 見た目や触感から認識されにくく、電極を意識することで脳波や心理状態が変化する問題を抑えられる可能性が示された。

今回の電極で調べられるのは顔から得られる生体信号。

顔は、目の動きやまばたき、表情筋、脳波など、人の心理状態や認知状態に関わる情報を多く得られる場所だ。一方、従来の電極は装着していることが目立ちやすく、見た目の違和感や心理的な負担が、日常生活での使用を妨げてきた。

特に、表情や脳波を測る場合には、「電極を付けている」という意識そのものが、測定したい心理状態を変えてしまう可能性がある。

そこで研究グループは、皮膚に貼っても目立ちにくく、触っても気づきにくい極薄の電極を開発した。

電極は、透明で電気を通す銀ナノワイヤの層と、皮膚に近い光の反射を再現する極薄膜からできている。一般的な透明フィルムは表面が滑らかなため、皮膚に貼ると光が強く反射し、テカって見えやすい。

今回使ったのは、酸化チタンのナノ粒子を含む厚さ約200nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)のゴム状の薄膜だ。200nmは0.0002mmに当たる。この薄膜が皮膚のように光をやわらかく反射することで、貼った部分と周囲の皮膚との見た目の差を小さくした。

実験では、装着した本人だけでなく、周囲の観察者も、見た目や触感から電極を認識しにくいことが確認された。

従来は、電気を通すジェルを使った電極を皮膚に貼り付けて、生体信号を測っていた。顔に付けると見た目に分かりやすく、装着者が意識しやすい。ゲル電極を付けた自分の顔写真を見ると、脳波や心理状態に変化が生じたが、ステルス皮膚電極では同じような変化は見られなかった。電極の見た目が心理状態そのものに影響する問題を抑え、より自然な状態で生体信号を測れる可能性が示された。

日常の中で目や筋肉、脳の変化を測る可能性

顔に従来ゲル電極を貼った状態と、目立ちにくいステルス皮膚電極を貼った状態を比較した写真。
従来ゲル電極と、肌上で目立ちにくいステルス皮膚電極の比較。(出典:東京大学)
  • 顔に貼った電極で、眼球運動やまばたき、顎の筋肉の動き、脳波などを記録できた。
  • 眼球運動は従来のジェル付き電極と同程度に鮮明で、歩行や会話を含む12時間の装着でも安定して測定できた。
  • 日常生活での健康評価や早期受診への活用、スマートフォンやAR・VR機器の非接触操作への応用が期待されるが、汗や化粧、皮膚への影響などの検証が必要だ。

研究グループは、開発した電極を顔に貼り、目の動きやまばたき、顎の動き、脳波を測定した。

目の動きは「眼電図」、咀嚼や顎の動きは「筋電図」、脳の活動は「脳波」として記録できる。今回は、目を閉じたときに現れやすい脳波のアルファ波も捉えた。

眼球運動の測定では、従来のジェル付き電極と同程度の鮮明な信号が得られた。さらに、歩行や会話を含む日常的な動作をしながら12時間装着しても、安定して測定できた。

顔に複数の電極を貼っても見た目が変わりにくく、装着していることを意識しにくい点も特徴だ。病院や研究室だけでなく、普段の生活に近い状態で目の動きや表情、脳の活動を継続的に調べられる可能性がある。

こうした技術は、心理状態や認知状態の変化、咀嚼機能、脳に関係する病気の評価などに応用できる可能性がある。将来、日常生活の中で小さな変化を捉え、詳しい検査や早めの受診につなげられれば、検査や予防の新しい形になり得る。

また、目の動きやまばたき、顔の筋肉の動きを読み取り、スマートフォンやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)機器を手を使わずに操作する技術にもつながる。

ただし、現時点では、電極の見えにくさと生体信号を測る性能を実験的に示した段階だ。汗や化粧、屋外の光、肌の色や状態の違い、長時間使用による皮膚への影響なども、今後さらに確かめる必要がある。

今回の成果は、ウエアラブルデバイスを「身に着ける機器」から、本人にも周囲にも存在を意識させにくい機器へと発展させる技術として注目される。

参考文献

ウェアラブルデバイスは「見えない」時代へ ――見ても触ってもわからないステルス皮膚電極を開発―
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/5102/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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