膀胱がんが周囲へ広がる境界部で、がんの進行や患者の予後に関わる可能性のある遺伝子群が明らかになった。
東京慈恵会医科大学の研究グループが2026年4月に発表した。
筋層に達していない膀胱がんでも進行に注意
腹部の症状について医師に相談する診察場面。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 筋層非浸潤性膀胱がんは早期のがんとされるが、再発しやすく、一部は進行することがある。
- 再発や進行のリスクを見極めるため、がんと周囲の組織が接する浸潤境界部に注目した。
- 一塊で切除した検体を使うことで、がんと周囲組織の位置関係を保ったまま詳しく解析できた。
膀胱がんは、がんが膀胱の筋層まで及んでいるかどうかによって大きく分けられる。筋層まで達していないものは筋層非浸潤性膀胱がんと呼ばれ、新たに診断される膀胱がんの多くを占める。
一方で、筋層非浸潤性膀胱がんは、早い段階のがんといえるものの、再発しやすいことが課題だ。さらに一部では、がんが筋層まで入り込み、より進行した状態になることもある。そのため、再発や進行のリスクが高い患者を早い段階で見極めることが重要となる。
こうしたリスクを見極める上で注目されるのが、がんと周囲の組織が接する「浸潤境界部」だ。がんが周囲の組織へ広がっていく場所にあたり、進行の兆しを映し出す可能性がある。今回の研究では、この浸潤境界部に着目し、どのような遺伝子の変化が起きているかを調べた。
そこで研究グループは、膀胱がんの腫瘍を細かく分けず、周囲の組織とともに一塊で切除した検体に注目した。従来の方法では、検体が細かく分かれたり、熱の影響を受けたりすることがあり、がんと周囲の組織の位置関係を詳しく調べにくい場合があった。これに対し、一塊で切除した検体では、がんと周囲の組織がどのように接しているかを確認しやすい。
研究グループは、この検体を使い、組織の場所ごとに遺伝子の働きを調べた。これにより、がんの中心部だけでなく、がんが周囲の組織と接する部分で、どのような変化が起きているかを詳しく調べられる。
今回の研究では、がんが膀胱の筋層には達していないものの、粘膜の下にある組織まで入り込んだ膀胱がん7例を解析した。研究グループは、組織画像と遺伝子の情報を基に、腫瘍の上部と、がんが周囲の組織と接する境界部に分けて詳しく調べた。
進行に関わる可能性がある15の遺伝子群
遺伝子配列の解析や研究をイメージしたイラスト。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 深く入り込んでいるタイプの膀胱がんでは、浸潤境界部で15の遺伝子群が強く働いていた。
- これらの遺伝子群には、がん細胞が周囲へ広がりやすくなる上皮間葉転換に関わるものが多く含まれていた。
- 15の遺伝子群は患者の生存期間とも関連し、将来的に予後予測や治療方針の判断材料になる可能性がある。
研究グループは、筋層には達していないものの、粘膜の下にある組織まで入り込んだ膀胱がんについて、がんの広がりの深さによる遺伝子発現の違いを調べた。その結果、より深く入り込んでいるタイプのがんでは、周囲の組織と接する境界部で、15の遺伝子群が強く働いていることが分かった。
この15の遺伝子群には、「上皮間葉転換」と呼ばれる変化に関わるものが多く含まれていた。上皮間葉転換とは、がん細胞が周囲へ広がりやすくなる性質を持つようになる変化を指す。
このことから、筋層まで達していない段階でも、がんと周囲の組織が接する部分では、進行につながる変化が既に起きている可能性がある。
さらに研究グループは、公開されている膀胱がん患者のデータを使い、この15の遺伝子群が患者の経過と関係するかを調べた。その結果、これらの遺伝子が強く働いている患者では、生存期間が短い傾向が認められた。この結果から、今回見つかった15の遺伝子群は、がんが広がりやすい性質を示すだけでなく、その後の経過を見通す手がかりになる可能性が考えられた。
ただし、現時点では研究段階の結果であり、すぐに一般的な検査として使えるわけではない。将来的には、再発や進行のリスクを見積もる検査や、治療方針を考える際の判断材料につながることが想定される。
膀胱がんでは、再発や進行のリスクに応じて、経過観察の方法や追加治療の必要性を検討する場面がある。今回のように、がんと周囲の組織が接する部分で起きている変化を調べることで、治療方針を考える際の見通しを得やすくなる可能性がある。
参考文献
膀胱がんの浸潤境界部でがんの進行と予後に関連する遺伝子群を発見 〜塊のまま切除した検体からがんの進行を空間的に解析〜(東京慈恵会医科大学)
https://www.jikei.ac.jp/press/detail/?id=46836
Yoshihara K, Urabe F, Umemori M, Suzuki H, Ito K, Yanagisawa T, Sato S, Sekine K, Kimura T, Yamamoto Y. Spatial transcriptomics of en bloc transurethral resection of bladder tumor specimens defines an invasive-front gene expression signature. NPJ Precis Oncol. 2026 Apr 14. doi: 10.1038/s41698-026-01417-x. Epub ahead of print. PMID: 41981124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41981124/