研究

早期膵臓がん10例中9例を血液に含まれる遺伝子の働きの変化から検出

従来の腫瘍マーカーは1例のみ 金沢大学が新たな診断法の可能性を報告、実用化までは課題も

医療従事者が、バーコードラベルの付いた血液検体の採血管を持っている様子。
血液検査によって、膵臓がんの精密検査が必要な人を絞り込める可能性がある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

診断が難しい早期膵臓がんを、血液中の細胞で起きる遺伝子の働きの変化から見つけられる可能性が示された。

金沢大学の研究グループは、血液中の遺伝子発現パターンを調べることで、ステージ0~1の早期膵臓がん10例中9例を検出したと発表した。一般的に使われる腫瘍マーカーCA19-9で検出できたのは、10例中1例のみだった。

血液中の56種類の遺伝子から調べる

医療従事者が患者の腕から採血している様子。
早期膵臓がんを血液検査で見つけるため、全血に含まれるmRNAの変化を調べる試み。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 膵臓がんは早期では症状が出にくく、見つかった時点で進行していることが多いため、早期発見が重要になる。
  • 研究グループは、がんに反応して血液中の免疫細胞などに現れる、mRNAの発現パターンに注目した。
  • 全血に含まれるmRNAを56種類の遺伝子プローブで測定し、膵臓がんに特徴的な遺伝子の働き方があるかを調べた。

膵臓がんは、早い段階では症状が現れにくく、周囲の臓器への浸潤や遠隔転移も起こりやすい。発見時にはすでに進行していることが多く、早期に診断される患者は全体の2~3%程度にとどまるとされる。

国立がん研究センターの統計では、2009~2011年に診断された膵臓がん患者の5年相対生存率は8.5%だった。一方、金沢大学附属病院のデータでは、5年生存率はステージ0で100%、ステージ1で74.4%となっており、早期発見が予後を大きく左右する。

研究グループが着目したのは、膵臓がんに反応して血液中の免疫細胞などに現れる、遺伝子の働き方の変化だ。遺伝子が働くときには、DNAの情報を写し取った「mRNA」と呼ばれる物質がつくられる。mRNAの量を調べることで、どの遺伝子がどの程度働いているかが分かる。

体内にがんができると、がん細胞だけでなく、それに反応する免疫細胞の状態も変わる可能性がある。

今回の検査では、腕から採った血液を血清や血球に分けず、血球を含む全血の状態で使った。そこに含まれるmRNAを、56種類の遺伝子プローブと呼ばれる目印を使って測定し、その組み合わせから膵臓がんに特徴的な発現パターンがあるかを調べた。

研究グループはこれまで、この遺伝子発現パターンとCA19-9を組み合わせた膵臓がん診断キット「パンレグザ」を開発してきた。ただし、早期膵臓がんをどの程度見つけられるかは、十分に分かっていなかった。

そこで、2020~2024年に金沢大学附属病院を受診した膵臓がん患者253例のうち、ステージ0~1だった10例を対象に検証した。比較対象には、がんのない104例を用いた。

検出率90%の一方、がんのない人の約3割も異常判定

研究室で、医療従事者が血液検体の入った採血管を確認している様子。
血液中の遺伝子発現パターンから、早期膵臓がんの兆候を捉える研究が進められている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
  • 血液中の遺伝子発現パターンを調べる方法では、ステージ0~1の早期膵臓がん10例中9例を検出し、感度は90%だった。
  • 一方で、がんのない104例のうち31例も異常と判定され、特異度は約70%にとどまった。
  • 今後は、より多くの患者で検証し、偽陽性を減らす判定方法や腫瘍マーカーとの組み合わせを検討する必要がある。

血液中の遺伝子の働きを調べる方法では、早期膵臓がん10例のうち9例を検出できた。がんのある人を正しく陽性と判定できた割合を示す感度は90%だった。一方、一般的な腫瘍マーカーCA19-9で検出できたのは10例中1例で、感度は10%にとどまった。

早期膵臓がんでは、CA19-9が十分に増えないことも多い。血液中の細胞に現れる遺伝子の働きの変化を調べる方法なら、腫瘍が小さい段階でも、体ががんに反応した兆候を捉えられる可能性がある。

ただし、課題も見つかった。がんのない104例のうち、31例が遺伝子発現パターンで異常と判定された。約3割が、がんがないにもかかわらず陽性となった計算だ。がんのない人を正しく陰性と判定できた割合を示す特異度は、約70%だった。

CA19-9では、がんのない104例のうち異常だったのは3例のみだった。遺伝子発現パターンは早期がんを捉えやすい一方で、炎症など、がん以外の体の変化にも反応している可能性がある。

遺伝子発現パターンとCA19-9を組み合わせた診断キット「パンレグザ」では、感度60%、特異度93.3%だった。早期膵臓がんを見つける力は遺伝子発現パターン単独より下がったが、がんのない人を誤って陽性と判定する割合は減った。

今回の研究は、1つの病院で早期膵臓がん10例を調べた予備的な検証だ。一般の健診でも同じように9割を検出できるとは、まだいえない。今後は、より多くの患者を対象に検証し、がんのない人を誤って陽性としにくい判定方法や、ほかの腫瘍マーカーとの組み合わせを探る必要がある。

血液検査で膵臓がんの疑いが高い人を絞り込めれば、MRIや超音波内視鏡などの詳しい検査につなげやすくなる。将来は、膵臓がんを確定する検査ではなく、精密検査を優先して受ける人を選ぶための検査として活用できる可能性がある。

参考文献

早期膵臓がんの90%を血液検査で検出することに成功(金沢大学)
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2026/07/20260715_re.pdf

Miyazawa M, Takatori H, Nishitani M, Takata N, Seki A, Nio K, Iida N, Shimakami T, Yamashita T. Pilot validation of a whole-blood mRNA expression-based diagnostic system for early-stage pancreatic ductal adenocarcinoma: a single-center case-control diagnostic accuracy study. Sci Rep. 2026 Jul 15;16(1):19368. doi: 10.1038/s41598-026-58684-8. PMID: 42457749; PMCID: PMC13373157
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42457749/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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