研究

がん細胞は栄養不足をどう生き延びるのか

ビタミンB7が関わる「栄養の切り替え」 スイスのローザンヌ大学が報告

顕微鏡で試料を観察する研究者の手元
顕微鏡を用いて試料を観察する研究現場。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 がん細胞が栄養不足を乗り越える仕組みに、ビタミンB7、別名ビオチンが深く関わっていることが明らかになった。

 スイスのローザンヌ大学の研究グループが2026年2月に発表した。

がん細胞は栄養不足でも生き延びる

細胞の抽象的なイラスト
細胞の広がり。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • 多くのがん細胞は、増殖に必要な材料を作るためにグルタミンに頼っている。
  • グルタミンが不足しても、がん細胞は別の栄養経路に切り替えて生き延びることがある。
  • 今回の研究では、「ピルビン酸」がグルタミン不足を補う材料として注目された。

 細胞は生きるために、周囲の栄養状態に応じて代謝を変化させている。中でもグルタミンは、タンパク質やDNAの材料を作るうえで重要なアミノ酸で、多くのがん細胞はこの栄養素に頼っている。

 この性質は「グルタミン依存」あるいは「グルタミン中毒」と呼ばれ、がん治療の標的として注目されてきた。

 ただし、がん細胞は単純ではない。がん細胞では、グルタミンが不足しても、別の栄養経路に切り替えることで増殖を続ける場合がある。

 今回の研究では、がん細胞がどの栄養を使えばグルタミン不足を補えるのかを調べた。研究チームは、さまざまな栄養素を細胞に加えて増殖の変化を見たほか、栄養素が細胞内でどのように代謝されるかを追跡した。さらに、どの遺伝子がこの仕組みに関わるのかも調べた。

 研究チームが特に注目したのは、「ピルビン酸」という物質。ピルビン酸は、細胞が栄養を使う過程でできる物質で、グルタミンが足りないときには、その不足を補う材料として働くことがある。

栄養は、がんも利用する

店頭に並ぶビオチンのサプリメント製品ビオチンを含むサプリメントが棚に並ぶ様子。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
ビオチンを含むサプリメントが棚に並ぶ様子。栄養は、病的な細胞にも利用されるので過不足ない摂取が重要と考えられる。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
  • がん細胞がピルビン酸を使うには、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素が必要だった。
  • この酵素が働くにはビタミンB7が欠かせず、不足するとピルビン酸を使いにくくなった。
  • 遺伝子の変異も関係し、がん細胞がどの栄養経路に頼るかを左右する可能性が示された。

 検討の結果、がん細胞がピルビン酸を利用するには、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素が必要であることが分かった。さらに、この酵素が十分に働くには、ビタミンB7、すなわちビオチンが欠かせなかった。

 ビオチンが不足すると、この酵素は十分に働かなくなる。その結果、がん細胞はピルビン酸をうまく使えず、グルタミン不足を補うことができなくなった。ビオチンは、がん細胞が別の栄養経路に切り替えるための鍵になっていたのである。

 研究チームはさらに、「FBXW7」という遺伝子にも注目した。FBXW7は、がんで変異が見つかることの多い遺伝子だ。今回の研究では、FBXW7に変異があると、ピルビン酸を使うために必要な酵素が減ることが分かった。これにより、細胞はピルビン酸を利用しにくくなり、グルタミンにより強く頼る状態になる。

 この発見は、がん細胞の弱点を考えるヒントになる。がん細胞は、一つの栄養経路が使いにくくなっても、別の経路に切り替えて生き延びることがある。今回の研究は、その切り替えにビタミンB7や関連する酵素、FBXW7という遺伝子が関わることを示した。

 今回の研究が示したのは、ビタミンそのものの良し悪しではなく、がん細胞が栄養をどのように使い分けているか。栄養は体を支える一方で、がん細胞などの病的な細胞も利用することがある。だからこそ、特定の栄養素を極端に増やしたり減らしたりするのではなく、通常の食事から必要な栄養を過不足なく摂ることが大切となる。

参考文献

This missing vitamin could stop cancer cells in their tracks(University of Lausanne)
https://www.unil.ch/news/en/1770299899860

Lisci M, Vericel F, Liu Y, Gallart-Ayala H, Ivanisevic J, Skinner OS, Jourdain AA. Functional nutrient-genetic profiling reveals biotin and FBXW7 are essential to bypass glutamine addiction. Mol Cell. 2026 Mar 5;86(5):901-916.e10. doi: 10.1016/j.molcel.2026.02.002. Epub 2026 Feb 25. PMID: 41747732.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41747732/

星良孝

この記事の執筆者

星良孝

PRENOVO編集長。東京大学農学部獣医学課程卒。日経BPにて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集・記者を担当後、エムスリーなどを経て2017年にステラ・メディックスを設立。ヘルスケア分野を中心に取材・発信を続ける。獣医師。

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